それでは、「核酸医薬」についての記事をはじめていきたいと思います。
初回は「核酸医薬」がどういうものか、全体像を紹介していきます。
生体内においては約10万種類あるとされる「タンパク質」が生命活動の中心的な役割を担っており、そのタンパク質の設計図がDNAです。
体中の全ての細胞が同じDNAを有していますが、組織によって必要となるタンパク質は異なるため、各組織においては産生したいタンパク質をコードするmRNAのみがDNAから作られ(転写)、mRNAの情報をもとにタンパク質が作られます(翻訳)。
この流れが「セントラルドグマ」です。
(「産生したいタンパク質をコードするmRNA」…「産生したいタンパク質の情報を有するmRNA」、「産生したいタンパク質に相当するmRNA」などという意味合いです)
↓こちらでも以前説明しました。
DNA⇒RNA⇒タンパク質(用語解説) [★~★★]
タンパク質が生命活動を行う実行部隊であることから、これまではタンパク質に作用する薬を中心に、開発がなされてきました。
タンパク質を標的とした薬を大きく分類すると「低分子医薬品」と「抗体医薬品」がありますが、いずれもタンパク質に結合することで薬効を発揮するものです。
それに対し、「核酸医薬品」ではタンパク質に加え、RNAも標的となります。
(むしろ、RNAが標的の中心となります)
↓こちらも以前説明していましたので、参照ください。
低分子医薬品と抗体医薬品 [★~★★]
「核酸医薬品」はDNAやRNAを用いた薬です。
DNA、RNAを構成する4つの部品(「塩基」という)、「A(アデニン)」「T(チミン)またはU(ウラシル)」「G(グアニン)」「C(シトシン)」を自由に組み合わせて人工的に作られます。
(DNAではT、RNAではTの代わりにUとなります)
よって、核酸医薬品となるDNAやRNAの多くは、実際にヒトや動物に存在する遺伝子配列(AT(U)GCの配列)とは異なるものとなります。
(ヒトや動物に存在する配列をそのまま薬として用いる場合もあります)
「低分子医薬品」の開発においては、標的のタンパク質に強固に結合し、特異性も有する(標的のタンパク質には結合するが、他のタンパク質には結合しない)化合物を、網羅的に力技で探索する必要がありました。
それに対し「核酸医薬品」では、DNA・RNAの4つの部品の性質を利用して、特定のRNAに結合できるものを容易に設計することができます。
(核酸医薬品の開発の難しさは、他の点にあります)
ここで、DNAが2本鎖で二重らせん構造を形成していることをイメージしてみましょう。
DNAの片方の鎖には、対となる鎖が結合して2本鎖を形成しています。
DNAの部品である「塩基」の性質として、「A(アデニン)」と「T(チミン)」が結合し、「G(グアニン)」と「C(シトシン)」が結合するという性質があります。
RNAは1本鎖を想定されるかと思いますが、2本鎖を形成していることもあり、DNAと同様に「A(アデニン)」と「U(ウラシル)」が結合し、「G(グアニン)」と「C(シトシン)」が結合するという性質があります。
なお、DNAの鎖とRNAの鎖を結合させることも可能です。
この性質を利用すると、特定のRNAに結合できる一本鎖のDNAまたはRNAを容易に設計できます。
例えば、「AUGACAUCCUCC」というRNA配列に結合できる配列は、「A→U」「U→A」「G→C」「C→G」と変換することで、「UACUGUAGGAGG」となります。
なお、この対になる鎖を「相補鎖」といいます。
標的のRNAに結合するDNAやRNAは、標的RNAのタンパク質への翻訳を抑制します。
どのように抑制するかについては次回以降説明しますが、このタイプの核酸医薬は大きく分類して「アンチセンス」と「siRNA(small interfering RNA)」といったものがあります。
核酸医薬品の標的となるのは、タンパク質をコードしているmRNAに加え、タンパク質をコードしていないRNA(microRNAなど)や、mRNAになる前の前駆体であるpre-mRNAもありますが、ちょっと話が複雑になるので今後の各回において説明していきます。
ここまでRNAを標的とした核酸医薬について説明しましたが、一本鎖RNAはその鎖内で相補的に結合し、さまざまな構造をとることが可能であることから、低分子医薬品や抗体医薬品のようにタンパク質に結合し、タンパク質の機能を抑制するRNAも開発することができます。
このようなRNAを「アプタマー」といいます。
標的RNAの翻訳を抑制する核酸医薬(アンチセンスやsiRNA)、標的タンパク質の機能を抑制する核酸医薬(アプタマー)というように、「抑制」する核酸医薬について紹介してきましたが、逆に、足らないRNAを補充する、mRNA自体を体に入れてタンパク質を作らせる、といった核酸医薬品も開発されています。
例えば新型コロナウイルスのmRNAワクチンは、新型コロナウイルスのもつタンパク質(スパイクタンパク質)をコードしたmRNAを生体内に入れることで、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質を体の中で作らせる医薬品です。
以上、今回は核酸医薬品の全体像についてみてきました。
次回から個別の説明に入っていきますが、まずは「アンチセンス」、「siRNA」、「アプタマー」について記載していきたいと思います。
これらは、「スプライシング」や「RNAi(RNA interference、RNA干渉)」といった生体内の仕組みも利用していますので、それらについてもあわせて記載していきたいと思います。
(「はじめに」の回で、ランダムに紹介としていましたが、最初のうちはある程度決まった流れで進められそうです)
それでは、「核酸医薬・RNA関連」の記事についても、興味のある方に是非お読みいただければと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。
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