★疾患と薬/薬の開発

ウイルスを標的とした薬の開発-① [★~★★]

投稿日:2017年10月22日 更新日:

さて、今回から本格的に薬の開発の話に入っていきます。
前々回、疾患の分類(私案です)という話をしましたが覚えておりますでしょうか?
ウイルス・細菌など外的要因による疾患を「分類1」、それ以外のものを内的要因による疾患として「分類2」としました。

↓前回の図

分類1と分類2、いずれにしてもタンパク質が薬の標的となるという話をしました。
そして、分類1ではウイルスや細菌の持つタンパク質が標的になり、分類2ではヒトの持つタンパク質が標的になる、という違いがあるというところまで話をしました。
今回は分類1のウイルスに焦点をあて、ウイルスに対する薬の話をします。

「ウイルス」という言葉は今ではすごくメジャーなものとなりました。
細菌に比べてものすごく小さいもので、風邪の多くはウイルスによるものであることもよく知られるようになりました。
(細菌には抗菌薬が効きますが、ウイルスには効きませんね!)

風邪を引き起こすウイルスは何百種類もあるといわれており、症状も大したことありませんので、風邪のウイルスに対する薬というのは開発されていません。
(ご存知かと思いますが、風邪を原因から治す薬というのはありません)

一方で、もっとひどいウイルスの疾患については需要も高く、疾患を引き起こしているウイルスも特定されるので、最近では色んな薬が開発されてきています。

例えば、身近なものでいえばインフルエンザウイルスに対する薬です。「タミフル」は有名ですよね。
C型肝炎やB型肝炎も有名な病気ですが、それらもウイルスによるものでして、ウイルスに対する治療薬が開発されています(C型であればC型肝炎ウイルス、B型であればB型肝炎ウイルスです)。
また、エイズの原因となるHIVウイルスの治療薬も開発されています。
(各々の薬の効果については気になるところかと思いますので、また後日にでも疾患・治療の話でとりあげます)

それでは、ウイルスの治療薬を理解するために、まずはウイルスの構造をみてみます。
ウイルスは遺伝子とそれを囲む殻みたいなものからできています。
ウイルスは「生き物」とまではいえず、生物と物質の中間のものと考えられています。
また、ヒトにはDNAがあり、DNAからRNAがまず作られるという話を前回しましたが、ウイルスはDNAをもっているもの(DNAウイルス)と、DNAを持たずにRNAを持っているもの(RNAウイルス)の2種類が存在しています。

カプシドはウイルスの遺伝子(DNAまたはRNA)を囲んでいるタンパク質の殻
エンベロープは脂質やタンパク質などから成る膜で、ヒトなどの細胞に侵入する機能などを持っている

ウイルスは自分の力だけで増殖することができません。
そのため、ヒトの細胞内に入り込み、ヒトの細胞が持っている装置を勝手に使って増えていきます。これがウイルス感染です。
下にウイルスの増殖過程を示しました。

それでは、ウイルスは増殖するために必要な装置を自身で何も持っていないのでしょうか?
というとそんなことはなく、ウイルス自身を構成するタンパク質や、増殖に必要な最低限のタンパク質は持っており、それらを作り出すための遺伝子がウイルスのDNAまたはRNAであります。

例えばDNAウイルスが増殖するためには自身のDNAを増やす必要があり、そのためには自身がもっている「DNAポリメラーゼ」というタンパク質が必要となります。
一方でRNAウイルスが増殖するためには自身のRNAを増やす必要があり、そのためには自身がもっている「RNAポリメラーゼ」というタンパク質が必要となります。
「ポリメラーゼ」を簡単に説明すると、DNAやRNAを作り出すタンパク質です。

よって、ウイルスのポリメラーゼの機能を抑制する物質は、ウイルスの薬としての標的と考えられており、実際に薬としても開発され使用されています。
例としては、C型肝炎の治療薬として、C型肝炎ウイルスの持つRNAポリメラーゼを阻害する薬が近年開発されて使用されるようになりました。

一方で、ヒトも細胞を増殖させるためにはDNAを増やす必要がありますので、DNAポリメラーゼをもっています。ただ、ヒトのDNAポリメラーゼとウイルスのポリメラーゼでは、その構造や大きさが全く異なるものです。ウイルスのタンパク質とヒトのタンパク質が大きく異なるということは、ウイルスの薬を考えるうえで非常に重要な点となります。
仮にウイルスのポリメラーゼの機能を阻害する薬がヒトのポリメラーゼを阻害してしまうと、ヒトの細胞も増殖できなくなってしまい、それが大きな副作用として現れるからです。
よって、ウイルスが持っているタンパク質の機能のみを抑制し、ヒトのタンパク質の機能には影響を与えないことが重要となります。

上記でウイルスは自身の力のみでは増殖できないので、ヒトの細胞に入り込み、その中の装置を使って増殖することを述べました。ヒトの細胞内の装置の機能を抑制した場合でも確かにウイルスが増殖できなくなると考えられるのですが、その装置はヒトの細胞が増殖するためにも必要ですので、そのような薬はヒトにも影響を及ぼすものとなってしまいます。

よって、疾患分類1のウイルスや細菌に対しては、ウイルスや細菌の持つタンパク質の機能のみを抑制し、ヒトに影響を与えないものが薬になると考えられています。
(全くヒトに影響がない薬というのはないため、なるべく影響がでないもの、言い換えると副作用が少ないものが望まれます)

いかがでしたでしょうか? 次回も引き続きウイルスに対する薬をテーマとし、タンパク質や薬の構造的なものを含めた話にしたいと思います。

<Sponsered Link>



-★疾患と薬/薬の開発