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<トピックス> がん免疫療法について(2018年ノーベル賞の話題) [★~★★]

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※がん免疫療法の記事のみ読みたい方は、はじめはとばして、<がん免疫療法について>からお読みください。

一般向け(★1つ)記事は一旦終了とか言ってましたが、ノーベル賞で「がん免疫療法」が騒がれているようで、興味がある方も多いかと思いますので、トピックスとして書いてみました。
(一般の方向けにかみ砕いて書いたつもりです)

ただ、私はがんの専門家ではないですので、この治療法がどの程度効果があるか、などについてはあまり述べないこととします。どのような点に着目されて作られた薬なのか、またこれまでのがんの薬と何が異なるか、などについて書いてみますが、少しだけがんの治療法についても触れています。

がんの薬については、これまでに主なものとして「化学療法」と「分子標的薬」の2種類がありました。
それに加え、今回騒がれております「がん免疫療法」が新たな治療選択肢として使用することができるようになりました。

前にも記事のどこかで書いたのですが、薬の本質は、体内で異常となった反応系を少しだけ調整する役割をするものではないかと私は思っています。それに対して「がん」が識別できるくらい大きくなった状態というのは、反応系がかなり異常の方向へ進んでしまった状態であり、薬で少しくらい調整しても治らない状態かと思います。よって、がんの薬を使用する際は、副作用をある程度覚悟して、かなり体に負担がかかる量で使用するということになるかと思います。
(一般的に、薬の量を増やすと効果は向上しますが、副作用も多くあらわれるため、通常は効果と副作用のバランスを考えて、効果がある程度期待でき、副作用があまりでないと考えられる量を用います。それに対してがんの場合は、かなり量をあげないと効果が期待できないため、ある程度の副作用のリスクは覚悟して用いられているかと思います)

そのようなことから、がんの治療としては、手術で切除できるのであれば、まずは切除すべきものかと思います。最近では診断や治療が進歩しており、早期発見、早期治療しやすい環境になってきているかと思いまして、軽い段階であれば、内視鏡で比較的容易に切除できるかと思います。内視鏡を用いた手術では、皮膚を大きく切開する手術に比べて体にかかる負担も少なくてすみます。

また、医療保険に入られている方や、検討されている方は聞いたことがあるかもしれませんが、先進医療として「陽子線治療」や「重粒子線治療」といった放射線治療も行われています。その名の通り、放射線をあててがんを死滅させる方法です。よく、医療保険の「先進医療特約」の中で記載されているかと思います。通常300万円?もの高額がかかるとのことですので、先進医療特約をつけておけば安心かと思います。ちなみに、私は保険会社とは何の関係もありません(笑)。

さらに光線力学的療法(PDT)といった治療も行われるようになっています。PDTとは、がん細胞に集まる性質をもつ薬剤(光に感受性のある物質)を注射した後、がんの組織にレーザーをあてることで、がん細胞に集まった光に感受性のある物質に光化学反応を引き起こし、がん細胞を死滅させるという方法です。

ただし、切除や放射線療法、光線力学的療法なども万能ではないというか、がんは様々な部位に転移していく性質をもつやっかいなものですので、がんが奥深くみえないところまで拡散してしまった場合など、全ての患者さんのがんを治すということは難しいのです。そのような中で、がんの薬が治療選択肢の一つとして使える、ということです。
がんの薬も万能ではないので、効果が認められる人もいれば、効果が認められない人もおります。そういう意味で、治療選択肢は多いに越したことはなく、「がん免疫療法」が使用できるようになったことで、治療の手段が1つ増えたと言えます。

長々とがんの治療について書いてしまいましたが、私はがんの専門家ではありませんので(繰り返しになりますが)、この辺にしておきます。

それでは、いよいよ薬の説明に入っていきたいと思います。
がんの薬としては主に「化学療法」と「分子標的薬」があるという話をはじめにしましたが、何のことやら?という方もいるかと思いますので、そこから説明していきます。

<化学療法について>
まず「化学療法」ですが、こちらは昔から使用されている薬で、副作用が多く出るのが特徴です。
なぜ副作用が出やすいのかというと、がん細胞のみでなく、正常な細胞に対しても影響する薬だからです。
このブログでは「疾患に関連するタンパク質を標的として薬が作られる」、という話をしてきましたが、化学療法が開発されたのは生体内の仕組みがまだあまり分かっていない時代であり、がんでどのようなタンパク質が働いているかなど、当時はまだ解明されていませんでした。そのため、とにかく細胞の増殖を妨げる物質が薬として開発されました。
化学療法に分類される薬の多くはDNAに作用する薬であり、がん細胞のDNAのみでなく、正常な細胞のDNAにも同様に作用して細胞の増殖をストップさせるため、それによる副作用があらわれます。

