核酸医薬・RNA関連

核酸医薬・RNA microRNAを標的とした創薬④(microRNA増加に対する創薬③ TuD/S-TuD) [★★★]

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「microRNA増加に対する創薬」の続きで、今回はTough Decoy(TuD)について紹介します。
TuDは、アンチセンスやmicroRNAスポンジよりも強力かつ持続的にmicroRNAの機能を阻害可能なRNAとして、日本の研究グループにより開発されたものです。

人工的に合成された核酸である「アンチセンス」は細胞外から細胞内に導入するもの、「microRNAスポンジ」はmicroRNAに結合するRNAを遺伝子組み換え技術により細胞内で発現させるものでしたが(プラスミドなどのベクターを用いて発現させるもの)、TuDはmicroRNAスポンジのように細胞内で発現させるタイプのRNAとして開発され、そこで最適化されたRNAの構造をベースに、人工的に合成されたRNA(Synthetic TuD:S-TuD)の開発も進められました。

TuDはmicroRNAに対する結合部位(MBS)を2つ有するユニークな構造を有しておりますが、どのようにこの構造にたどり着いたのか、細胞内で発現させるタイプのTuDの論文から紹介します。

TuD(Haraguchi T et al. Nucleic Acids Res 2009; 37(6): e43)
RNA構造の最適化の様子が示された図をまずお示しします。
(こちらを以降「はじめの図」とします)

著者らはプロトタイプとして上図のAの構造を設計しました。
右側のループの部分(太い矢印の部分)にmicroRNA結合部位(MBS)を配置し、ステム(stem)をリンカー(赤で示された部分)で結合させています。
ステム-ループ構造を有するRNAを細胞核内で発現させると、Exportin-5により核外に輸送されることが知られており(microRNAと同様)、またステムの長さが輸送効率に影響することが報告されています。
ステムの長さが16未満になるとExportin-5への結合能が大幅に低下し、また長さが20以上の二本鎖RNAは細胞質に輸送された後にDicerに分解される可能性があることから、ステムの長さを17~24に絞って検討し、microRNAに対する阻害能が最も高い18の長さに決定されました(これを図Bの#002とし、以降は長さ18のステムを「Ⅰ」と表記しています)。

この#002からmicroRNAに対する阻害効果を向上させるために、長さ18のステムⅠを保持したうえで、さまざまな構造変換が試みられています(図Bの#007~#013)。
あわせて、microRNAとの結合部位(MBS)の配列の検討もされました。

まずMBSの配列の検討について先に説明します。
前回までのmicroRNAスポンジの記事で、microRNAと完全相補とするよりも、バルジ構造とした方がmicroRNAに対する阻害能が向上することを説明しました。
(完全相補とすると、AGO2により分解される可能性がある)

本研究においても完全相補がよいのか、バルジ構造とするのがよいかの検討を、プロトタイプの#002をベースに検討がなされ、4塩基を挿入した#017でmicroRNAに対する阻害能が最も向上することが示されました(下図)。
(下の図で「Relative GFP expression(%)」の値が高いほど、microRNAに対する阻害効果が高い)

次に構造変換について話を移します。
(「はじめの図」を再度参照ください)
結論を先に述べますと、#009からの変換と#012からの変換をそれぞれ進めていき、最終的には#009から変換された#013、#020(「はじめの図」のD左)が最適な構造とされました。

まず、#009からの変換ですが、#009のステムとループの間に3の長さのリンカーを入れた#013ではmicroRNAに対する阻害効果が大幅に向上しました。
そこで、ステムとループの間のリンカーの長さを1~5に変えて検討しましたが(「はじめの図」のC)、4以上では阻害効果が低下し、3の阻害効果が最も高かったことから、もともとの長さ3である#013に決定されました。

#013のMBSはmicroRNAと完全相補な配列としていましたが、上記MBSの配列の検討結果を踏まえ、4塩基を挿入してバルジ構造にした#020も最適化された配列とされました(「はじめの図」のD左)。

一方で、#012からの変換ですが、ステムとループの間に3の長さのリンカーを入れ、さらにMBSに4塩基を挿入してバルジ構造とした#023が検討されましたが、#013や#20に比べてmicroRNAに対する阻害効果が低いものとなりました。

これらの結果から、#013(MBS:完全相補)、#020(MBS:4塩基挿入したバルジ構造)を最適化された構造とし、Tough Decoy(TuD)と名付けられました。
TuDの構造の詳細図をお示しします。

図Bは、図AのTuD(RNA)を発現させるためのDNAの設計図を示しています。DNAは二本鎖なので、ここから(図Bの一番下)一本鎖のRNAが発現し、両端のSTEMⅠが相補的に結合、STEMⅡの左右の部位が相補的に結合してループを形成し、Aの構造となります。

最適化されたTuDについて、miR-140、miR-21に対する阻害効果が細胞レベルで検討されました。
その結果、MBSに4塩基挿入してバルジ構造としたTuDの方が、microRNAと完全相補としたTuDよりも、microRNAに対する効果が高いことが示されました。
また、TuDは特定のmicroRNAに対し、1ヵ月以上阻害効果が持続することが示されています。

