リウマチの話で小さい薬(低分子医薬品)と大きい薬(抗体医薬品:Y字型のタンパク質)の話がでてきましたので、それについてお話します。
(全部理解するにはちょっと難しいかもです。分からないところは何となくで飛ばしてみてください)
復習ですが、タンパク質でもパックマン(酵素)のようにポケット(口の部分)がきちんとある場合には比較的小さな薬(低分子医薬品)でタンパク質の機能を抑制することができます。
一方で、タンパク質とタンパク質の平たい表面どうしで作用する場合などでは、小さい薬で相互作用を抑えることが難しく、その場合に大きな薬(抗体医薬品:Y字型のタンパク質)を用いることが多いです。
①構造の違い
まずは構造についてみてみましょう。
低分子医薬品の例ですが、上図のJAKに対する薬の一つ、オルミエント(一般名:バリシチニブ)の構造を下に示しました。
(高校で学ぶ有機化学の知識が必要ですが、1点1点が原子で、原子どうしが結びついていると考えてください)
一方で、抗体医薬品は一般的に以下のような構造をしています。
低分子医薬品と抗体医薬品の分子量を見比べてみましょう。
全然異なりますね。
抗体医薬品は低分子医薬品に比べてすごく大きいことが分かります。
②作り方の違い
次に作り方の違いについてみていきます。
低分子医薬品は化学合成によって作ります。
簡単に言うと、化学反応により原子をつなげていくイメージです。
一方で、抗体医薬品は生物に作らせる方法を用います。
抗体というのは、ウイルスや細菌などの異物が生体内に侵入した際、それらを除去するためのステップで作られるものです。(免疫系に関与する細胞により作られます)
例えばインフルエンザウイルスがヒトの体内に侵入した場合には、インフルエンザウイルスに強固に結合する抗体が作られます。
この免疫系のシステムを利用して抗体を作ります。
IL-6受容体(タンパク質)の抗体を作りたい場合は、IL-6受容体をマウスなどの動物に注射します。マウスなどの動物にとって、ヒトのもつIL-6受容体は異物ですのでこれを排除しようとし、IL-6受容体の抗体が作られます。
ただし、ここで作られる抗体は微量のため、たくさん作る必要があります。
抗体を作るのはマウスなどの動物の免疫系の細胞(B細胞)ですので、その細胞を取り出します。
次に取り出した免疫系の細胞(IL-6受容体の抗体を産生する細胞)を永遠に利用できるように、不死化したがん細胞と融合します。
そうすると、永遠にIL-6受容体の抗体を産生できる細胞ができますので、それを利用して抗体を作ります。
③量産とコスト
低分子医薬品を作る際は大量に合成する方法を構築しますので、量産が可能です。
それに対して抗体医薬品は、無限増殖できる細胞を作るといっても、細胞から産生される抗体の量は少ないですので、量産が難しいです。
よって、低分子医薬品はコストが比較的安価であり、一方で抗体医薬品は高価となります。
④薬の投与方法
低分子医薬品は経口投与が可能です。
一方、抗体医薬品は経口投与すると消化酵素により分解されてしまうため、血液中に注射で直接入れる必要があります。
⑤標的とするタンパク質との結合力、標的としないタンパク質への結合
抗体は異物を排除するために免疫系によって作られるものなので、その異物に強力に結合し、他のタンパク質には結合しにくい性質を持ちます。
⇒標的に対してのみ強い力で結合し、標的としないタンパク質には結合しにくいものです。
一方、低分子化合物は標的としないタンパク質にも多少結合するため、それによる副作用が問題となることがあります。
(抗体医薬品でも副作用がないわけではありません)
最後に低分子医薬品と抗体医薬品の違いについて表に整理しました。
いかがでしたでしょうか?
次回からは低分子医薬品をどのように見つけるか?ということについてお話したいと思います。
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