核酸医薬・RNA関連

核酸医薬・RNA スプライシング異常と疾患 [★★~★★★]

投稿日:2022年7月24日 更新日:

大分時間が空いてしまい、すみません。
今回は、スプライシング異常と疾患についてです。
本題に入る前に、遺伝子変異について説明します。

遺伝子であるDNAはタンパク質の設計図であり、A、T、G、Cの4つの文字から成っていますが、3文字がタンパク質を構成する20種類のアミノ酸の一つに対応しています。
(RNAの場合は、TがUとなり、A、U、G、Cの4文字から成っています)

例えば「GGT」はアミノ酸「グリシン」に対応しており、「GCT」は「アラニン」に対応しています。
DNAの文字列が「GGT GGT GCT」であれば、「グリシン-グリシン-アラニン」というタンパク質ができることとなります。
DNAの文字列とアミノ酸の対応を示したのが「コドン表」です。
(DNA 3文字をコドンと言います)

ヒト一人ひとりの遺伝子配列を比べると全く同じではなく、一部の文字が異なっています。
(その違いが個性として表れています)
大多数の方が持つ共通の配列に対し、ある方で文字が異なっている場合、それを遺伝子変異と呼びます。
変異は親から遺伝により受け継がれて生まれたときから持っている場合もありますし、生まれた後に起こる場合もあります。
変異があっても何も問題ない場合もあれば、たった1文字の変異が、重篤な疾患の発症につながる場合もあります。

例えば、「GGT TAT GCT GGT GCT GCT」というDNAの文字列から生成されるタンパク質は、コドン表より「グリシン-チロシン-アラニン-グリシン-アラニン-アラニン」となります。
ここに1文字変異が入って、「GGC TAT GCT GGT GCT GCT」となったとします(はじめの「GGT」が「GGC」となった)。
コドン表を見てみますと、「GGT」も「GGC」も「グリシン」をコードしていますので、生成されるタンパク質は変わりません。
この場合の変異では、何も異常を生じさせないということになります。

別の例で、「GGT TCT GCT GGT GCT GCT」となったとします(「TAT」が「TCT」となった)。
「TCT」は「セリン」をコードするため、この場合はアミノ酸に置換が起こり、「グリシン-セリン-アラニン-グリシン-アラニン-アラニン」が生成することとなります(「チロシン」が「セリン」となった)。

それではもう一つの例で、「GGT TAA GCT GGT GCT GCT」となったとします(「TAT」が「TAA」となった)。
コドン表の「TAA」には「終始」とありますが、これは何でしょうか?
DNAの配列にはタンパク質のはじめと終わりを示す「開始コドン」と「終始コドン」があります。
開始コドンは「ATG」と決まっており、ATGからタンパク質の生成がはじまります。そして終始コドンが現れると、そこでタンパク質の生成が終了します。
「TAA」は終始コドンであるため、この例では、「グリシン-終始」となってしまい、ここでタンパク質の生成が終了してしまうのです。
このように終始コドンに置き換わってしまう変異を「ナンセンス変異」と言います。

ナンセンス変異では、正常のタンパク質に比べて非常に短い異常なタンパク質が生成することになることから、生体はこれを防ぐために、ナンセンス変異の生じたmRNAを分解する「NMD(nonsense – mediated mRNA decay)」という機構を持っています。
ただ、結局は該当するタンパク質を欠如させるため、ナンセンス変異は重篤な疾患の原因となります。

遺伝子変異には、これ以外にDNAの文字の欠如や挿入が起こり、3文字の読み枠がずれる「フレームシフト変異」があります。
例えば先の例の「GGT TAT GCT GGT GCT GCT…」の「TAT」の真ん中のAが欠如して「TT」となった場合、「GGT TTG CTG GTG CTG CT…」と読み枠がずれるため、「グリシン-ロイシン-ロイシン-バリン-ロイシン-…」という全く異なるタンパク質ができてしまいます。
また、読み枠のずれにより、終始コドンが現れる場合もあります。


このように、たった1文字の変異により、タンパク質ができなくなってしまったり、全く別のタンパク質ができてしまったりということがあります。
ちょっと長くなってしまいましたが、前知識として遺伝子変異について説明しました。
それでは、ここからスプライシングの話に入っていきます。

スプライシングの異常も遺伝子変異により起こります。
スプライシングの異常とは、例えば正常ではスプライシングによりイントロンが除去され、3つのエキソン(エキソン1、エキソン2、エキソン3)が結合するとします。
それに対し、DNAのある部位に変異が入ることで、エキソン2がスキップされてしまい、エキソン1とエキソン3が結合したものができてしまうことがあります。
そうすると、この場合では、エキソン2に相当する部分が欠落したタンパク質ができるということになります。

