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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル②(治療効果) [★~★★]

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2つ目の記事では、レムデシビルの治療効果について、臨床試験の結果を説明したいと思います。
1つ目の記事と同様、なるべく一般の方にも理解できる内容で記載してみました。
それでは、はじまりはじまり~!

臨床試験は現在継続中でありますが、速報としての結果が一部報告されています。
レムデシビルの特例承認の審査においては2試験の速報などを基に評価がなされ、添付文書にもその結果が掲載されています。
今回はこの2試験の速報のうち、プラセボ(偽物の薬)との比較がなされた試験の結果を紹介します。

なお、前回も記載しましたが、レムデシビルの製品名は「ベクルリー」といいます。

●レムデシビル(ベクルリー)の治療効果 ~プラセボとの比較試験(速報)の結果紹介~
[出典:N Engl J Med. 2020 May 22; NEJMoa2007764. doi: 10.1056/NEJMoa2007764、ベクルリー添付文書、ベクルリー審査報告書]

この臨床試験は世界の10ヵ国73施設(主に米国…45施設、日本1施設含む)において共同で行われている大規模な臨床試験です。
1063人もの患者さんが試験に参加しており、541人がレムデシビルを投与する集団(群)、522人がプラセボを投与する集団(群)とされ、比較検討されています。
(レムデシビルを投与するか、プラセボを投与するかについては、患者さん本人にも医師にも明らかにせず、どちらを投与しているか分からない状態にして試験が行われています)

プラセボ投与といっても通常の標準的な治療はきちんとしています。
標準的な治療に加えてレムデシビルまたはプラセボを投与していますので、その点注意して結果をみる必要があります。

レムデシビルの投与ですが、1日目は200mg、2~10日目は100mg(1日1回)を静脈注射で投与しています。

対象になった患者さんの詳細ですが、この臨床試験には軽度・中等度~重度まで幅広い患者さんが参加されています。
(同じ病気でも、重症度など患者さんの状態により薬の効果は変わってきますので、どのような患者さんが試験対象になっているかをおさえておくことが非常に重要です)

本試験では重症度(患者さんの状態)を以下の「1~8」に分類していますが、試験を開始した時点での患者さんの重症度は「4~7」のいずれかでありました(下の青字の部分)。
(正確には「重症度」という名称ではありませんが、今回は分かりやすいように「重症度」と記載しています)

<重症度の分類>
1. 退院、活動に制限なし
2. 退院、活動が制限される(在宅酸素吸入が必要な場合も含む)
3. 入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は不要
4. 入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は必要
5. 入院、酸素吸入を要する
6. 入院、非侵襲的人工呼吸器または高流量酸素による管理
7. 入院、侵襲的人工呼吸器またはECMOによる管理
8. 死亡

(補足)
1→8にいくにつれて重症
1と2は「退院」、3~7は「入院」で7が一番重症、8は死亡
「非侵襲的人工呼吸器」と「侵襲的人工呼吸器」の違いですが、「非侵襲的」はマスクなどで人口呼吸を行う方法、「侵襲的」は管を口や鼻から入れて行う方法です。
ECMOとは、体から血液を取り出し、その血液から二酸化炭素を除去して酸素を入れ、再度血液を体に戻す方法です。人工呼吸器では生命を維持できないような重症の患者さんに用いられます。
~(補足)ここまで~

試験開始において、患者さんの「4」~「7」の割合は次のようになっていました。

試験開始時の重症度
全体は1063人、レムデシビル群は541人、プラセボ群は522人で、以下は群ごとの割合です。例えば、全体の11.9%というのは1063人の11.9%で127人となります。レムデシビル群の12.4%というのは541人の12.4%で67人となります。

「4」:全体の11.9%(127人)、レムデシビル群では12.4%(67人)、プラセボ群では11.5%(60人)
「5」:全体の39.6%(421人)、レムデシビル群では41.0%(222人)、プラセボ群では38.1%(199人)
「6」:全体の18.5%(197人)、レムデシビル群では18.1%(98人)、プラセボ群では19.0%(99人)
「7」:全体の25.6%(272人)、レムデシビル群では23.1%(125人)、プラセボ群では28.2%(147人)
(「4」~「7」を合計すると100%になりませんが、残りは分類の情報がなかった患者さんです)

簡単に言うと、「4」が1割程度、「5」が4割程度、「6」が2割弱、「7」が2~3割ということです。
(全体、レムデシビル群、プラセボ群とも同様です)
酸素吸入を要しない「4」の患者さんがいる一方で、重症の「7」の患者さんもおり、患者さんの幅が広いです。

