前回の食事の影響と同様の話なのですが、今回は高齢の方、肝臓・腎臓に障害のある方の薬の量の調整についてのお話です。
薬は体の中で作用した後、体の外に出ていきますが、その際に大きな役割を果たすのが肝臓と腎臓です。薬の成分は元々体の中にはないものであり、体にとっては有害なもの(毒のようなもの)であると判断されます。よって、薬が体の中に入ると、それを無毒化する作用が起こります。これを代謝と呼んでいます。そして、代謝された薬物は尿や糞として体の外に出ていきます。これを排泄と呼びます。
代謝は化学反応であり、薬を化学反応で無害のものに変化させます。この代謝を主に担っているのは肝臓と腎臓です。よって、肝臓や腎臓が弱っていると薬が代謝されにくくなり、薬が血中に蓄積しやすくなります。高齢の方は一般的に生体の機能が低下していますので、肝臓や腎臓も働きにくくなっています。また、肝臓や腎臓に病気がある方も代謝の力が落ちていますので、薬が血中に蓄積しやすくなっています。(一般的にです。なお、体に入った薬全てが代謝されるわけではなく、そのまま尿や糞中にも出てきます)
てんかんの薬の一つである「ビムパット錠(一般名:ラコサミド錠)」の添付文書をみていきます。
薬が血中にどれくらい蓄積されるかについては、前回「Cmax」と「AUC」が指標であるとお話しましたので、その値に注意してみてください。
(前回の記事:食前?食間?~食事の影響について~[★])
まず腎臓が弱っている方から、添付文書3頁目の右側「6. 腎機能障害患者(外国人データ)」の項目をみてみます。
「AUC0-tは腎機能正常者と比較して、軽度低下者では27%、中等度低下者で22%、重度低下者で59%高く、Cmaxは軽度から重度の腎機能低下者で10~14%高かった。」とありまずので、腎臓が弱っている方ではAUCやCmaxが高くなる、つまり血中濃度が高くなる傾向があります。
(AUC0-tの0-tについては細かい話になりますのでここでは無視します。また、添付文書の「O-脱メチル体」というのは薬が代謝されたものなのですが、これも細かい話になりますのでここでは無視します。)
次に肝臓が弱っている方、添付文書4頁の左上「8. 肝機能障害患者(外国人データ)」の項目をみてみます。
「肝機能が中等度に低下した成人に投与したとき、健康成人に比べてラコサミドのAUC0-12h及びCmaxはそれぞれ61%及び50%高かった。」とありますので、肝臓が弱っている方でも血中濃度が高くなる傾向があります。
(定常状態など、難しい言葉は除いています。また、AUC0-12hの0-12hは細かい話になりますので無視していきます)
最後に高齢者、肝障害のすぐ下の「9. 高齢者(外国人データ)」をみていきます。
「65歳以上の高齢男性及び高齢女性にラコサミドを投与したとき、45歳以下の成人男性と比較してAUC0-12hはそれぞれ33%及び50%高く、Cmaxはそれぞれ29%及び53%高かった。」とありますので、高齢者でも血中濃度が高くなる傾向があります。
このように、ビムパット錠では肝臓が弱っている方、腎臓が弱っている方、高齢の方すべてにおいて血中濃度が高くなる傾向があり、前回の食事の影響と同様の図で説明すると下のように副作用の懸念がでてきます。
このことを踏まえ、ビムパッド錠の添付文書ではこれらの患者さんへの投与において以下の注意が記載されています。
●腎臓が弱っている方
「重度及び末期腎機能障害のある患者には、1日最高用量を300mgとするなど慎重に投与すること。」
⇒通常ビムパッドの最高用量が400mgであるのに対し、腎臓が弱っている方の最高用量を300mgとしています。
●肝臓が弱っている方
「軽度又は中等度の肝機能障害のある患者には、1日最高用量を300mgとするなど慎重に投与すること。」
⇒肝臓が弱っている方も最高用量を300mgとしています。
●高齢の方
「一般に高齢者では生理機能が低下しているので、注意して投与すること。」
⇒ビムパッドでは注意のみで、特に量の制限はされていません。
なお、CmaxやAUC(血中濃度)が増大したときの量の設定については、有効性や安全性の懸念がなければ(特に安全性)量の制限が設けられないこともあります。一方、副作用が多くみられたなど懸念がある場合には、より厳密に量が定められることになります。
いかがでしたでしょうか?肝臓や腎臓が弱っている方、高齢の方での副作用の懸念は、すべて血中濃度(CmaxとAUC)で説明されるのです。
「血中濃度が変わらなければ有効性と安全性は同様である」ということに基づいています。
次回は複数の薬を同時に服用するときの注意についてお話しますが、これも今回の話と全く同じですので、復習にもなるかと思います。
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