核酸医薬・RNA関連

核酸医薬 スプライシング制御型アンチセンス②(脊髄性筋委縮症) [★★★]

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また大分時間が空いてしまいすみません。
今回は、脊髄性筋委縮症(SMA)に対するスプライシング制御型アンチセンスについて紹介します。

脊髄性筋委縮症(SMA)は筋力の低下や筋肉の委縮が進行していく疾患で、筋ジストロフィーに似ていますが、原因が異なっています。
SMAは、運動神経を維持するために必要なタンパク質であるSMNの遺伝子、SMN1が欠失(もしくは変異)することで、SMNタンパク質が作られなくなる(もしくは減少する)ことで起こります。
(SMAも指定難病に定められている疾患です)

生体内にはSMN1遺伝子とほぼ同じ配列を持つSMN2遺伝子が存在しており、もしSMN2遺伝子が十分に機能するのであれば、失われたSMN1遺伝子の機能を補うことができます。
しかしながら、SMN2遺伝子から産生されるSMNタンパク質はほとんど機能していません。
なぜかというと、SMN2遺伝子の多くは、スプライシングの際にエキソン7がスプライスアウトされてしまい、機能する完全長のSMNタンパク質が少ししかできないからです。
完全長のSMNタンパク質は10%程度しか産生されないといわれています。

そこで着目されたのが、SMN2遺伝子のエキソン7のスプライスアウトを抑制し、エキソン7をインクルードすることで、完全中のSMNタンパク質を増加することができないか、ということです。
IONIS Pharmaceutical社とBiogen社は、エキソン7のインクルージョンが可能なスプライシング制御型アンチセンスを開発し、SMA治療薬「スピンラザ」を世に創出しました。
スピンラザは2016年12月に欧米で、2017年7月には日本で承認され、現在使用されています。

スピンラザは、SMN2遺伝子のイントロン7に存在するISS(スプライシングの抑制に関わる領域)に結合するアンチセンスとして設計されています。
(このISSは「ISS-N1」と呼ばれる)
ISS-N1のそばには、スプライシングの実行部隊であるU1 snRNAの結合部位がありますが、通常ISS-N1にはhnRNPが結合することで、U1 snRNAが結合するのを妨げています。
それにより、エキソン7のスプライシングが起こりません。
スピンラザがISS-N1に結合すれば、hnRNPがISS-N1に結合できなくなるため、U1 snRNAが結合できるようになり、エキソン7のスプライシングが起きるようになる、ということです。

以上、エキソンインクルージョンを誘導するスプライシング制御型アンチセンスとして、SMAに対する治療薬であるスピンラザについて説明しました。

スプライシング制御型アンチセンスについてまとめますと、選択的スプライシングに関与するエキソン中のESEやESS、イントロン中のISEやISSに対してアンチセンスを設計することにより、スプライシングを制御することができます。
エンハンサー(スプライシングの促進に関与する配列)であるESEやISEに結合するアンチセンスはスプライシングを抑制するため、エキソンのスキッピングを誘導することができます。
一方で、サイレンサー(スプライシングの抑制に関与する配列)であるESSやISSに結合するアンチセンスは、スプライシングを促進するため、エキソンのインクルージョンを誘導することができます。

最後に承認されたスプライシング制御型アンチセンスを紹介します。
2020年10月時点で5つのスプライシング制御型アンチセンスが世界で承認されており、日本でも2剤承認されて使用されています。
日本ではじめてアンチセンスとして承認されたのが、今回紹介したSMA治療薬のスピンラザで、2017年に国内承認されました。
もう1つは前回紹介したデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬のビルテプソで、2020年に国内承認されています。
世界ではデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として、4つのスプライシング制御型アンチセンスが承認されています。いずれもジストロフィンのmRNA前駆体(pre-mRNA)に対するアンチセンスですが、標的のエキソンがそれぞれ異なっています。商品名についている番号がエキソンの番号となっています。

なお、上の表に化学修飾についても記載しておりますが、スプライシング制御型アンチセンスではRNase Hを誘導する必要がないので、ギャップマー型ではありません。

いかがでしたでしょうか?スプライシングに関する記事を5月にアップしてから随分と時間がかかってしまいましたが、スプライシング制御型アンチセンスについて一通り説明が終わりました。

申し訳ないのですが、現在かなりバタバタ状態でして、今回が今年最後の記事となります。
間が空く可能性が高いですが、来年も引き続き核酸医薬について紹介していきますので、よろしくお願いいたします。

<参考資料(SMA、スピンラザ)>
・吉岡耕太郎. 実験医学(増刊) 2021; 39(17): 2834-2840
・スピンラザ 申請資料概要(2.6.1、2.6.2)
・Singh NK et al. Moll Cell Biol 2006; 26(4): 1333-1346

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