それでは治療効果の結果についてです。
はじめに記載しましたが、プラセボ群といっても通常の標準的な治療はきちんとしていますので、その点注意してみてください。

今回は一般の方向けに書いていますので、最もわかりやすい結果を紹介しようかと思います。
治療開始から15日たったときに、重症度の割合がどうなったのか、お示しします。
ここから人数は記載しませんが、割合の考え方は上記「試験開始時の重症度」と同じです。
(全体は記載しても意味がないですので、レムデシビル群とプラセボ群のみ記載していきます)

治療開始後15日における重症度
「1」:レムデシビル群:22.8%、プラセボ群:18.5%
「2」:レムデシビル群:36.4%、プラセボ群:31.0%
「3」:レムデシビル群:2.5%、プラセボ群:1.5%
「4」:レムデシビル群:5.3%、プラセボ群:4.9%
「5」:レムデシビル群:7.8%、プラセボ群:9.8%
「6」:レムデシビル群:3.7%、プラセボ群:3.4%
「7」:レムデシビル群:13.8%、プラセボ群:17.6%
「8」:レムデシビル群:7.6%、プラセボ群:13.4%
青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています。赤字の「8」は死亡です)
(群ごとの割合です。レムデシビル群の「1」~「8」を合計すると100%、プラセボ群の「1」~「8」を合計すると100%となります。四捨五入の関係で、ぴったり100.0にはなりません)

レムデシビルを投与した患者さんでは「1」~「3」(回復)の割合がプラセボ群よりも大きいです。
「1」~「3」の割合を合計してみると、
レムデシビル群:62%、プラセボ群:51%
となります。
プラセボ群でも半数の患者さんは回復していますので、レムデシビルを投与するとさらに1割程度の患者さんが回復したということになりますね。
(何度もしつこいですが、プラセボ群でも標準的な治療を行っています)

重症化の方はどうでしょうか?
「7」や「8」(死亡)の患者さんの割合は、レムデシビル群よりもプラセボ群の患者さんの方が大きいですね。
レムデシビルを投与すれば、この程度、重症化しにくくなったということです(あくまでも今回の結果では)。

ここまでが全体的な結果となります。

次に、重症度別にみていきたいと思います。
(患者さんを重症度別に分けて、その中でどうなったかをみていきます)
通常、薬は重症度によって効果が異なることが多いため、重症度を分けて考えることが重要かと思います。

治療開始時が「4」(入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は必要)
「1」:レムデシビル群:36.7%、プラセボ群:29.4%
「2」:レムデシビル群:41.7%、プラセボ群:41.2%
「3」:レムデシビル群:11.7%、プラセボ群:7.8%
「4」:レムデシビル群:1.7%、プラセボ群:5.9%
「5」:レムデシビル群:5.0%、プラセボ群:9.8%
「6」:レムデシビル群:1.7%、プラセボ群:0%
「7」:レムデシビル群:0%、プラセボ群:3.9%
「8」:レムデシビル群:1.7%、プラセボ群:2.0%
青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています。赤字の「8」は死亡です)

こちらの割合は、治療開始時が「4」であった患者さんを群ごとに合計100%とし、15日における重症度がどう変化したかをみています。レムデシビル群の「1」~「8」を合計すると100%になります。プラセボ群も「1」~「8」を合計すると100%になります(四捨五入の関係で、ぴったり100.0にはなりません)。

先ほどの全体と同様に「1」~「3」(回復)の割合を合計してみると、
レムデシビル群:90%、プラセボ群:78%
となります。
入院はしているものの、酸素吸入を必要としない患者さんですので、回復の割合も高くなっています。
プラセボ群では2割ちょいが回復しないのに対して、レムデシビル群では9割の患者さんが回復しています。

治療開始時が「5」(入院、酸素吸入を要する)
「1」:レムデシビル群:27.6%、プラセボ群:28.0%
「2」:レムデシビル群:48.5%、プラセボ群:41.0%
「3」:レムデシビル群:2.0%、プラセボ群:1.2%
「4」:レムデシビル群:6.1%、プラセボ群:4.3%
「5」:レムデシビル群:7.1%、プラセボ群:3.7%
「6」:レムデシビル群:0.5%、プラセボ群:1.9%
「7」:レムデシビル群:6.1%、プラセボ群:7.5%
「8」:レムデシビル群:2.0%、プラセボ群:12.4%
青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています。赤字の「8」は死亡です)

「1」~「3」(回復)の割合を合計してみると、
レムデシビル群:78%、プラセボ群:70%
となります。
治療開始時が「4」であった患者さんに比べて、どちらの群も10%程度低くなっています。
レムデシビル群とプラセボ群の比較では、10%弱の差があります。

