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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル 論文読解(第1回) [★★]

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臨床試験の論文読解練習として、新型コロナウイルス感染症治療薬 レムデシビルの論文を読んでみましょう。
以下の記事で紹介した論文について、詳細を解説していきます。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル②(治療効果) [★~★★]

結構長くなりますので、5回に分けて紹介したいと思います。
以下を予定しています。

第1回:論文取得、試験概要1(目的、試験デザイン、組み入れ基準(選択基準・除外基準)、投与方法)
第2回:試験概要2(評価項目、サブグループ解析)
第3回:試験概要3(症例数の設定、解析方法)、結果1(患者背景)
第4回:結果2(有効性:主要評価項目)
第5回:結果3(有効性:副次評価項目、安全性)

それでは1回目です。

■論文の取得
[書誌情報]
N Engl J Med. 2020 May 22; NEJMoa2007764. doi: 10.1056/NEJMoa2007764

まずは上記論文を取得してください(この論文はフリーで取得できます)。
現時点(2020年8月時点)では印刷物として発行されていないようで、巻・号・頁番号が決まっていませんので、doiコードから取得します。

個別の薬に関する情報収集②(論文) [★★]
で説明した通り、doiの情報がある場合は、
https://doi.org/(doiコード) とすればよいので、
https://doi.org/10.1056/NEJMoa2007764
で論文の頁に移行します。

PDFのボタンがサイドまたは下にありますので、そちらからPDFファイルを取得してください。
あわせて「Supplementary Material」をダウンロードしてください。
頁の下の方にあります。
このうち、「Supplementary Appendix」に補足データなどがあり、「Protocol」には試験の詳細が記載されています。
いずれも今回使用します。
(「Protocol」は解析方法の詳細など、論文本体や「Supplementary Appendix」に記載されていなかった内容を確認するために用いますが、NEJMのProtocolは頁数が多いので、慣れていないと該当箇所を見つけにくいかと思います)

■試験デザイン
ABSTRACTのMETHODS 1行目~に記載されていますが、プラセボとの比較試験です。

試験デザイン:二重盲検、無作為化、プラセボ対照試験(第Ⅲ相試験)

2頁目冒頭からはじまるイントロダクションの部分(この論文では「イントロダクション」との記載はありませんが)、2段落目の5行目~に「phase 3=第Ⅲ相試験」の記載もあります。

なお、METHODSのDESIGN 2行目~から分かりますが、「多施設共同試験」です。
(論文中では「多施設共同:multicenter」の用語が掲載されていませんが、Protocolには「multicenter」と記載されています)

~こちらで復習~
臨床試験の試験デザイン① [★★]
臨床試験の試験デザイン②(無作為化) [★★]
~こちらで復習 ここまで~

■試験の目的
たいてい、イントロダクションの最後の段落に記載されています。
(この論文では試験デザインと同じ2段落目)

Covid-19(SARS-CoV-2の感染)が確定された入院患者(成人)を対象に、レムデシビルの有効性と安全性について、プラセボを対照に比較検討する。
というのが目的です。

最後の5行に「preliminary results」とありますね。
本ちゃんの結果ではなく、速報としての結果ということです。
(新型コロナで承認を急いでましたので)

なお、最後から2行目の「Adaptive Covid-19 Treatment Trial(ATCC-1)」というのは、本試験の名称です。

ここから、論文の<METHODS>に入ります。

<METHODS
■試験デザイン補足(試験実施国と施設、無作為化について)
●試験実施国と施設
METHODS DESIGNの3行目~記載されています。
60施設+13サブ施設で、そのうち米国が多くを占めており45施設です。
(国を数えると10ヵ国あります)
日本が1施設含まれています。

●無作為化
METHODS DESIGNの6行目~
レムデシビル群とプラセボ群に1:1で無作為化しています。

METHODS DESIGNの8行目~
「Randomization was stratified by study site and disease severity at enrollment」
とあるように、「層別無作為化」を行っています。

「層別無作為化」については以下で説明しています。

~こちらで復習~
臨床試験の試験デザイン②(無作為化) [★★]
~こちらで復習 ここまで~

層別因子は「施設」(study site)と「重症度」(disease severity)です。
レムデシビル群とプラセボ群で、施設や重症度に片寄りが生じないように振り分けているということです。