エキソンが欠落した際、DNA配列の読み枠がずれてしまうこともあります。
なぜかというと、一つのエキソンの文字数は必ずしも3の倍数になっていないからです。
この読み枠のずれにより、全く異なるタンパク質が生じることもありますし、先に説明した終始コドンが現れ、タンパク質自体ができなくなることもあります。

それでは、なぜ遺伝子変異によりスプライシングが正常に行われなくなるのでしょうか?
前回、RNA上にはスプライシングに関連する配列があり、スプライシングの実行部隊であるスプライソソームによってそれらの配列が認識され、スプライシングが行われるという話をしました。

復習ですが、5’スプライス部位の「GU」はスプライソソームのU1 snRNPにより認識されます。3’スプライス部位の「AG」はU2AFと呼ばれるタンパク質のサブユニットであるU2AF35により認識され、ブランチ部位の少し後ろのポリピリミジントラクトはU2AFのもう一つのサブユニットU2AF65により認識されます。そして、ブランチ部位の「A」はU2 snRNPにより認識されます。

また、選択的スプライシングによりさまざまなスプライシングバリアントが生じますが、その制御にはエキソン上のESE、ESS、イントロン上のISE、ISSの配列が関与しており、それらに結合するSRタンパク質やhnRNP(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein)により制御されています。

このことを踏まえると、スプライス部位やブランチ部位の変異が生じ、スプライソソームによって認識されなくなると、スプライシングに異常が起こります。
また、選択的スプライシングに関与するESE、ESS、ISE、ISSに変異が起こり、SRタンパク質やhnRNPにより認識されなくなった場合にも、スプライシングに異常が起こります。

スプライス部位の変異による例を挙げてみますと、5’スプライス部位のGT(RNAではGU)に変異が起こり、AT(RNAではAU)となった場合に、エキソンがスキップすることが報告されています(野津寛大. 腎臓内科 2020; 12(4): 436-442)。

スプライス部位に変異が起きても、近傍に同配列があり、その部位がスプライス部位として認識される場合もあります。
例えば、3’スプライス部位のAGが変異してTG(RNAではUG)となったものの、その下流にあるエキソン上のAGがスプライス部位として認識されたため、同エキソンのはじめの部分のみが欠失したという例があります(野津寛大. 腎臓内科 2020; 12(4): 436-442)。

変異により、スプライス部位が新たに作られ、エキソンの長さが変わってしまう例もあります(野津寛大. 腎臓内科 2020; 12(4): 436-442)。

このように、スプライス部位(およびその近傍)の変異だけを見ても、スプライシングの異常にさまざまなバリエーションを生じます。

それでは、選択的スプライシングに関与するESEやESSの変異の場合はどうでしょうか?
例えば、エキソン中のESEの配列に変異が生じることで、そのエキソンがスキップされる例が報告されています(脇坂啓子ら. 循環器内科 2011; 70(5): 523-529)。

ESS配列に変異が生じる場合は、エキソンのスキップが抑制されることがあります。
例えば、正常の場合には選択的スプライシングにより2つのアイソフォームが生じるのに対し、ESS配列に変異を生じることでエキソンのスキップが抑制されて、エキソンのスプライシングが行われる方のアイソフォームのみが生じることがあります(今泉和則. 蛋白質 核酸 酵素 2006; 51(14): 2287-2293)。

このように、ESEやESSに変異が生じた場合にもスプライシング異常が起こります。

また、スプライシングを行うスプライソソームや、選択的スプライシングに関与するSRタンパク質やhnRNPに変異が入り、それらが機能異常を起こすことでスプライシング異常を生じる場合もあります。

以上、長くなりましたが、スプライシング異常の各ケースについて説明しました。
スプライシング異常が認められる疾患は多岐に渡り、家族性高コレステロール血症やアルツハイマー病、パーキンソン病、統合失調症、先天性筋無力症などで認められています(片岡直行. 細胞 2012; 44(14): 578-580、今泉和則. 蛋白質 核酸 酵素 2006; 51(14): 2287-2293、大野鉄司. 臨床神経学 2007; 47(11): 801-804、眞部孝幸. 医学のあゆみ 2011; 238(5): 491-497)。
また、造血器腫瘍(がん)においてもスプライシング異常が散見され、特にスプライシングを行う因子に変異を生じることが報告されています(吉見昭秀. 臨床血液 2020; 61(6): 634-642)。
※各疾患での詳細が知りたい方は、上記引用を参考ください。

難病である筋ジストロフィー、脊髄性筋委縮症はスプライシング異常として代表的な疾患であり、スプライシング制御型アンチセンスの開発が成功している疾患ですので、この2つは次回から取り上げます。
ということで、次回は本題であるスプライシング制御型アンチセンスに入っていきます。
まずは、筋ジストロフィーに対するスプライシング制御型アンチセンスについて取り上げたいと思います。
それでは。

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