タンパク質を標的としていない薬① [★~★★]
■DNAに作用する薬
で化学療法の薬(の一部)の機序について説明していますので、興味のある方は読んでみてください。

<分子標的薬について>
次に「分子標的薬」ですが、こちらは疾患(がん)に関連するタンパク質を標的として開発された薬です。がんのメカニズムが解明され、がんの増殖や転移などに関与するタンパク質が徐々に明らかになっていったことから、それらのタンパク質を標的としてがんの薬が開発されるようになりました。
正常の細胞ではあまり持っておらず(発現しておらず)、がん細胞で多く持っている(発現している)タンパク質を薬の標的としていることから、正常の細胞にはあまり影響せず、化学療法に比べて副作用が少ないと言われています。

それでは、まったく副作用がでないかというと、そんなことはありません。正常細胞でも標的とされたタンパク質を多少なりとも有していますので、そのタンパク質を抑えたことによる影響はでます。また、やっぱり強い薬というか、がんに効果を示すには体に影響するくらいの量を用いる必要がありますので、化学療法とは異なる、分子標的薬特有の副作用が出ることがあります。

<がん免疫療法について>
それでは、いよいよ本題である「がん免疫療法」の説明をします。「がん免疫療法」と言うと実はかなり範囲が広く、ヒトの免疫機能を向上させることでがん細胞を排除するという方法全体を指しています。薬だけではなく、免疫細胞を取り出したうえで加工し、体内に戻すような方法もあります。
今回のノーベル賞は、その中でも「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる薬の開発につながったことによる受賞とのことですので、ここからは「免疫チェックポイント阻害剤」に話を絞って書いていきます。

「免疫チェックポイント阻害剤」もがんのメカニズムを基にタンパク質を標的として開発された薬ですので、「分子標的薬」の一種であると私は思っていますが、これまでの分子標的薬とは性質が異なるものですので、分けて考えていきます。

がん細胞は生体内の免疫系に見つかって捉えられてしまうと排除されてしまいますので、がん細胞の立場からすると排除されないような方法を考えていきます。それで、免疫系にみつかっても排除されないように、免疫系のスイッチをOFFにできる道具を使い、免疫系から逃れています。
具体的には、免疫系の一部であるT細胞の活性化スイッチをOFFにしています。

通常、生体内に異物があらわれるとT細胞は活性化して機能しますが(スイッチがONになる)、異物の排除が終わった後はOFFにしておかないと、過剰な免疫系の働きにより自己を攻撃してしまいます。そこで、活性化したT細胞にはPD-1受容体というON/OFFのスイッチが存在します。ここにリガンド(PD-L1およびPD-L2)が結合するとスイッチがOFFになるという仕組みです。これは生体が防御機構として、身を守るために備えている仕組みです。
免疫系にはこのようなスイッチがいくつか存在しており、それを「免疫チェックポイント」と呼んでいます。すなわち、免疫系をONにするかOFFにするかを決める「チェックポイント」の役割をする仕組みということです。

ある種のがん細胞はこの仕組みを理解し、T細胞の活性化スイッチをOFFにするという巧みの技を得ています。がん細胞自身がPD-1受容体のリガンドであるPD-L1やPD-L2を作り出し、その道具をつかってPD-1受容体のスイッチをOFFにしています。そうすると、がん細胞は免疫系にみつかってもT細胞のスイッチがOFFになっているので、免疫系が働かずに排除されないということになります。このように、がん細胞は自身が生き延びるために、免疫系から逃れる仕組みを持っているのです。

この仕組みを逆手にとって作られた薬が「免疫チェックポイント阻害剤」です。がん細胞が作り出すリガンド(PD-L1およびPD-L2)がPD-1受容体に結合できないようにしてしまえば、T細胞をONからOFFにすることはできず、がん細胞は免疫系により排除されます。そのためにはPD-1受容体にテープを貼って口を塞いでしまえばよく、そのテープの役割をするのが「免疫チェックポイント阻害剤」です。その薬の一つがオプジーボ(一般名:ニボルマブ)という薬です。

