レムデシビル(ベクルリー)を実際に使用するにあたっては、安全に使用できる薬なのか? 注意すべきことはあるのか? などについて知っておかないと不安かと思いますので、今回はレムデシビルの安全性について説明していきます。
[出典:ベクルリー添付文書、ベクルリー審査報告書]
まずは投与において注意すべき患者さんについてです。
■投与の際に特に注意すべき患者さん
1. 腎臓の悪い患者さん
2. 肝臓の悪い患者さん
3. 妊娠または妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性
4. 小児
5. 高齢者
1. 腎臓の悪い患者さん
こちらの薬には腎臓の尿細管に蓄積する添加物が含まれており、腎臓の障害が悪化するおそれがあるとされています。
臨床試験の結果では、現時点で腎臓に関連する副作用があるかどうかは明確でなく、結論がでておりません。ただ、一部の検討において、急性の腎臓障害や腎不全が報告されていることから、腎臓に関する安全性は確立されていないとされています。
また、腎臓の悪い患者さんは臨床試験の対象患者さんから除外されており、今後の検討が必要となっています。
このような状況から、腎臓の悪い患者さんは注意が必要とされています。
2. 肝臓の悪い患者さん
臨床試験によっては、肝臓の機能に関連する検査値などに異常がみられる患者さんが出ており、途中で投与を中止した患者さんも出ています。
また、肝臓が悪い患者さんは臨床試験の対象患者さんから除外されており、今後の検討が必要となっています。
このような状況から、肝臓の悪い患者さんは注意が必要とされています。
3. 妊娠または妊娠している可能性のある女性、授乳中の女性
ラットを用いた動物試験において、一部生殖への影響がみられており、またレムデシビル(+レムデシビルが体の中で変化した物質)が乳汁に移行することがみられています。
臨床試験などでは、妊娠中の女性への検討はされておらず、患者さんへの影響は明らかとはなっていません。
このような状況から、妊娠中の女性では、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合のみ投与すること、とされています。
授乳中の女性については、投与中は授乳の中止を考慮すること、とされています。
4. 小児
小児についても臨床試験で検討がなされていません。
ただ、小児では腎臓が未発達であるため、上記1で述べました添加物の影響も考えられることから、投与においては注意が必要とされています。
このような状況から、治療上の有益性が危険性を上回ると判断した場合のみ投与すること、とされています。
5. 高齢者
コロナウイルスが重症化しやすいのは高齢者と言われていますので、高齢者に投与する機会が多いのではないかと思いますが、一般的に高齢の患者さんでは生理機能が低下しているため、薬の投与においては注意が必要とされています。
現時点では高齢者に対する臨床試験などのデータが不足していますので、今後の検討が必要かと思います。
ここまでよろしいでしょうか?
次にレムデシビルの副作用について説明します。
■レムデシビルの副作用
レムデシビルの添付文書(薬の説明書)では、特に注意すべき重要な副作用として、以下が挙げられています。
重要な副作用
1. 急性の腎臓障害
2. 急性の肝臓障害
3. インフュージョンリアクション(低血圧、嘔気、嘔吐、発汗、振戦など)
1と2は上記「投与の際に特に注意すべき患者さん」で説明した通りですので、3について説明します。
インフュージョンリアクションとは、点滴の投与時に過敏症反応としてあらわれる症状で、投与後24時間以内くらいにあらわれる症状のことです。
低血圧、嘔気や嘔吐、発汗、振戦(ふるえ)などの症状ですので、このような症状があらわれたら、すぐに医師や看護師に知らせたほうがよいかと思います。
発現率について
それでは、上記のような副作用は実際にはどの程度現れるものなのでしょうか?
前回のレムデシビルの有効性の説明において紹介した臨床試験での結果を紹介します。
ただし、この臨床試験では腎臓や肝臓が悪い患者さんは除外されていますので、その点注意する必要があります。
また、レムデシビルの臨床試験の結果では、現時点では「副作用」について報告されておらず、「有害事象」として報告されています。
「副作用」というのは、患者さんに生じた好ましくない症状のうち、薬の投与と関係のあるものを指します。
一方、薬の投与と関係あるなしにかかわらず、患者さんに生じた好ましくない症状をひっくるめたものを「有害事象」と言います。
-プラセボとの比較試験(速報)における安全性-
[出典:N Engl J Med. 2020 May 22; NEJMoa2007764. doi: 10.1056/NEJMoa2007764]
●有害事象全体の発現率
・レムデシビル投与群 541人中156人(28.8%)
・プラセボ投与群 522人中172人(33.0%)
●腎臓関連の有害事象の発現率
・レムデシビル投与群 541人中40人(7.4%)
・プラセボ投与群 522人中38人(7.3%)
●肝臓関連の有害事象の発現率
・レムデシビル投与群 541人中22人(4.1%)
・プラセボ投与群 522人中31人(5.9%)
●レムデシビル投与群で発現率2%以上の有害事象
(以下、レムデシビル投与群は541人中の%、プラセボ投与群は522人中の%)
・発熱 レムデシビル投与群 5.0%、プラセボ投与群 3.3%
・貧血 レムデシビル投与群 4.1%、プラセボ投与群 4.8%
・ヘモグロビン減少 レムデシビル投与群 4.1%、プラセボ投与群 4.4%
・GFR低下(腎臓機能の指標) レムデシビル投与群 3.7%、プラセボ投与群 3.3%
・AST増加(肝臓機能の指標) レムデシビル投与群 2.8%、プラセボ投与群 3.8%
・急性腎障害 レムデシビル投与群 2.8%、プラセボ投与群 3.3%
・リンパ球減少 レムデシビル投与群 2.4%、プラセボ投与群 3.4%
・低血圧 レムデシビル投与群 2.2%、プラセボ投与群 1.3%
・血中グルコース増加 レムデシビル投与群 2.2%、プラセボ投与群 1.1%
・高血圧 レムデシビル投与群 2.2%、プラセボ投与群 0.8%
全体的に、プラセボ群でも発現していますので、レムデシビルの影響ははっきりしないかと思います。
以下、重篤な有害事象です。
●重篤な有害事象発現率
・レムデシビル投与群 541人中114人(21.1%)
・プラセボ投与群 522人中141人(27.0%)
●レムデシビル投与群で発現率1%以上の重篤な有害事象
(以下、レムデシビル投与群は541人中の%、プラセボ投与群は522人中の%)
・呼吸不全 レムデシビル投与群 5.2%、プラセボ投与群 8.0%
・急性呼吸不全 レムデシビル投与群 1.7%、プラセボ投与群 2.3%
・呼吸困難 レムデシビル投与群 1.7%、プラセボ投与群 1.9%
・敗血症性ショック レムデシビル投与群 1.1%、プラセボ投与群 1.3%
・心不全 レムデシビル投与群 1.1%、プラセボ投与群 1.0%
有害事象の発現率はこんな状況です。
以上、レムデシビルの安全性について、「投与の際に特に注意すべき患者さん」、「重要な副作用」、「臨床試験での発現率」を紹介しました。
一般の方を対象としたレムデシビルの説明は現時点では以上となります。
今後、レムデシビルに関する有益な情報や、他に日本で使用可能となった薬がでてまいりましたら、またご紹介したいと思います。
(こちらのブログでは、実際に使用可能になった薬についてのみ紹介する予定です。海外でしか使用されていない薬や、承認されていない薬の情報は扱わない予定です)
なお、プラセボ対照試験の論文について、折角ですので論文解説もしたいと思いますので、次回以降取り上げたいと思います(★★の記事となります)。
<Sponsered Link>