とりあえず今回と次回で、一般の方向けの「薬の探索(開発)シリーズ」の最終として一旦締めます。
これまで、タンパク質の機能を阻害できる物質が薬になる、という話をしてきました。
実際、開発されている薬の多くはタンパク質を標的としたものでありますが、厳密にいうとそれだけではありませんので、皆様から色々と突っ込みが入るのを避けるためにも(笑)、タンパク質を標的としていない薬についても紹介したいと思います。
(2回に分けて説明しますが、今回は基本的なものをとりあげます。次回は「アプタマー」、「microRNAを標的とした薬」というちょっと新しい話題をとりあげてみます)
■タンパク質(酵素)自身を薬として用いる
生体内は約10万種類のタンパク質により制御されている、と話をしてきました。その中である反応系が促進している場合、その反応系の促進に関与するタンパク質の機能を阻害できる物質が薬になるという話をしてきました。
それでは逆に反応系が弱まっている場合はどうすればよいのでしょうか?ある物質(化合物)がタンパク質の機能を阻害することはできても、逆に促進させるのは難しいのです。そこで、反応系に関わるタンパク質そのものを人工的に作り、注射により補充する、ということが行われています。
例えば貧血の原因の一つに腎臓が悪くなることがあります(腎機能の低下)。腎臓が悪くなると、エリスロポエチンと呼ばれる血液(正確には赤血球)を作る働きをするタンパク質が腎臓から分泌されなくなっていきます。その結果、血が足りなくなって貧血となります。そこで、人工的にエリスロポエチンを作り、注射にて投与することで、貧血を改善することができます。
また、遺伝病(親から受け継がれた遺伝子に欠陥がある)により、生体内で重要な役割を担うあるタンパク質(酵素)が作れない人が中にはいます(かなり重い病気となってしまう方もおります)。そのような方に対しては、作れなくなったタンパク質(酵素)を人工的に作り、それを注射にて投与することで、治療を行うという方法があります。酵素補充療法という方法です。
このように、タンパク質自体が薬として使用されています。
■栄養剤やビタミン剤、ミネラルなど
栄養剤やビタミン剤、鉄などのミネラルなども医薬品の一種とされています。からだの中で不足した成分を補うためのものですね。昔は風邪などひいたときに医者で点滴してもらえ、などといいましたが、栄養分を点滴で補うわけです。この点滴に用いる液体も医薬品の一種です。栄養として糖質やタンパク質、アミノ酸、ビタミンなどの成分を補うことができます。
(ここでいうタンパク質は、上記の反応系で不足したタンパク質ということではなく、栄養分としてのタンパク質を補うということです。タンパク質が含まれる食品を摂取するのと同様です)
また、例えば貧血では鉄分が不足していることがあり、その場合には鉄分を補います。ここで用いられる鉄剤も医薬品の一種であります。
■DNAに作用する薬
がんの薬として使用されている薬の一部では、タンパク質ではなくDNAに作用する薬があります。
(あまりがんの薬の話はこのブログではしたくないのですが、薬の種類の話として少しだけ)
細胞が増殖するためにはDNAを増やしていく必要があります。前にとりあげましたが、ヘリカーゼというタンパク質が2本鎖のDNAを1本鎖にはがし。その後ポリメラーゼというタンパク質がDNAの鎖を伸ばしていくことでDNAが作られていきます。
ここで、DNAにある物質が結合し、DNAの鎖が伸びていくのを防いでしまうと、DNAが増えることができないため、細胞が増殖することができなくなります。
よって、DNAに結合する物質は、がん細胞が増殖するのを防ぐことができるため、がんの薬として用いられます。
しかしながら、このような薬は正常な細胞の増殖も防いでしまうため、副作用があらわれやすいという欠点があります。
いかがでしたでしょうか?
薬の多くはタンパク質に作用するものですが、それ以外にもこんな薬がある、というのを紹介してみました。
次回は、はじめにも記載しましたが、「アプタマー」と「microRNAを標的とした薬」について紹介します。いずれもRNAに関連するもので、「セントラルドグマ」など復習ででてきます。
それでは。
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