前回は、リアルワールドデータの群間比較を行う際に有用な手法として、プロペンシティスコアマッチングについて説明しました。
プロペンシティスコアマッチングは、患者背景をプロペンシティスコア(PS)として数値化し、2つの群からPSの値が等しい(もしくは近い)患者をマッチングさせて選出することで、2つの群の患者背景を揃えるという方法でした。
ただしこの方法では、2つの群でプロペンシティスコア(PS)の分布に偏りを生じていると、マッチングできない領域を生じるため、使用できる例数が少なくなるという欠点がありました。
この欠点を補った方法としてプロペンシティスコアを用いたIPTW(Inverse Probability Treatment Weighting)法があります。
(IPW法:Inverse Probability Weighting法、IPSW法:Inverse PS Weighting法 などと記載されることもあります)
IPTW法では、プロペンシティスコアマッチングと異なり、各群の例数は変化させません。
まずは何となくのイメージを持っていただくための説明から入ります。
PSの値を縦軸にとって2つの群を並べてみます。
(ここでは簡略化し、PSが0.2、0.4、0.6、0.8の例しか含まないとします)
すると、各PS値での患者数は2つの群で異なってきます。
両群の患者背景を同じにするということは、PSの値が同じ患者の数をそろえるということなので、多い方の群の例数にあわせて、少ない方の群に架空の患者(同じPSの患者のコピー)を追加してしまいます。
すると、両群でPS(=患者背景)にばらつきのない患者集団ができあがります。
これがIPTW法のイメージです。
プロペンシティスコアマッチングではPSの値が等しい(もしくは近い)患者を選出し、マッチングできない患者は切り捨てるのに対して、IPTW法はPSの分布を、患者数が多い方の群に合わせて増やす方向で調整するという方法となります。
それでは、IPTW法をもう少し正確な表現で説明します。
実際には、例数が少ない方の群の数を単純に増やしているのではなく、治療を受ける確率をもとに水増しします(分かりにくいので例を挙げて説明します)。
以下、Aの治療を受けた群を治療群A、Bの治療を受けた群を治療群Bとします。
プロペンシティスコア(PS)をAの治療を受ける確率と定義して、PS=0.8(80%)の場合とPS=0.2(20%)の場合を比べてみます。
治療群Aにおいて、PS=0.8(80%)の患者は珍しい患者ではありません。
(80%の患者がAの治療を受けるので、Aの治療を受けた群に含まれる可能性が高いからです)
一方、PS=0.2(20%)の患者は、治療群Aにおいては珍しい患者といえます。
(20%の患者しかAの治療を受けないからです)
このことから、PS=0.8の患者は治療群Aに多く含まれるので例数をあまり増やさない方向で調整し、治療群Aにあまり含まれないPS=0.2の方は例数を多く増やす方向で調整します。
どのように増やすかというと、「1/PS」を掛けることで調整します。
PS=0.8の場合は「1/0.8=1.25倍」、PS=0.2の場合は「1/0.2=5倍」を掛けることとなります。
(PS=0.2では大幅に増やすこととなりますね)
これを「重みづけする」と表現します。
PSの逆数で重みづけをするので、IPTW(Inverse(逆数) Probability Treatment Weighting(重みづけ))法というのです。
それではBの治療を受けた群の方はどうでしょうか?
PS=0.8のとき、Bを受ける確率は0.2なので、「1-PS」がBを受ける確率です。
よって、治療群Bでは、「1/(1-PS)」 を掛けて重みづけするということとなります。
このように、IPTW法ではマッチングと異なり例数を減らすことなく解析が行えますが、欠点はもちろんあります。
(各手法、一長一短というわけです)
欠点はPSが極端に大きかったり小さかったりする患者がいる場合、少ない患者に大きな重みづけすることになるので、それによって結果に偏りを生じることがあります。
(例えば治療群AにPS=0.001の患者が1例いた場合、1/PS=1000となるので、1例の患者に1000倍の重みづけすることになり、この1例のデータに引っ張られてしまいます)
なお、この欠点に対処するために、PSが極端な値をとる患者を除外して解析することがあります。
プロペンシティスコアマッチングとIPTW法、どちらの方法も一長一短なので、両方の解析で同じ傾向が言えることを示すことが客観性を高めるのに重要であるかと思います。
前回紹介したのと同じ論文の結果をお示ししますが、この論文ではプロペンシティスコアマッチングに加え、IPTW法でも同様の結果が得られたことを示しています。
以上、2回にわたりプロペンシティスコアを用いたリアルワールドデータの解析について説明しました。
それでは、本題の核酸医薬に早く着手できることを、自分自身期待しています(笑)。
(準備すら開始できておらず、もう少し間が空きそうです)
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