前回に続いてウイルスをテーマとして薬の開発の話をしていきます。
復習ですが、ウイルスの持つタンパク質の機能のみを抑制し、ヒトに影響を与えないものが薬として重要という話を前回しました。…副作用の懸念のためです。
また、ウイルスに対する薬の標的の例としてポリメラーゼ(DNAやRNAを増殖する機能を持つタンパク質)をとりあげて説明しました。
ウイルスのポリメラーゼとヒトのポリメラーゼは、その構造や大きさが全く異なるので、ウイルスのポリメラーゼの機能のみを抑制し、ヒトのポリメラーゼの機能は抑制しない薬を開発することが可能であると考えられます。
実際、C型肝炎ウイルスのRNAポリメラーゼ阻害薬の一つであるベクラブビル塩酸塩(ジメンシーという薬に含まれる有効成分の1つ)は、C型肝炎ウイルス由来のRNAポリメラーゼを選択的に阻害し、ヒトのポリメラーゼにはほとんど影響しないことも報告されています。
(C型肝炎ウイルス ジェノタイプ1aおよび1bに対するIC50値は数nMであるのに対し、ヒトでは>100μM)
※上記()内は専門的な話ですので、一般の方は無視してください。
出典:ジメンシー申請資料概要2.6.2(PMDAのホームページよりダウンロードできます)
さて、ポリメラーゼ(タンパク質)の「構造」という話がでましたが、このブログではタンパク質の構造ついてまだ何もふれていません。
前回までの説明だと、タンパク質はアミノ酸が連結したものであると説明しました。
上の図のように、タンパク質はアミノ酸が連結して一本の鎖のようになっておりますが、実際にはこの鎖は直線状ではありません。一本の鎖が折りたたまって3次元構造を形成しています。
このような構造を毎回示すのは複雑ですので、タンパク質の構造を簡易的に以下のように表すことにします。
パックマンのようにタンパク質の構造を表しましたが、なぜでしょうか?
(パックマンというゲームご存じですよね?)
例えば前述のポリメラーゼですが、ポリメラーゼがDNAやRNAを作り出すとき、既に存在するDNAやRNAをベース(鋳型といいます)としてもう一つのDNA/RNAを作ります。
その際、ポリメラーゼはDNAやRNAに結合する必要があり、その部位をパックマンの口の部分で表現しています。
DNAやRNAが新たに作られるときの機序ですが、DNAの場合はまず、2本の鎖がヘリカーゼと呼ばれるタンパク質により1本にはがされます。
次に、1本となったDNAがDNAポリメラーゼに結合します。
すると、DNAポリメラーゼがその1本の鎖を基に、もう1本の鎖を作り出していきます(伸長していきます)
このサイクルごとにDNAは倍の数になっていきます。
一方RNAの場合は元々1本の鎖しかありませんので、この1本の鎖を基にRNAポリメラーゼがもう1本の鎖を作り出します。
ただ、RNAは1本鎖で存在するものなので、2本鎖のRNAはヘリカーゼと呼ばれるタンパク質により1本にはがされます。
このサイクルごとにRNAは倍の数になっていきます。
~ヘリカーゼについて~
ちょっと脱線しますが、上記に「ヘリカーゼ」というタンパク質がでてきました。2本鎖のDNAやRNAを1本の鎖にはがす機能を持つタンパク質なのですが、このタンパク質もDNAやRNAが増殖する過程で必須のものですので、薬の標的となるタンパク質です。ウイルス自身がDNAヘリカーゼやRNAヘリカーゼを持っており、ヒトが持つヘリカーゼと構造や大きさが異なるものです。
~ヘリカーゼについて ここまで~
話を戻しますが、上記のようにタンパク質とDNA/RNAが結合する所からDNA/RNAの増殖が始まります。よってこの過程を抑制すればDNAやRNAは増殖できなくなるのでウイルスも増殖できなくなります。
よって、DNAやRNAがタンパク質(ポリメラーゼ)に結合できなくなるものが薬の候補となります。
その1つとしては、パックマンの口の部分をふさいでしまえばよいので、DNAやRNAがタンパク質に結合する部位(パックマンの口の部分)に結合するものが薬として、考えられます。
もう1つ、パックマンの口以外の箇所に結合する薬があります。結合するとタンパク質の立体構造が変化し、DNAやRNAが結合する部分の構造も変化することで、DNAやRNAが結合できなくなるというものです。
(そのような部位を「アロステリック部位」(専門用語です)と言います)
先ほどC型肝炎ウイルスのRNAポリメラーゼ阻害薬「ベクラブビル塩酸塩」の例を出しましたが、こちらの薬は上記2番目のアロステリック部位に結合するタイプの薬です。
いずれのタイプにしても、ポリメラーゼの機能(DNAやRNAを増殖させる機能)を抑制するものが薬になりますので、そのような物質を探していくと薬が開発できます。
それでは、そのような物質はどのように探せばいいのでしょうか?
その話は薬の開発シリーズの続きとして、次回以降お話していきます。
※インフルエンザの季節になりましたので、次回は久しぶりに疾患・治療の話として、抗インフルエンザ薬の効果の話を入れたいと思います。
添付文書やインタビューフォームをもとに、その効果についてみていきましょう。
(ちょうどウイルスの話をしているので、丁度よいですね!)
<Sponsered Link>