あけましておめでとうございます。
本年も「メディカル探索者のブログ」をよろしくお願いいたします。
今回は、「microRNA増加に対する創薬」の最後のテーマとして、microRNAの機能を抑制する低分子化合物について紹介します。
(低分子化合物なので核酸医薬ではありません。RNA関連の記事ということで。)
microRNAの機能を抑制する低分子化合物については、さまざまな研究グループから報告がなされています。
レビュー論文(Fu Z et al. Front Pharmacol 2021; 12: 736323)において、これまでに報告された低分子化合物が包括的に紹介されていますので、こちらを参考にしながら、記事を書いていきたいと思います。
各研究グループでは、各施設で保持されている化合物ライブラリを用いてmicroRNAの機能を抑制する化合物を探索されています。
~化合物ライブラリとは?~
化合物ライブラリとは、さまざまな構造の化合物を集めたセットのことです。製薬会社では数万~数百万種にも及ぶ化合物ライブラリを持っているといわれています。化合物ライブラリを用いて、さまざまな疾患に対する薬を探索していくので、化合物ライブラリの規模が薬の発見に大きく寄与します。

~化合物ライブラリとは? ここまで~
microRNAの機能を抑制する化合物の探索において、一般的に用いられるのがレポーターアッセイという方法です。
レポーターアッセイは、細胞内で起きている遺伝子発現のON/OFFを簡便に評価するための方法で、測定しやすいタンパク質の遺伝子(レポーター遺伝子)を用い、その発現量を測定します。
レポーター遺伝子としてよく使われるのがルシフェラーゼです。発現したルシフェラーゼ(タンパク質)は基質と反応することで発光するため、発光強度を測定することで、遺伝子発現のON/OFFを評価することができます。
(遺伝子発現がONであれば発光する)
microRNAの機能を調べる場合は、目的のmicroRNAが結合できる配列をルシフェラーゼ遺伝子に組み込みます(詳しくは、ルシフェラーゼ遺伝子の3’URLに組み込む)。
microRNAが機能すれば、ルシフェラーゼの発現が抑制され、発光が弱まるという仕組みです。
そして、ある化合物によりmicroRNAの機能が抑制された場合は、ルシフェラーゼが発現するようになるため、発光が強まることになります。

このレポーターアッセイを用いてmicroRNAを抑制する化合物を探索されますが、microRNAの機序という観点から見てみると、レポーターアッセイはmicroRNAの機序の一番下流となる遺伝子発現(翻訳レベルでのタンパク質発現)について調べていることになるため、探索された化合物がmicroRNAの遺伝子発現制御機構におけるどの段階を抑制しているのかは不明です。
そのため、研究グループによっては、より詳細な検討を行い、探索された化合物のmicroRNA抑制の機序を明らかにしています。
想定される抑制の機序としては以下の作用点があります。
①pri-miRNAの転写を抑制
②「pri-miRNA ⇒ pre-miRNA」のステップを抑制(Droshaによるプロセシング(切断)を抑制)
③pre-miRNAの核内から細胞質への移行を抑制(Exportin-5による輸送を抑制)
④「pre-miRNA ⇒ miRNA-miRNA duplex」のステップを抑制(Dicerによるプロセシング(切断)を抑制)
⑤microRNAのRISC形成を抑制

いくつかの報告例をみてみましょう。
Watashi Kらは530化合物のライブラリを用いてレポーターアッセイを行い、microRNAの機能を抑制する2つの低分子化合物[TPF(trypaflavine)、PLL(poly-L-lysin)]を見出しました。

このTPFとPLLについて、microRNAの抑制機序を調べるために、Dicerの活性と、Ago2(RISCの構成因子)とmicroRNAの結合への影響を評価しました。
その結果、PLLはDicerの活性を抑制したことから上記④の「pre-miRNA ⇒ miRNA-miRNA duplex」のステップを抑制することが示され、一方でTPFはAgo2とmicroRNAの結合を抑制したことから上記⑤のmicroRNAのRISC形成を抑制することが示されました。
(Watashi K et al. J Biol Chem 2010; 285(32): 24707-24716)

もう一つの例ですが、Gumireddy Kらは1000以上の化合物ライブラリを用いてレポーターアッセイを行いmicroRNA(miR-21)の機能を抑制する低分子化合物を見出した後、化合物の構造変換を行い、より強くmicroRNAの機能を抑制する化合物(アゾベンゼン化合物)を同定しました。

アゾベンゼン化合物のmicroRNA抑制機序を調べるため、定量RT-PCRを用いた検討を行ったところ、pri-miRNAの量が減少していたことが判明したことから、アゾベンゼン化合物は上記①のpri-miRNAの転写を抑制することが示されました。
(Gumireddy K et al. Angew Chem Int Ed Engl 2008; 47(39): 7482-7484)

「レポーターアッセイでのmicroRNAを抑制する化合物の探索」→「化合物のmicroRNA抑制機序の検討」について例を挙げましたが、microRNAは疾患に関与するものばかりではなく、生体において重要な役割を担うものも多数あるため、microRNAの機能全てを抑制してしまうと正常な機能にまで影響が出てしまいます。
よってmicroRNAの機序に関与するDicerやDroshaに直接結合してその機能を阻害する化合物は、全てのmicroRNAの機能を抑制してしまう可能性があるので好ましくなく、薬の開発においては疾患に関与する特定のmicroRNAのみを選択的に抑制することが求められます。
それでは、特定のmicroRNAを特異的に抑制する化合物はどのように見出せばよいのでしょうか?
手法の一つとして、DicerやDrosha自体を阻害するのではなく、特定のmicroRNA前駆体(pri-miRNAやpre-miRNA)に直接結合し、DicerやDroshaによる切断を抑制する化合物を設計するという方法があります。
microRNA前駆体はそれぞれ異なる配列および立体構造モチーフ(バルジ、ループなど)を有しており、これらの構造的差異によって、特定のmicroRNAにのみ結合する化合物を設計することが可能とされています。

