なかなか記事の更新がスムーズにいかず、すみません。
今回は「脱落」(n数が減る)について説明します。
前半はどれくらいの脱落が許容されるのか?について、後半は有効性などの結果を解釈する際にどのような点に注意したらよいか?について説明していきます。
臨床試験に組み入れられた患者さん全員が、試験最後まで残っていることはあまりありません。
試験途中に副作用などの問題により薬の服用を辞めてしまう患者さんもいれば、転居など治療とは無関係に試験を中止してしまう患者さんもいます。
このように、試験の途中で解析できる患者さんがいなくなってしまうことを「脱落」と言います。
「症例数の設定」の回で若干触れたのですが、通常10%~15%程度の脱落を見込んで試験に組み入れる患者さんの数を決めるようです。
(以下の記事では、脱落する患者さんの数を想定して、少し症例数を上乗せしておく必要がある旨のみ触れ、例として10%と記載していました)
論文では、以下の例ように記載されます。
Assuming that approximately 10% of the patients might withdraw from the study, the final sample size required was calculated to be 500 patients (250 per group).
日本語に訳すと、「およそ10%の脱落を想定し、サンプルサイズを500例とした(各群250例)。」となります。
「withdraw」が脱落ですが、「dropout」とも言います。
この10%の根拠は?と言われると、「このような設定をしている試験が多いから」のような曖昧な回答になってしますのですが、論文で以下のように記載されているものがありました。
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As is typical of most trials, the required sample size was adjusted for an estimated dropout rate—15% in this case. The extent of potential dropout would have been estimated from previous trials.
日本語に訳すと、以下のようになります。
「典型的に、試験に必要となるサンプルサイズは脱落15%を想定して調整する。この脱落率はこれまでに行われた試験を基に推定されたものである。」
Sedgwick P. BMJ 2015; 350: h1586. doi: 10.1136/bmj.h1586.
Randomised controlled trials: the importance of sample size. より
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このことを踏まえると、10~15%程度の脱落であれば許容範囲であり、これを超える脱落がみられる試験では、脱落の理由や有効性の結果について、より注意してみていく必要があるかと思います。
それでは有効性などの結果をどのような点に注意してみたらよいかについて、一つ例を挙げてみたいと思います。
脱落が起こる原因の一つに、治療効果があまり得られず(症状が悪くなり)辞めてしまうケースがありますが、それによる結果への影響について考えてみます。
例えば病状の進行を抑制するために開発されたAという薬があるとし、臨床試験が行われたとします。
仮の話ですが、100人の患者さんに投与されたところ、50人は効果が不十分であり、病状の進行があまり抑制されませんでした。
ここで、2つのケースを考えてみます。
ケース1:効果不十分の50人が途中で辞めずに(脱落せずに)臨床試験を最後まで継続した
ケース2:効果不十分の50人が全て途中で辞めてしまった(脱落)
まず、ケース1での薬の効果をみてみます。
効果不十分ではなかった50人の平均値、効果不十分の50人の平均値、100人全体の平均値は以下のようになりました。
実際には100人全体の平均値である③が算出され、①②は算出されません。
それではケース2の場合はどうでしょうか?
この場合は②の効果不十分が除かれていますので、①のみとなり、以下のようになります。
最後にケース1とケース2の結果を並べてみます。
効果不十分で脱落した50人を除いたケース2では、効果不十分の方も含まれるケース1に比べて、病状がより抑制されるという結果となりました。
このように、効果不十分の患者さんが脱落してしまうと、結果がよい方向に出てしまう場合があるのです。
よって、脱落が多い場合には、脱落の理由なども確認して、結果への影響としてどのようなことが想定されるかを考えていく必要があるかと思います。
いかがでしたでしょうか?
次回は「統計学的有意性と臨床的重要性」について説明します。
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