重症化の方はどうでしょうか?
「8」の死亡の割合に差があるようにみえます。
レムデシビル群では2.0%(4人)であったのに対し、プラセボ群では12.4%(20人)が死亡しています。
この試験の結果のみで治療効果の結論は出せませんが、こういう結果が出たことも事実です。

治療開始時が「6」(入院、非侵襲的人工呼吸器または高流量酸素による管理)
「1」:レムデシビル群:18.3%、プラセボ群:9.1%
「2」:レムデシビル群:39.4%、プラセボ群:35.1%
「3」:レムデシビル群:0%、プラセボ群:0%
「4」:レムデシビル群:5.6%、プラセボ群:5.2%
「5」:レムデシビル群:2.8%、プラセボ群:9.1%
「6」:レムデシビル群:8.5%、プラセボ群:7.8%
「7」:レムデシビル群:7.0%、プラセボ群:16.9%
「8」:レムデシビル群:18.3%、プラセボ群:16.9%
青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています。赤字の「8」は死亡です)

「1」~「3」(回復)の割合を合計してみると、
レムデシビル群:58%、プラセボ群:44%
となります。
治療開始時が「5」であった患者さんに比べて、レムデシビル群は20%、プラセボ群は26%低くなっています。(レムデシビル群:78%-58%=20%、70%-44%=26%)
レムデシビル群とプラセボ群の比較では14%の差となりました。

重症化の方はどうでしょうか?
治療開始時が「6」ですと、レムデシビルを投与しても、ある程度死亡がでてくるようです。
「8」の死亡のみではレムデシビル群の方が1%程度プラセボ群よりも大きいですが、この差はわずかでしょうか?人数にするとレムデシビル群13人、プラセボ群13人と同じ人数でした。

「6」から「7」に悪化した割合では、レムデシビル群が7.0%、プラセボ群が16.9%と10%の差がみられています。

治療開始時が「7」(入院、侵襲的人工呼吸器またはECMOによる管理)
「1」:レムデシビル群:9.9%、プラセボ群:7.0%
「2」:レムデシビル群:5.9%、プラセボ群:8.7%
「3」:レムデシビル群:0%、プラセボ群:0%
「4」:レムデシビル群:5.9%、プラセボ群:5.2%
「5」:レムデシビル群:14.9%、プラセボ群:19.1%
「6」:レムデシビル群:6.9%、プラセボ群:4.3%
「7」:レムデシビル群:42.6%、プラセボ群:39.1%
「8」:レムデシビル群:13.9%、プラセボ群:16.5%
青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています。赤字の「8」は死亡です)

重症の患者さんですので、いずれの群も回復の割合は小さいです。
「1」~「3」の割合は、レムデシビル群で16%、プラセボ群でも16%です。
少しでも改善した患者さん「1」~「6」を合計してみると、レムデシビル群が44%、プラセボ群でも44%となります。

なお、「7」の状態を維持している患者さんが、どちらの群も4割程度となっています。
「8」の死亡は人数にすると、レムデシビル群14人、プラセボ群19人です。

治療開始時が「7」の場合は、レムデシビル群とプラセボ群で差がみられなかったという結果になっています。

以上が重症度別の治療効果となります。
どんな病気も早期発見・早期治療が好ましいと思いますが、新型コロナウイルスでも重症化する前に、できるだけ軽い段階で治療開始した方が、回復しやすい傾向になっているかと思います。
(重症度「4」や「5」で治療した患者さんでは、回復した割合が高い傾向でした)

ただ、こちらの結果は速報であり、臨床試験の結論的なものではありません。
あくまでも、この試験(速報)でみられた一つデータですので、現時点では参考としてみていただければと思います。

-補足(一般の方は飛ばしてください)-
今回は一般の方にもなるべく分かるような形で記載しましたので、統計的なことは述べておりませんし、重症度別のサブグループ解析についてもお示ししました。最近、有意差がないと大小関係について述べてはいけないなどともいわれていますが、その辺は無視して記載しました(傾向はみれているかと思いますので)。本臨床試験の細かいことについては、また「★★」の記事で説明したいと思います。
-補足 ここまで-

長くなりましたが、いかがでしたでしょうか?
レムデシビルについて理解するのにお役に立てば幸いです。
レムデシビルの安全性(副作用)についても知っておかないと、万が一使用する際に不安になるかと思いますので次回紹介いたします。
なるべく早めにアップしますので、少々お待ちいただければと思います。

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