薬物動態

薬物動態 全身クリアランスと臓器クリアランス・固有クリアランス [★★]

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前回は血中濃度を決める因子の2つ目として全身クリアランスについて説明しました。
クリアランスについてはもう少し説明が必要ですので、続きを説明していきます。
(今回は血中濃度との関連の話ではなく、クリアランス自体の説明となりますので、ちょっと話が脇道にそれます)

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

薬物が消失する速度は血中濃度に比例し、その比例定数を全身クリアランス(CLtot)として定義されていることを前回説明しました。
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)

前回は血中濃度推移との関連をみたかったので、こちらの式を時間累積して、
(上式の「薬物消失速度」⇒「薬物消失量(=投与量(D))」、「血中濃度(C)」⇒「AUC」)
薬物消失量(=投与量(D))=全身クリアランス(CLtot)×AUC
とし、
AUC=投与量(D)/全身クリアランス(CLtot)
となるので、血中濃度推移グラフのAUC(面積)は全身クリアランス(CLtot)で決まる、という話をしました。

今回は血中濃度推移グラフとの関連ではなく、クリアランス自体の説明をしていきます。

薬の消失には肝臓や腎臓などの臓器が関与していますが、上記「全身クリアランス(CLtot)」はどの臓器が関与するかは特に考えずに、全体としてまとめたものとなっています。
今回はこの全身クリアランス(CLtot)を各臓器での消失寄与に分解していきます。
各臓器でのクリアランスを「臓器クリアランス」と呼んでいます。

薬物の消失(代謝)に関与する臓器は主に肝臓と腎臓であり、それ以外にも肺などの臓器が関与しています。
ただ、肝臓と腎臓以外の臓器の寄与は少ないため、無視して考えることも多いです。
肝臓でのクリアランスは「肝クリアランス(CLH)」、腎臓でのクリアランスは「腎クリアランス(CLR)と呼ばれており、全身クリアランス(CLtot)は各臓器のクリアランスを合計したものとなります。

CLtot=CLH+CLR(+他の臓器のクリアランス)

下の図は以前の説明でも使用した図ですが、薬の一部は肝臓で代謝されます。
また、薬が尿として出ていく際は、腎臓が機能しています。

臓器クリアランスは、全身クリアランス(薬の消失全体)に対して肝臓や腎臓がどれくらい寄与したかを表しており、仮にCLtotが100mL/minであったとして、肝臓が70%、腎臓が30%寄与したとすると、CLHは70mL/min、CLRは30mL/minとなります。

寄与というのは薬物消失に対する寄与ですので、仮に200mgの薬を投与して、肝臓で140mgが消失され、腎臓で60mgが消失したとすると、
肝臓による消失の寄与=140mg/200mg=0.7(70%)
腎臓による消失の寄与=60mg/200mg=0.3(30%)
になるということです。

~補足~ 少し難しいので飛ばしていただいてもOKです
上のイラストの図をみると、肝臓では薬が代謝されますので、代謝された分は、肝臓の機能により消失されたと考えることができます。
一方、腎臓では未変化体と代謝物の両者を尿として排泄しますので、腎臓はこの両者の消失に関与すると考えられます。
ただそうすると、代謝物となった薬の消失には、肝臓と腎臓の両方が寄与しているとされてしまい、各臓器の寄与率を考えるのが難しくなってしまいます。
そこで、臓器クリアランスを考えるうえでは割り切って、腎臓による寄与については未変化体として尿中に出てきたもののみ、とすることとされています。

腎臓による消失の寄与
⇒未変化体として尿中に出てきたもののみとする

それでは、各臓器クリアランスはどのように算出するのかということを、この定義をもとに説明します。
まず全身クリアランス(CLtot)ですが、血中濃度の推移からAUCの面積を算出すれば求めることができます。
AUC=D/CLtot ⇔ CLtot=D/AUC

次に臓器クリアランスについてですが、尿中の未変化体の量は測定することができるため、薬物の消失に腎臓がどの程度寄与したかを算出することができます。
仮に100mgを投与し、尿から出てきた未変化体の量が30mgであったとします。
この場合、腎臓での消失の寄与は30mg/100mg=0.3(30%)でありますので、腎クリアランス(CLR)は、
腎クリアランス(CLR)=全身クリアランス(CLtot)×0.3
となります。

