薬物動態

薬物動態 血中濃度推移の補足(経口投与、血中濃度推移を理解する意義、インタビューフォームの項目) [★★]

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前回は血中濃度推移について、分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)に消失速度定数(kel)の話を加えてまとめました。
消失速度定数(kel)もVdとCLtotで表現できるので、結局、血中濃度推移はVdとCLtotの2つの因子で決まるということでした。
また、血中半減期(t1/2)は消失速度定数(kel)を用いて表現されるため、こちらもVdとCLtotで決まることを説明しました。

~血中濃度推移のグラフ~
●投与直後の血中濃度は分布容積(Vd)で決まる
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)の関係から、
投与直後の血中濃度C=D/Vd

●血中濃度推移の面積は全身クリアランス(CLtot)で決まる
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)
この式を時間累積して
(「薬物消失速度」⇒「薬物消失量(=投与量(D))」、「血中濃度(C)」⇒「AUC」)
薬物消失量(=投与量(D)))=全身クリアランス(CLtot)×AUCの関係から、
AUC=D/CLtot

●縦軸(血中濃度の軸)を対数にしたグラフの直線の傾きは消失速度定数(kel)であり、kelは分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)で決まる
kel=全身クリアランス(CLtot)/ 分布容積(Vd)

●血中半減期(t1/2)= 0.693/kel = 0.693×Vd / CLtot

よって、血中濃度はVdとCLtotで決まります。

これまでは静脈内投与をもとに話を進めてきましたので、今回は経口投与に話を拡張するところからスタートします。
後半では、血中濃度推移について考える必要性についてと、分布容積、クリアランス、消失速度定数のインタビューフォーム(IF)の項目について紹介します。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

経口投与では、バイオアベイラビリティ(F)の値がつきまといます。
100mgを経口投与したとき、仮にバイオアベイラビリティ(F)が0.8であるとすれば、血中には薬物が「0.8×100mg(F×投与量)=80mg」入ることになるので、経口投与ではF×D(Dは投与量)という量で考えていく必要があります。

血中濃度推移のグラフをみていきますが、経口投与の場合は投与開始直後に血中濃度がMAXとなりませんので、投与開始時の血中濃度を分布容積(Vd)で表現することはできません。
一方、AUCは静脈内投与と同じように全身クリアランス(CLtot)で表現できますが、静脈内投与の場合の「D」を「F×D」に置き換える必要があります。
AUCpo=F×D/CLtot(poは経口投与を表す)

次にグラフの傾きkelですが、こちらは静脈内投与と同じです。
傾き=kel=CLtot/Vd

以下にグラフをお示しします。

経口投与の場合、VdやCLtotを血中濃度から算出することができません。
AUCpoからCLを算出する場合、
AUCpo=F×D/CLtot ⇔ CLtot/F=D/AUCpo
となり、算出されるのはCLtotではなく、CLtot/Fであります。

分布容積についても算出されるのはVdではなくVd/Fとなります。
kelは直線の傾きを算出すれば値が得られるため、
kel=CLtot/Vd ⇔ Vd=CLtot/kelからVdを算出できそうですが、
CLtotは算出できず、算出できるのはCLtot/Fであるため、
Vd=CLtot/kelの両辺をFで割り、
Vd/F=(CLtot/F)/kel
の式からVd/Fは算出できることとなります。

CLtot/Fは「見かけの全身クリアランス」、Vd/Fは「見かけの分布容積」と呼ばれており、インタビューフォームなどで「見かけの」という言葉がついているときは、経口投与により算出したものであり、「/F」がついているものと理解してください。
このように、経口投与では純粋なVdやCLtotが算出できないので、精度高くこれらのパラメータを算出したい場合は、静脈内投与を行い、Vd、CLtotを算出する必要があります。

経口薬でも、バイオアベイラビリティが算出されていれば、静脈内投与の検討を行っていることになりますので、その際に算出されたVdやCLtotの情報を得ることができる場合があります。
(バイオアベイラビリティは静脈内投与時のAUCと、経口投与時のAUCから算出するからです。詳しくは以下記事の「バイオアベイラビリティの算出」の図を参照)
薬物動態 経口投与と静脈内投与の違い、バイオアベイラビリティ [★★]

ここまでが経口投与の話となります。

続いて、血中濃度を決める因子について理解する意義について説明します。
これまで血中濃度がVdとCLtotで決まることを繰り返し説明してきました。
VdやCLtotは薬によって決まる値であり、薬によって血中濃度推移が異なるのは、このVdとCLtotが異なるためです。