今回ノーベル賞を受賞された本庶先生は、このPD-1受容体をはじめて発見した先生です。
PD-1受容体の発見が、新たながんの薬「免疫チェックポイント阻害剤」の開発につながったということで、受賞に至ったとのことです。

ちょっと話を広げますが、免疫チェックポイントはいくつかあると先ほど述べましたが、T細胞にはPD-1受容体以外にCTLA-4受容体という別のチェックポイントを持っており、こちらもリガンドが結合するとT細胞のスイッチがOFFになります。
これについて詳細は述べませんが、本庶先生と同時にノーベル賞の受賞が決まったアメリカのジェームズ・アリソン教授が発見したチェックポイントです。
このチェックポイントに対しても薬が開発されており、その一つがヤーボイ(一般名:イピリムマブ)という薬です。

免疫チェックポイント阻害剤がどのようなものか、何となく分かりましたでしょうか?
ここからは、これまでに使用されてきた「分子標的薬」と「免疫チェックポイント阻害剤」は何が違うのかについて考えてみます。

分子標的薬は、がんが増殖や転移するために必要な、がん細胞自身が生み出したタンパク質に作用するものでした。よって、分子標的薬はがん細胞に直接的に作用する薬と言えます。
一方で、免疫チェックポイント阻害剤の機序をふりかえってみますと、がん細胞に直接作用しているわけではありませんね。PD-1の話を振り返りますと、薬はがん細胞ではなく、T細胞の受容体であるPD-1に作用しています。

この違いが生み出すものは、がんに対する薬の耐性の違いかと思います。
分子標的薬ががん細胞に作用し続けると、がんはその支配下から逃れようとするため、自身のタンパク質を次々と変異させていき、分子標的薬が作用できないタンパク質を産み出せるようになっていきます。それにより、薬が徐々に効かなくなっていきます。これが薬に対する耐性ができるということです。
実際、分子標的薬の耐性の問題は、がんの治療における大きな問題の一つとなっています。

一方で、免疫チェックポイント阻害剤の標的であるPD-1受容体はT細胞が作り出しているタンパク質ですので、がん細胞が作り出しているタンパク質ではありません。よって分子標的薬と同じような耐性はできないかと思われます。
免疫チェックポイント阻害剤は、そのような特徴をもつからか、効果が認められる人に対しては、これまでの薬にくらべて長期間効果が持続すると言われています。
それでも、耐性の問題は複雑で、免疫チェックポイント阻害剤であっても何らかの機序により耐性ができる場合があるとも言われており、今後より検討されていくのではないかと思います。

とはいえ、免疫チェックポイント阻害剤が使用可能になったことで、分子標的薬に対する耐性ができてしまい、これまでであれば薬による治療ができなくなってしまった患者さんに対しても、新たな治療選択肢が産まれたということで、がん治療に大きく貢献するものかと思います。

ただし、免疫チェックポイント阻害剤は効果がある人には長期間効果が見込まれるのですが、効かない人には効きません。その理由(の一つ)ですが、PD-1受容体に対する薬であるオプジーボを使用する場合、がん細胞がPD-1受容体のスイッチをOFFにするためのリガンド(PD-L1およびPD-L2)をそもそも持っていなければ、いくらその部位をねらっても意味がないからです。PD-L1およびPD-L2を作り出しているがん細胞は少数派とも言われています。
(チェックポイントはいくつかあると記載しましたが、がんが免疫系から逃れる機序はPD-1経路のみではないはずですので、がん細胞が他の方法で免疫系から逃れているとすればPD-1受容体を狙った薬は効かないということになります)

このように、免疫チェックポイント阻害剤は新たな治療選択肢ではありますが万能薬ではありませんので、分子標的薬と同様、患者さんごとに適した治療法を選択していく必要があるかと思います。

かなり長くなってしまいましたが、いかがでしたでしょうか?
数回に分けても仕方がないので、一気に最後まで載せてしまいました。
また、このブログでは元々がんについては深く触れない予定だったのですが、ノーベル賞受賞ということもあり、がっつり書いてしまいました。

がんでお困りの方も多いかと思いますが、医師に言われるままではなく、それぞれの治療がどのようなものかを理解したうえで、患者さん自身が治療を選択していった方がよいかと思いますので、その参考になればと思います。
何度もしつこいですが、がんの専門家ではありませんので、そのところご了承くださいね。

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