核酸医薬・RNA関連

核酸医薬・RNA スプライシングについて [★★~★★★]

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今回からスプライシング制御型アンチセンスの話に入っていきます。
アンチセンスの前に、まずは「スプライシング」の全体的な話をしていきたいと思います。
(スプライシングはRNAの一般的な話ですので[★★]としようかと思いましたが、ちょっと複雑で専門的かと思いましたので[★★~★★★]としました)

DNAからRNAが作られ、そこからタンパク質が作られますが、ヒト遺伝子(DNA中のタンパク質をコードしている領域)の総数が20,000~30,000個であるのに対し、タンパク質の数は10万種以上あるとされています。
それは、1つの遺伝子から複数種のタンパク質が産生されるからであり、RNAのスプライシングがその過程を担っています。

DNAから作られるRNAには「エキソン」と「イントロン」と呼ばれる領域が交互に並んでいます。
「イントロン」は除去される領域であり、「エキソン」がつなぎ合わされてタンパク質をコードする「mRNA」となります。
この過程が「スプライシング」です。
なお、スプライシング前の、DNAから作られた直後のRNAを「mRNA前駆体(pre-mRNA)」と呼びます。

エキソンとイントロンの長さですが、エキソンは平均145塩基と言われています。
一方、イントロンは平均3,300塩基と言われていますが、数10塩基から100万塩基を超えるものまで様々です。

さて、このスプライシングにおいては、「エキソン」の全てが常に連結するとは限りません。
例えば、下の図のように、エキソン1~エキソン4の全てが連結する場合もあれば、エキソン1、エキソン3、エキソン4が連結する場合もあります。
それにより1つの遺伝子から複数種のmRNAが生み出されるわけです。
このスプライシングの仕組みを「選択的スプライシング」と言います。
そして、スプライシングによって複数種生じるmRNAの総体を「スプライシングバリアント」と言います。
選択的スプライシングが起こることで、20,000~30,000個の遺伝子から、10万種類以上のタンパク質が生み出されるということです。

選択的スプライシングには、以下のようないくつかの決まった型があります。

選択的スプライシングのパターン(5パターン)
①カセットエキソン
図のエキソン2について、保たれる場合と除去される場合がある。

②相互排他的エキソン
図のエキソン2または3のどちらかが保持される。

③選択式5’スプライス部位
図のエキソン1の右端について、スプライシングを受ける部位によりバリエーションが生じる。

④選択式3’スプライス部位
図のエキソン2の左端について、スプライシングを受ける部位によりバリエーションが生じる。

⑤選択的なイントロン保持
イントロンが削除される場合と、削除されずに保持されるパターン。

それでは、スプライシングはどのように制御されて起きているのでしょうか?
その仕組みについて少しみていきます。

イントロンのはじめは「GU」ではじまり、「AG」で終わるという規則があります。
また、終わりの「AG」の少し手前に、ブランチ部位(分岐部位)と呼ばれる「A」が存在します。
これらが認識され、スプライシングが行われます。

「エキソン/イントロン/エキソン」の配列についてもう少し詳しく見ると、イントロンのはじめの「GU」を含む部位は「AG/GURAGU」、ブランチ部位は「YNCURAC」、イントロンの終わりの「AG」を含む部位は「YAG/G」となっています。
(「/」はエキソンとイントロンの境界、「R(プリン)」はAまたはG、「Y(ピリミジン)」はCまたはU、「N」は任意)
また、ブランチ部位の少し後ろにはY(ピリミジン:CまたはU)が連続して並ぶ領域(ポリピリミジントラクト)が存在しています。
なお、このような特定の決まった配列を「コンセンサス配列」と言います。
(引用により若干配列の記載が異なるようです)

続いて、スプライシングではこれらの配列がどのように動き、イントロンが除去されるのかを簡単に見ていきます。
まず、ブランチ部位の「A」がイントロンはじめの「G」と連結します。このとき5’側のエキソンは切断されて遊離します。ここで生じるイントロンの構造は「投げ縄(ラリアット)構造」と呼ばれています。
次に、遊離した5’側のエキソンが3’側のエキソンと結合し、このときイントロンの末端が切断されて遊離します。

このようにイントロンが除去されるのですが、RNA単独で自動的に起こっているのではなく、スプライシングを行う実行部隊が存在します。
この実行部隊は「スプライソソーム」と呼ばれているものです。
スプライソソームは5つのRNAとタンパク質の複合体(U1、U2、U4、U5、U6)と、別のいくつかのタンパク質から構成されており、これらによってイントロンおよびエキソンが認識され、スプライシングが行われます。
(スプライソソームの5つのRNAは、タンパク質をコードしていない全く別のRNAです)
(RNAとタンパク質の複合体は「RNP」と呼ばれ、核内で機能するU1~U6は「snRNP(small nuclear ribonucleoprotein)」と呼ばれます)

5’スプライス部位の「GU」はU1 snRNPにより認識されます。
3’スプライス部位の「AG」はU2AFと呼ばれるタンパク質のサブユニットであるU2AF35により認識され、ブランチ部位の少し後ろのポリピリミジントラクトはU2AFのもう一つのサブユニットU2AF65により認識されます。
そして、ブランチ部位の「A」はU2 snRNPにより認識されます。
(U4、U5、U6 snRNPはこの後結合しています)
このような一連の過程を介して、スプライソソームが形成されていきます。

イントロンおよびエキソンの認識に関与する配列に変異が入ると、snRNPやU2AFなどのタンパク質による認識が正確に行われなくなり、スプライシングに異常が生じることがあります。それが疾患につながっていきます。

ここまでスプライシングがどのように起こるかについて説明してきましたが、選択的スプライシングはどのように成されるのでしょうか?
エキソンおよびイントロンには「エンハンサー」、「サイレンサー」と呼ばれる配列が存在します。
エキソンのエンハンサー配列はESE配列(exonic splicing enhancer)、サイレンサーはESS配列(exonic splicing silencer)と呼ばれ、イントロンのエンハンサー配列はISE配列(intronic splicing enhancer)、サイレンサーはISS配列(intronic splicing silencer)と呼ばれます。

これらの配列に結合してスプライシングを調節するタンパク質が存在します。
エキソンのESE配列には「SRタンパク質」と呼ばれるタンパク質が結合し、スプライシングを促進します。
一方、エキソンのESS配列には「hnRNP(heterogeneous nuclear ribonucleoprotein)」が結合し、スプライシングを抑制します。
これらの調節因子の発現・機能は、組織や発生段階により差異があり、ストレスなどによっても変動するため、それによりエキソンの選択に差異が生じる、つまり選択的スプライシングが起こるというわけです。

以上、非常に長くなりましたが、今回はスプライシングの全体像を説明しました。
今回の内容が、スプライシング制御型アンチセンスを理解するためのベースとなります。
次回は、「変異によるスプライシング異常」について説明していきます。

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