以上が、細胞内で発現させるタイプのTuDの紹介となります。
次に、人工的に合成されたRNA、Synthetic TuD(S-TuD)について紹介します。

Synthetic TuD
(S-TuD)(Haraguchi T et al. Nucleic Acids Res 2012; 40(8): e58)
細胞内で発現させるタイプのTuDの構造(下の図のA)をもとに、人工的に合成して作られるSynthetic TuD(S-TuD)(下の図のB)が開発されました。

S-TuDは、RNAを作る部品として、2’-OMeで化学修飾されたRNAオリゴヌクレオチドが使用されています。

※化学修飾については、以下の記事もご参考ください。
核酸医薬 アンチセンスの化学修飾、承認されたRNaseH依存型アンチセンス [★★★]

細胞内で発現させるタイプのTuDは非常に長いRNAのため(上の図のA)、この長さのRNAを大量合成するのが容易ではないことから、STEMⅡの右側のループ部分で分割した2本のRNAを合成し、それらのRNAを相補的に結合させることで、上の図のBの構造を形成できるように設計されています。

Bの構造、配列についての詳細に話を移します。
まずSTEMⅠについて、細胞内で発現させるタイプのTuDの検討においてはExportin-5への結合能を考慮して、16未満の長さとならないように18の長さとしていました(長くなりすぎるとDicerに分解されることも考慮)。
ただ、合成したS-TuDは直接細胞質に導入するため、Exportin-5への結合能は関係ないことから、STEMⅠの長さについて検討されました。
STEMⅠの長さを14、10と短くし、S-TuDのmiR-21に対する阻害能を検討した結果、元の18の長さのS-TuDの阻害効果が最も強く、14、10と短くなるにつれて阻害効果が低下しました。
この理由について、S-TuDの構造の安定性の観点から、温度を変化させたときの2本鎖の解離について検討したところ、STEMⅠの長さが短いほど、より低い温度で解離が起こることから、18の長さのSTEMⅠの構造が、S-TuDの2本鎖の安定に重要な役割を果たすとされ、元の18の長さのSTEMⅠが用いられることとなりました。

次にmicroRNAの結合部位であるMBSの検討について説明します。
MBSの配列について、細胞内で発現させるタイプのTuDでは、microRNAと完全相補の配列とするよりも、4塩基挿入してバルジ構造としたTuDの方が、microRNAに対する阻害効果が高くなっていました。
そこで、S-TuDについても同様の検討を行いましたが、miR-21に対するS-TuDと、miR-200に対するS-TuDで異なる傾向となりました。
miR-21に対するS-TuDでは、4塩基挿入したS-TuDの方が完全相補配列のS-TuDよりも阻害効果が高いのに対し、miR-200に対するS-TuDでは、完全相補配列のS-TuDの方が4塩基挿入したS-TuDよりも阻害効果が高いという結果となったのです。

この理由について、著者らはS-TuDの二次構造をCentroidFold(http://rtools.cbrc.jp/centroidfold/)を用いて予測し、検討しました。
S-TuD内の2本のRNAのMBS間の結合塩基数について、miR-21に対するS-TuDでは、完全相補配列での結合塩基数は10塩基、4塩基挿入した場合は6塩基、miR-200に対するS-TuDでは完全相補配列では5塩基、4塩基挿入した場合は12塩基でした。
この結果から、S-TuDのMBS間の結合は、miR-21では「完全相補配列(10塩基)>4塩基挿入(6塩基)」、miR-200では「完全相補配列(5塩基)<4塩基挿入(12塩基)」であり、一方で阻害効果はmiR-21では「完全相補配列<4塩基挿入」、miR-200では「完全相補配列>4塩基挿入」であったことから、S-TuDのMBS間の結合が強すぎると、microRNAに対する阻害能が低下すると、著者らは推察しました。
(著者らは、microRNAに対する阻害能に影響するMBS間の結合塩基数の閾値を9と推測しています)
(なお、著者らはMBS間の相互作用の強さについて、温度変化させたときの二本鎖RNAの解離についても検討していますが、その詳細は割愛します)

この結果より、S-TuDのMBSの配列を決める際、例えば完全相補配列のMBS間の結合塩基数が閾値である9を超える場合は、4塩基を挿入したり、1塩基のみ変異を導入したりするなどで、MBS間の結合塩基数を閾値以下に減らすと、S-TuDのmicroRNAに対する阻害効果が向上する可能性があると考察しています。

なお、S-TuDの効果持続時間について、特定のmicroRNAに対して阻害効果が7日以上持続することが確認されています。

以上が人工的に合成して作られるSynthetic TuD(S-TuD)の紹介となります。
このS-TuDですが、研究用試薬として試薬メーカーより合成サービスが提供されており、阻害したいmicroRNAを指定して注文することができるようになっています。

microRNA増加に対する創薬手法として、今回は細胞内で発現させるタイプのTuD、そしてTuDの構造をベースに開発されたS-TuDについて紹介しました。
これらは日本で先行して開発された技術ということで、今後世界に先駆けて臨床開発が行われるようになることを期待したいと思います。

次回は「microRNA増加に対する創薬」の最後のテーマである、低分子化合物について紹介する予定です。

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