■組み入れ基準(選択基準と除外基準)
試験にどのような患者さんが組み入れられたかのか、については必ず確認しておくべき事項です。
試験前に決められるのが組み入れ基準(選択基準と除外基準)で、組み入れられた患者さんが実際にどのような患者さんであったのかをデータ化したものが「患者背景」(ベースライン時のデータ)です。
よって、組み入れ基準(選択基準と除外基準)と「患者背景」はセットで見比べるとよいかと思います。

~こちらで復習~
臨床試験 選択基準と除外基準、外的妥当性 [★★]
臨床試験 患者背景(ベースライン特性) [★★]
~こちらで復習 ここまで~

さて、本試験の組み入れ基準(選択基準と除外基準)ですが、本文に掲載されていません。
(全く記載がないのはめずらしいのですが…)
仕方ないので、「Supplementary Material」の「Protocol」を確認することにします。
(「Supplementary Appendix」には記載されていますが、「Protocol」の方が分かりやすそうなので、そちらを紹介します)

20頁一番下から(PDFではなく、頁下に記載されている頁番号です)
「5.1 Inclusion Criteria」…選択基準 1~7の基準

21頁(PDFではなく、頁下に記載されている頁番号です)
「5.2 Exclusion Criteria」…除外基準 1~5の基準

※この試験はベクルリーの添付文書や審査報告書に記載があり、そちらに日本語で主な選択基準と除外基準が掲載されていますので、「Protocol」の英語表記と見比べてみましょう。

●主な選択基準(簡略化して記載しました)
以下全てを満たす必要がある
・Covid-19(SARS-CoV-2の感染)が確定されている…PCR検査陽性
・入院中
・以下のうち1つ以上が認められる
– 肺炎画像所見(胸部X線、CTスキャン等)
– SpO2が94%(室内気)以下
– 酸素吸入を要する
– 人工呼吸器管理

今回の試験、重症度の幅が広いです。
後ほど重症度別の評価の話がでてきますので、そちらに注意してみていくことにしましょう。

なお、SpO2の基準や酸素吸入、人工呼吸器管理がどの程度の重症度なのかについては、厚生労働省から出ている「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」の「重症度分類とマネジメント」の項の「重症度分類」を参照すると分かりやすいです。
(現時点(2020年8月時点)では第2.2版が最新です。フリーでダウンロードできますので、「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」で検索してみてください)

以下にも掲載しておきます。
(厚生労働省の資料ですので、掲載しても問題ないと思いますが、万が一削除要請などあった場合には、削除いたします)

出典:
新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第2.2版(2020)
令和2年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業
一類感染症等の患者発生時に備えた臨床的対応に関する研究

●主な除外基準(簡略化して記載しました)
・ASTまたはALTが基準範囲上限の5倍超…肝機能が低下している患者さん
・腎機能が低下している患者さん(eGFR<30mL/minの患者さん)
・妊婦中または授乳中の患者さん
・治験薬にアレルギーを有する患者さん
→本試験ではこれらの患者さんが除外されているので、肝臓や腎臓の悪い患者さんにおける臨床データはまだ存在しない、ということに注意しましょう。また、妊婦や授乳中の患者さんへの影響も現時点では不明ということになります。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル③(安全性) [★~★★]
こちらにも関連内容を記載しています。

■投与方法
METHODS DESIGNの13行目「Remdesivir was administered intravenously…」~頁右の段落が変わる手前(「The trial protocol was approved…」の手前)までです。
簡単にまとめると、以下のようになります。
重要なのは、いずれの群も標準治療に上乗せして治験薬(レムデシビルまたはプラセボ)を投与しているということです。

●レムデシビルの投与(静脈内投与)
・1日目 200mg
・2~10日目 100mg(途中で退院または死亡した場合はそのときまで(10日よりも前))

●プラセボの投与
・レムデシビルと同じスケジュール、同じボリュームを投与
・プラセボが不足した場合、生理食塩水で代用(盲検化維持のため、不透明バッグとチューブカバーを使用)

●両群で共通(上記以外の治療)
・全ての患者が、各病院における標準治療に従った支持療法を受ける
→逆に言うと、標準治療にレムデシビルまたはプラセボを上乗せしています
・病院にCovid-19の他の治療(レムデシビル以外の治療)に関する指針やガイドラインがあれば、その治療を受けることが可能
・指針やガイドラインがない場合、他の治療法の試験的使用や薬の適応外使用は1~29日まで禁止

第1回目はここまでとしますが、いかがでしたでしょうか?
どのような患者さんが試験に組み入れられたのか、については特に重要ですので、選択基準(重症度など)についてよくおさえておきましょう。
それではまた。

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