それでは、同じ薬であれば血中濃度推移がいつも同じであるかというと、そうではありません。
肝機能障害や腎機能障害などの病態時においては血中濃度が変動しますよね。
血中濃度が変動するので、これらの疾患を有している患者では投与量を減少するように添付文書で注意喚起されていたり、場合によっては禁忌になることもあったりもするのです。
そして、なぜ血中濃度が変動するのかというと、VdやCLtotの値が変動するためなのです。

例えば、肝機能障害や腎機能障害では浮腫などによる体液貯留によりVdが上昇することがあります。また肝や腎の有する薬の処理能力が低下(固有クリアランスCLintH、CLintRが低下)することによりCLtotが低下することがあります。
(「することがあります」としたのは、条件によって変わるためです。本ブログではその詳細までは解説せず、これまで紹介してきた書籍、「緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)」への導入までとします。)

よって、VdやCLtotがどのように変動するか、そしてそれにより血中濃度がどのように増減するかを考えることで、肝機能障害や腎機能障害などの病態時において、投与量や投与間隔をどのように設定したらよいのかを推測することが可能となります。

このようなことから、Vd、CLtotといった薬物動態パラメータを考えることが重要となります。
そして、血中濃度はVdやCLtotで決まるという説明をしてきましたが、VdやCLtotを決めている因子というのも考えていく必要が出てきます。
(上記、体液貯留や固有クリアランスといった因子がその例です)

ただ、VdやCLtotを決めている因子については話が深くなりますので、本ブログでは導入までとしたいと思います(次々回より少し説明します)。
詳しく勉強されたい方は、これまで紹介してきた「緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)」の書籍を手に取っていただければと思います。

~補足~
VdやCLtotに考える必要性としては、「遊離型薬物濃度」の推定というところが本質的なところなのですが、この件は次々回より少し説明したいと思います(導入に留めます)。
なお、「遊離型薬物濃度」の推定の目的は上記と同様であり、肝機能障害や腎機能障害などの病態時において、投与量・投与間隔をどのように設定したらよいかを推測することとなります。
~補足 ここまで~

それでは、インタビューフォーム(IF)の項目についてみていき。今回は終わりとします。
分布容積(Vd)、全身クリアランス(CLtot)、腎クリアランス(CLR)、消失速度定数(kel)の掲載箇所を紹介します。

図の「A」に示した「臨床試験で確認された血中濃度」にこれらの薬物動態パラメータが掲載されていることが多いです(なお、掲載していないこともあります)。
各試験での結果が紹介されますので、まずは基準となる健康成人の静脈内投与データを参照します。
経口投与の薬でバイオアベイラビリティ(F)が算出されている場合は、静脈内投与での分布容積(Vd)、全身クリアランス(CLtot)も算出しているはずなのですが、IFにはほぼ掲載されません。
前にご紹介したCTDには掲載されていることがあります。

CTD(Common Technical Document, コモン・テクニカル・ドキュメント

(CTD「9. 臨床概要」の「2.7.1」か「2.7.2」からバイオアベイラビリティを算出している試験を見つけます。)

分布容積(Vd)、全身クリアランス(CLtot)、消失速度定数(kel)についてはIFの項目としても定められており、表の「B」の項目も併せて確認するとよいかと思います。
(「A」に掲載されていなくても、「B」に掲載している場合があります)

続いて、「食事・併用薬」(表の「C」)や「特定の背景を有する患者(肝機能障害、腎機能障害)」(2018では表の「D」 、2013では「A」の中で掲載)で、これらのパラメータがどのように変化しているかが重要になってきますので、そちらも併せて確認します。

なお、腎機能障害の試験で腎クリアランス(CLR)が掲載されることが多い傾向かと思います。
正常者(健康成人と同じ)のデータもあわせて掲載されているので、腎機能障害の試験データが参考になることが多いです。
(健康成人の試験でVdやCLtotが掲載されていない場合でも、腎機能障害の試験で掲載されていれば、「正常」を健康成人の基準となるデータとして扱えます。)

以上、インタビューフォーム(IF)の項目についてとなります。

今回は、前回まで説明してきた血中濃度とVdとCLtotとの関連について、静脈内投与から経口投与に拡張しました。そして後半では、血中濃度推移について考える必要性についてと、インタビューフォーム(IF)の項目について説明しました。

これで一区切り、としたいとこですが、実はこれまで単回投与の話しかしてきませんでした。
ということで、次回は反復投与について説明します。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

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