~補足~
以前は、特定のRNAに特異的に結合する低分子化合物を合理的に設計することは困難であると考えられてきました。その理由として、①RNAは構造的に柔軟で立体構造が一定しないこと、②分子表面が比較的平坦であり、化合物が結合可能な明確なポケットが少ないこと、③リン酸骨格に由来する負電荷のため、化合物が非特異的に吸着しやすい、などが挙げられていました。
しかし近年、RNAはランダムに柔軟な分子ではなく、バルジやループなどの構造モチーフ単位で見ると、配列が異なっても三次元構造に再現性を有し、化合物が結合可能な立体的ポケットを形成することが明らかとなってきました。
~補足 ここまで~
実際の報告例を見てみましょう。
Shi ZらはmiR-21に対する特異的阻害剤を見出すため、pre-miR-21上のDicer結合領域に結合する低分子化合物をin silico(コンピューターシミュレーション)で設計し、miR-21に対する特異的阻害剤を同定しました。
(Shi Z et al. Cancer Res 2013; 73(17): 5519-5531)
pre-miR-21の配列および二次構造の情報をもとに、「MC-Fold/MC-Sym pipeline」というRNA構造予測プログラムを用いて3次元構造を作成しています。
このとき、pre-miR-21全体ではなく、ヘアピンループを含むDicer結合領域のみを3次元化し、そのRNA構造に強固に結合する化合物を設計しています。
「MC-Fold/MC-Sym pipeline」(https://www.major.iric.ca/MC-Pipeline/)はカナダの研究機関である「Institute for Research in Immunology and Cancer(IRIC)」が公開しているプログラムです。
こちらのURLから使用できるプログラムですので、私も試しに使ってみました。
(しっかりとしたマニュアルもpdfで見ることができます)
pre-miR-21の配列と二次構造は、miRBase(https://www.mirbase.org/)から取得できます。
(Stem-loop hsa-mir-21、Accession:MI0000077)
<pre-miR-21の配列と二次構造>
ugucgggUAGCUUAUCAGACUGAUGUUGAcuguugaaucucauggCAACACCAGUCGAUGGGCUGUcugaca
((((((((((((((((.(((((.(((((.((((.((…))))))))))).)))))))))))))))))))))
1行目の配列の大文字の部分は、pre-miRNAがDicerに切断された後、成熟microRNAとなる配列です。
2行目の括弧とドットで示しているのが二次構造で、この表記を「ドット・ブラケット記法」と言います。
「(」 と「)」が塩基対を形成しているヌクレオチドを表しており、「.」は塩基対を形成していないヌクレオチドを表しています。
「MC-Fold/MC-Sym pipeline」では二次構造を「MC-Fold」で予測することができますが、あらかじめ二次構造が分かっている場合は「MC-Sym」に配列とともに入力することで、より正確な立体構造を生成することができます。
Shi Zらが用いたpre-miR-21のヘアピンループを含むDicer結合領域は以下の配列です。
UGUUGAcuguugaaucucauggCAACA
(((((.((((.((…)))))))))))
上記2つの配列について、「MC-Fold/MC-Sym pipeline」を用い、私が試しに三次元構造を作成してみたものが以下となります。


Shi Zらは、pre-miR-21のヘアピンループを含むDicer結合領域に対して強固に結合する低分子化合物を、ドッキングスタディ(Docking Study)という手法で計算することで、化合物「AC1MMYR2」を見出しました。

~ドッキングスタディ(Docking Study)とは?~
標的とするタンパク質やRNAの立体構造を用い、化合物の結合部位とその結合力をコンピュータ上で予測する方法

~ドッキングスタディ(Docking Study)とは? ここまで~
Shi Zらは、コンピュータ上で予測することにより見出されたAC1MMYR2が実際に、Dicerによるpre-miR-21からmiR-21へのプロセシング(切断)を阻害することを実験により示しています。
また細胞レベルにおいて、AC1MMYR2はmiR-21の機能を抑制することで、miR-21によって発現が負に制御されるタンパク質であり、がんの抑制に働くPTEN、PDCD4、RECKの発現を増加させ、乳がんや胃がん細胞の増殖、腫瘍細胞の生存、ならびに浸潤が抑制されることを示しました。
さらに、動物モデル(マウス)においてもAC1MMYR2が腫瘍の増殖、浸潤、転移を抑制し、マウスの生存期間を延長することも示されました。
成功例の一例をお示ししましたが、特定のmicroRNAに結合し、microRNAの機能を特異的に抑制する低分子化合物を合理的に設計することが、このように可能となってきています。
以上、今回はmicroRNAの機能を抑制する低分子化合物の開発について、細胞を用いたスクリーニング手法であるルシフェラーゼアッセイ、探索された化合物のmicroRNA抑制機序の検討、そしてmicroRNAの機能を特異的に抑制する低分子化合物の合理的設計と、幅広く紹介しました。
次回ですが、低分子化合物の開発について、もう少し紹介したいと思っています。
それでは。