薬物動態

薬物動態 血漿タンパク結合率と非結合型分率、分布容積への関与 [★★]

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忙殺されており、8月以来となってしまいました・・・
これまで、「血中濃度は分布容積と全身クリアランスで決まる」という話をしてきましたが、さらにその上流にある、分布容積と全身クリアランスを決める因子についての話に入っていきます。

ここからは少し深い話になりますので、このブログでは導入のみ説明し、そこから先はこれまで<参考書籍>として紹介してきました、緒方先生の「臨床薬物動態学」に委ねることといたします。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

それでは、今回は「血漿タンパク結合率」と「非結合型分率」について説明していきます。
後半では分布容積への関与について説明します。

薬の有効性と安全性は血中濃度で決まるということで、これまで血中濃度の話をずっとしてきたわけですが、血中に入った薬は一人でプカプカと浮いているのでしょうか?
血液(血漿)の中にはアルブミンをはじめとする多量のタンパク質が存在しています。
そのため、薬は血中でのんきに一人プカプカ浮いているわけではなく、薬の一部は血液(血漿)中のタンパク質に結合します。

~補足~
血液中の液性成分が血漿です。
血液は血漿と、細胞成分(赤血球、白血球、血漿板など)からできています。
血漿中にアルブミンなどのタンパク質が存在しています。
~補足 ここまで~

薬の何割が血漿中のタンパク質に結合しているのかを示す値が「血漿タンパク結合率」です。
例えば薬が10分子あり、4分子がタンパク質に結合しているとき、血漿タンパク結合率は40%です。
この場合、60%(10分子中6分子)はタンパク質に結合せずに血中に遊離しており、この割合を「非結合型分率」と呼んでいます。
(60%の場合、非結合型分率=0.6となります)

薬がどの程度の割合で血漿中のタンパク質に結合するかは、薬の性質できまってくるため、血漿タンパク結合率は薬ごとに決まる値となっています。
血漿タンパク結合率は実験的に算出するのが最も精度が高いと言われています。
実験的にというのは、試験管などに血漿と薬を混ぜ、タンパク質に結合していない薬の割合を算出します。
(透析膜を用いる方法や、超遠心を使う方法などあるようです)

それではなぜ血漿タンパク結合率について今回とりあげているのでしょうか?
実は、薬が作用できるのは、血漿中のタンパク質に結合していない、遊離しているものだけなので、血漿タンパク結合率・非結合型分率が非常に重要な因子となります。

そして、血漿タンパク結合率・非結合型分率は、これまでみてきた分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)を変動させる因子となっています。

血漿タンパク結合率・非結合型分率がどのように分布容積(Vd)や全身クリアランス(CLtot)に関与しているかについては、少し難しいのですが、導入のみ説明します。
(書いてみたら長くなりましたので、今回は分布容積だけにしておきます)

分布容積(Vd)は、
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)
という式で定義されたものです。

↓こちらを参照
薬物動態 血中濃度を決める因子① 分布容積 [★★]

一方で、分布容積を意味付けしていくと、薬が細胞外液にのみに分布するのか、細胞内液にも分布するのかという特徴付けができるということも、分布容積の記事で説明しました。

先ほどの分布容積の式は投与量を示す式なので、これを上図の細胞外液の部分(Vp)と細胞内液の部分(VT)に分けて表現すると次のようになります。

D=Vd×C=Vp×C+VT×CT

下線に着目しますと、分布容積の定義式で出てくる血中濃度と、細胞外液の濃度は同じものなのですが(両方Cとしている)、細胞内液の濃度は異なるのでCTとしています。
そしてこの下線部をCで割ると、
Vd=Vp+(CT/C)×VT
となります。

細胞外液と細胞内液の濃度が等しいとき(CT=Cのとき)、
Vd=Vp+VT
となり、視覚的に分かりやすい式になります。
つまり、Vdは細胞外液の項と細胞内液の項に分けて、以下のように考えることができます。

細胞内液の項について、もう少し詳しくみていきます。
薬が細胞外液から細胞内液に通過するには、薬は血漿中のタンパク質と結合せずに遊離している必要があります。
(血漿中のタンパク質と結合せずに遊離しているものを、非結合型薬物と呼びます)
そして、細胞外液の非結合型薬物濃度と、細胞内液の非結合型薬物濃度は最終的につりあうことになります。

細胞外液の非結合型薬物濃度=非結合型分率×C
細胞内液の非結合型薬物濃度=細胞内液の非結合型分率×CT
であり、この2つは等しくなるので、
非結合型分率×C=細胞内液の非結合型分率×CT
となり、
先の細胞内液の項に代入すると、
(CT/C)×VT = (非結合型分率 / 細胞内液の非結合型分率)×VT
となります。

よって、
Vd=Vp+(非結合型分率 / 細胞内液の非結合型分率)×VT
となり、分布容積は非結合型分率(血漿タンパク結合率)により変動することとなります。

~補足~
ちょっと説明を省きましたが、細胞外液の非結合型分率は、血中の非結合型分率と同じで、血漿タンパク結合率から算出できるものとなります。
(冒頭で記載しましたが、血漿タンパク結合率が40%であれば、非結合型の割合は60%なので、非結合型分率=0.6)
~補足 ここまで~

まとめますと、分布容積は非結合型分率(血漿タンパク結合率)により変動するので、血中濃度も非結合型分率(血漿タンパク結合率)により変動します。


非結合型分率(血漿タンパク結合率)は薬によって決まる値と説明していましたが、病態によって変動することがあるので、この値を考慮することが重要となります。
例えば肝機能障害では、血漿アルブミン濃度が低下することにより、非結合型の薬物が増え、非結合型分率が上昇することがあります(血漿タンパク結合率は低下)。
(血中のタンパク質が減れば、タンパク質に結合せずに遊離している薬が増えるということは、イメージできますよね)

ただ、非結合型分率が変動する要因には血漿アルブミン以外にも色々あり、非結合型分率を逆に低下させる要因もあるため、肝機能障害だから必ず非結合型分率が上昇する、ということではありません。

肝機能障害などの病態時に、非結合型分率がどのように変動するのかを検討されていることがあり、インタビューフォームなどに掲載されていることもあります。
(例えば正常患者、軽度肝機能障害患者、中等度肝機能障害患者、重度肝機能障害患者それぞれの非結合分率が算出されます。なお、非結合型分率はfuと記載されたりします。)

病態時に非結合型分率が変動するということは、それにより分布容積や全身クリアランスが変動し、血中濃度が変動するということになりますので、有効性や安全性が変化します。よって、非結合型分率を考慮することが重要になるわけです。
(投与量の調整に関わってきます)

それでは最後に、血漿タンパク結合率、非結合型分率のインタビューフォームでの掲載箇所を掲載しておきます。
(病態時の箇所に、非結合型分率が掲載されていることがたまにありますが、掲載されてない場合が多いです。一応黄色マーカーつけておきました)

今回も少し長くなりましたが、血漿タンパク結合率と非結合型分率の話から入り、分布容積への関与、そして病態への関与と説明してきました。
次回は今回説明できなかった、非結合型分率のクリアランスへの関与についてまず説明し、クリアランスに関連する因子全体について、以前説明した内容を含めて整理していきます。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

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