それでは、他の臓器のクリアランスはどうでしょうか?
肝臓など、他の臓器での消失量は直接的に測定できないため、全体から腎の値を差し引くことにより算出するしかありません。
先の例を用いると、
腎以外の臓器での消失量=100mg-30mg=70mg
腎以外の臓器での消失の寄与=70mg/100mg=0.7(70%)
腎以外の臓器でのクリアランス=全身クリアランス(CLtot)×0.7

もしくは、
腎以外の臓器でのクリアランス=全身クリアランス(CLtot)-腎クリアランス(CLR
=CLtot―0.3×CLtot=0.7×CLtot
と算出します。

ここで、
CLtot=CLH+CLR(+他の臓器のクリアランス)
ですので、
腎以外の臓器でのクリアランス=CLH+(他の臓器のクリアランス)
ですが、肝臓以外の臓器での寄与は少ないため、
腎以外の臓器でのクリアランス≒CLH
としてしまうことも多く、そうすると、
CLH≒0.7×CLtot
となります。
~補足 ここまで~

続いて、固有クリアランスというものについて簡単に説明します。
(簡単にとしましたが、少し難しいです)
臓器クリアランス(肝クリアランスや腎クリアランス)とは別に、肝固有クリアランス、腎固有クリアランスというものがあります。
肝固有クリアランスはCLintH、腎固有クリアランスはCLintRなどと記載されており、肝クリアランスであるCLHや腎クリアランスであるCLRとは別のものです。

大まかなイメージですが、臓器クリアランス(CLHやCLR)は薬物消失に寄与した結果であり、固有クリアランス(CLintHやCLintR)は各臓器が薬物を消失できる能力、と考えるとわかりやすいです。

どういうことかというと、例えば100mgの薬を投与したとき、70mgは肝臓により、30mgは腎臓により消失されたとすると、臓器クリアランスであるCLHはCLtotの7割、CLRはCLtotの3割となります。
(CLH=CLtot×0.7、CLR=CLtot×0.3)
このとき、腎臓の本来の処理能力として、50mgを処理できる力が仮にあったとしても、実際には30mgしか処理していないので、CLRはCLtotの3割となります。
要するに、結果としてこうなった、ということを示す値ということです。

一方で固有クリアランス(CLintHやCLintR)は各臓器の本来の処理能力を表すものと考えます。
上の例では、腎臓は50mgの処理能力をもっているとしましたが、腎固有クリアランス(CLintR)はそれを反映する値となります。
ただ、上記のように、各ケースにおいて、本来の処理能力をMAX使っているかというと、そうではないので、結果として常に出てくるものではないのです。


それでは、臓器クリアランスと固有クリアランスの値には関係があるのでしょうか?
臓器クリアランスの値が固有クリアランスの値に直接的に関係する場合もあれば、関係しない場合もある、というのが答えです。

例えば、腎臓で処理できる能力が50mgであるとします。
ここに1000mgの薬が流れてきたとすると50mgが処理されますよね。
このケースでは、実際に処理された50mgは、腎臓で処理できる能力のMAXである50mgとなるので、腎クリアランス(CLR)の値は腎固有クリアランス(CLintR)の値に依存することとなります。

また違うケースで、腎臓で処理できる能力が50mgであるのに、流れてきた薬の量が3mgしかなかったとします。
すると、実際に処理されるのは3mgですので、腎クリアランス(CLR)の値は流れてきた薬の量(この場合では3mg)に依存し、腎固有クリアランス(CLintR)の値には依存しません。
この場合、流れてくる薬の量は血流の速度に関連するので、このケースでは腎クリアランス(CLR)は血流の速度に依存することとなります。
(このケースというのは、腎臓で処理できる薬の量に比べて、流れてくる薬の量が少ないというケースのことです)
(血流の速度が速いほど、流れてくる薬の量が多いと考えます。例えば、上記ケースよりも速度が早ければ、例えば10mg流れてくることもあります。)


今回は臓器クリアランスと固有クリアランスについて説明しましたが、いかがでしたでしょうか?
もし難しければ、固有クリアランスはとりあえずおいておき、CLtotは各臓器クリアランスであるCLHやCLRの合計である、というところをまずは理解いただければと思います。
(ただ、固有クリアランスの話はまた後の回で出てきますので、少しずつ理解を深めていただければと思います)

次回ですが、血中濃度推移との関連の話に戻ります。
血中濃度推移と分布容積・全身クリアランスの話に戻り、「消失速度定数」の説明を加えていきます。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

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