前回と内容が類似するのですが、今回は「創薬ターゲット分子」という話をします。
これまでお話してきましたが、ヒトは10万種以上のタンパク質を有しており、各タンパク質が役割分担して生体内の様々な反応系を制御しています。
血圧に関するタンパク質もあれば、細胞増殖に関するものもあり、免疫系に関わるものもあります。
これら10万種類以上のタンパク質のうち、特に疾患の進行に関与しており、そのタンパク質の機能を抑えれば疾患の進行が抑えられる(治療効果が期待できる)、というタンパク質を「創薬ターゲット分子」と言います。
高血圧の話で説明しました「レニン」や「アンジオテンシン変換酵素」、「アンジオテンシンⅡ受容体」といったタンパク質は薬の標的となっていますので「創薬ターゲット分子」と言えます。一方で、「アンジオテンシノーゲン」は薬の標的とはなっていませんので(薬が結合して、それ自体の機能を阻害するわけではないので)、「創薬ターゲット分子」とは言えません。
新しい薬の開発を行うとき、「このタンパク質の機能を抑えれば、疾患の進行を抑えられる(治療効果が期待できる)」というタンパク質を見出すことがまず求められます。つまり、創薬の標的(ターゲット)となるタンパク質を探索するところから研究が開始されるわけです。(探索の方法については今回は触れません)
薬の開発には莫大な費用と時間がかかりますので、治療効果が期待できる適切なターゲットタンパク質を選定することは非常に重要なことです。
それでは、どのようなタンパク質が創薬ターゲット分子になっているのか?ということですが、一つはこれまでパックマンとみたててきた「酵素(enzyme)」があります。酵素は口の部分に「基質(substrate)」が結合しますので、その部位を塞ぐことのできる「阻害剤(inhibitor)」を見出すことができれば薬につながります。
前に「試験管レベルの実験で薬になりそうなものを見つける」という記事を書きましたが、実験において酵素と基質の反応を阻害する物質をみつけたりします。
また、タンパク質の構造を解析により明らかにし、パックマンの口の部分に結合する物質をコンピュータシミュレーションにより予測することも行われています。
(この話はまた別の回ですることにしますが、下図はタンパク質の構造をもとに、パックマンの口の部分に結合し得る物質を探索した例を1つ挙げました。こんなイメージです)
話を戻しまして、酵素以外のタンパク質についてですが、二つ目に細胞膜などに存在する「受容体(receptor)」があります。高血圧のときにでてきた「アンジオテンシンⅡ受容体」がこれにあたります。前回も説明しましたが、「リガンド」とよばれる物質が「受容体」に結合すると、細胞内に指令が伝達されます。よって、この受容体の部分を塞ぐことにより、伝達を抑制することができます。
これら、「酵素」と「受容体」が現状では主な創薬ターゲットとなっており、この2つで創薬ターゲットの7割以上を占めています。
前回の最後に、タンパク質とタンパク質が直接相互作用するものもある、とお話しましたが、これらのタンパク質は「創薬ターゲット分子」としては非常に重要なものとなります。
しかしながら、タンパク質どうしが接触する面は非常に平たく面積も広いため、その相互作用を阻害できる物資を見出すことは非常に困難とされています。
そのような中、このタンパク質どうしの相互作用を阻害する物質を見出す研究も行われております。
タンパク質どうしが相互作用する部位の中で、特に重要な部位(ホットスポットという)があることが報告されており、そのような部位に強固に結合する物質を探索することで、タンパク質どうしの相互作用を防げる物質を見いだせないか、という研究も行われています。
今回も短いですが、以上となります。前回と類似した内容となりましたが、今回は「創薬ターゲット分子」というお話をしてきました。
次回は「内的因子による疾患に対する薬の開発」の話に戻り、免疫系が亢進した疾患であるリウマチを例に話をしていきたいと思います。
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