★疾患と薬/薬の開発

内的因子による疾患に対する薬の開発-②(リウマチ編 1回目)[★~★★]

投稿日:2018年7月13日 更新日:

今回は内的因子による疾患として、免疫系が亢進することによって生じるリウマチを例にとりお話します。(ボリュームが多いので2回に分けます。なお、今回の話は少し難しいかもしれません)
「例にとり」というのは、「タンパク質の機能を抑制する物質が疾患の薬になる」ということを説明するための例です。

「免疫系」とは、生体内を防御するために、外から侵入した細菌やウイルスなどを除去するシステムです。通常のレベルでバランスよく働いていればよいのですが、何らかの原因により、免疫系が必要以上に亢進してしまうことがあります。そうすると、リウマチなどの疾患が起きてしまいます。
(高血圧では血圧の反応系が亢進していましたね。それと同様にリウマチでは免疫系が亢進することで起こります)
リウマチは、免疫系の亢進により、手などの関節に炎症が起き、その悪化に伴い骨が破壊されていく病気です。

リウマチでは炎症を引き起こす原因となる「炎症性サイトカイン」と呼ばれるタンパク質が過剰に産生されています。
「炎症性サイトカイン」とは一つのタンパク質の名称ではなく総称です。リウマチに関与する炎症性サイトカインには「TNF-α」や「IL-6」といったタンパク質があります。
リウマチではTNF-αやIL-6が過剰に産生されており、それにより炎症や関節の破壊が亢進しています。
TNF-αやIL-6はそれぞれ、免疫系に関わる細胞などに存在する受容体に結合し、炎症や関節の破壊が進行する方向に反応系が進みます。
(TNF-αやIL-6はリガンドとして作用します)

<TNF-αの場合>

TNF-αは3量体(TNF-α3つが結合している)を形成しています。
(TNF-α 3つが結合して一つのかたまりになっています)
一方、その受容体であるTNF-α受容体も、細胞膜で3量体を形成しています。
TNF-αの3量体が細胞膜のTNF-α受容体の3量体に結合すると、シグナルが細胞内に伝わり、炎症や関節破壊が進行する方向で反応系が進みます。

<IL-6の場合>

IL-6が細胞膜上のIL-6受容体に結合して2量体となると、細胞膜に存在するgp130という別のタンパク質が結合して3量体を形成します。
その後、この3量体どうしが結合して6量体となると、シグナルが細胞内に伝わり、炎症や関節破壊が進行する方向で反応系が進みます。

それでは、リウマチの進行を抑制するためには、どうすればよいでしょうか?
高血圧のときの説明を思いだしていただきますと、TNF-αやIL-6が受容体に結合するステップを遮断すれば遮断すればよいことになります。

その方法の1つとして、TNF-α受容体やIL-6受容体の口を塞ぐ方法があります。
(高血圧のときの、アンギオテンシンⅡ受容体の口を塞いだのと同じ考え方です)

高血圧のときは出てこなかったのですが、もう一つの方法があり、TNF-αやIL-6自体を捉えてしまう、という方法があります。

TNF-α受容体、IL-6受容体、TNF-αそしてIL-6はいずれもタンパク質の一種ですので、タンパク質の機能を抑制することが疾患の治療につながる、ということになり、前回までの話と矛盾ありません。

ここからが高血圧のときと異なってくるのですが、高血圧のときはパックマンとみたててきた酵素が標的となっていましたので、比較的小さな構造をもつ薬により、パックマンの機能を抑制することが可能です。また、アンジオテンシンⅡは大きなタンパク質から切り出されたもので、比較的小さな構造をもつリガンドでしたので、この小さなリガンドが結合するアンジオテンシンⅡ受容体の部位を、小さな構造をもつ薬により塞ぐことが可能です。
(薬の構造の話はしておりませんでした)

一方で、今回のIL-6やTNF-αは大きなタンパク質であり、それらが結合する受容体も大きなタンパク質ですので、大きなタンパク質どうしが結合する部位を、小さな構造の薬で防ぐのは非常に困難です。
(小さな構造の薬で防げるかどうかの研究はされていますが、実際の薬としてはまだ開発されておりません)
よって、下図の受容体を塞ぐ蓋の役割をする薬は、タンパク質のような大きな構造を有している必要があります。

それでは、どのようなものが薬として開発されているのかというと、「抗体」と呼ばれるタンパク質が薬として使用されています。
「抗体」は特定のタンパク質に強固に結合するY字型のタンパク質で、構造的にも大きなものです。
よって、TNF-α受容体やIL-6受容体に強固に結合する「抗体」がリウマチの薬になると考えられます。

IL-6受容体の抗体としては、アクテムラ(一般名:トシリズマブ)がリウマチの薬として使用されています。
一方、TNF-α受容体の抗体は理論的には薬になり得ると考えられますが、開発されておりません。

※構造の比較的小さな薬(低分子医薬品という)と抗体については、リウマチの話が終わりましたら、1回とりあげて説明します。

続いて2つ目のTNF-αやIL-6自体を捉える方法ですが、上記同様に抗体であれば捉えることが可能です。この場合、受容体の抗体ではなく、TNF-αやIL-6の抗体を用いることとなります。

TNF-αの抗体としてはレミケード(一般名:インフリキシマブ)、ヒュミラ(一般名:アダリムマブ)、シンポニー(一般名:ゴリムマブ)、シムジア(一般名:セルトリズマブ ペゴル)がリウマチの薬として使用されています。
IL-6の抗体として、シルクマブの開発が進められていたのですが、2017年の末に開発が中止となってしまいました。そのため、現時点ではIL-6抗体としてリウマチに使用できる薬はありませんが、他の薬についても開発は進められているようです。

このように、リガンド(TNF-αやIL-6)が受容体(TNF-α受容体やIL-6受容体)に結合するステップを防ぐことで、高血圧のときと同様に疾患の進行を防ぐことができます。
その方法として、今回は受容体の口を塞ぐ方法と、リガンドを捉える方法の2通りを説明しました。

内容が少し難しいので方法にばかり目が行きがちですが、内容の趣旨としては、「タンパク質の機能を抑制することが疾患の治療につながる」ということですので、そのことも忘れずに理解していただければと思います。

-補足(一般の方は無視してください)-
TNF-α受容体やIL-6受容体には可溶型として細胞外に存在するものもありますが、それを記載すると分かり難くなるため、記載は控えております。
また、TNF-αを捉える薬として、可溶型TNF受容体を融合したタンパク質 エンブレル(エタネルセプト)がありますが、こちらも記載すると分かり難くなるので、記載は控えております。
-ここまで-

今回はここまでにしますが、リウマチではもう一つ薬の標的となる機序があります。
リガンドが受容体に結合するとシグナルが細胞内に伝わっていきますが、この細胞内でのシグナルの伝達を抑制する方法がありますので、次回はその説明をしたいと思います。

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