臨床試験/臨床統計

臨床試験の試験デザイン① [★★]

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それではいよいよ臨床試験の内容に具体的に入っていきます。
まず、次の単語?(文?)をみてください。

「多施設共同、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較試験」…冒頭文とします

臨床試験の文献を読みなれている方は、実は全く違和感がない用語であり、これを見たからといって何も思わないのですが、はじめてみる方からすると、何じゃこりゃ?ですよね(笑)
ということで、今回はこの冒頭文を理解してもらうということを目標にしたいと思います。
(ちょっと長くなるので2回に分けます)

なお、冒頭文のような記載のことを「試験デザイン」と言います。
今回は「2群の比較試験」の試験デザインをテーマに説明していきます。

「2群の比較試験」とはどういうものなのか、についてですが、例えば花粉症の薬の一つであるビラノアについて臨床試験を行うとします。
そのとき、ビラノアと比較するものがないと、効果や安全性について比較検討できませんので、比較対照を設けた試験が行われます。それが、「2群の比較試験」です。
(なお、比較対照を用いない試験というのも行われます)

比較対照には主なものとして2つあり、1つは偽物の薬である「プラセボ」を対照とします。
もう1つは、これまでに使用されてきた薬「実薬」を対照とする場合があります。
花粉症の薬では、例えばアレグラが以前から使用されてきましたので、アレグラを比較対照とすることができます。

ここで(いつの間にか)冒頭文の1つが解決しました。
①冒頭文の「プラセボ対照」
「プラセボ対照試験」とは、プラセボを比較対照とした試験のことです。
アレグラのような実薬を対照とする場合は「実薬対照試験」と記載します。
対照を設けない試験の場合は「非対照試験」と記載します。

~整理1
冒頭文の「プラセボ対照」の箇所には、
「プラセボ対照」「実薬対照」「非対照」
のいずれかが入ります。
例えば実薬対照試験の場合は、
「多施設共同、無作為化、実薬対照、二重盲検、並行群間比較試験」
などとなります。

英語表記にすると以下のようになります。
~①の英語表記~
プラセボ対照試験
…placebo-controlled trial(study)
実薬対照試験
…active-controlled trial(study)
非対照
…non-controlled trial(study)

それでは、残りの4つ(多施設共同、無作為化、二重盲検、並行群間)についてもみていきます。

②冒頭文の「多施設共同」
複数の施設(病院)の患者さんを対象に行われる試験は、多施設で共同して行うということで、「多施設共同試験」と言います。
薬の開発段階の大規模試験(特に第Ⅲ相試験)では、患者さんの数(症例数)がある程度多く必要となりますので、多施設共同試験となることがほとんどです。
一方、安全性や薬物動態の確認のために、はじめに行われる第Ⅰ相試験では、患者さんの数が少なくてもよいため、単施設(1つの施設のみ)でも行われます。

~整理2
冒頭文の「多施設共同」の箇所には、
「多施設共同」「単施設」のいずれかが入ります。
例えば単施設試験の場合は、
単施設、無作為化、プラセボ対照、二重盲検、並行群間比較試験」
などとなります。

~②の英語表記~
多施設共同試験
…multi-center trial(study)
単施設試験
…single-center trial(study)

③冒頭文の「二重盲検」
次に「二重盲検」について説明します。
例えばプラセボ対照試験の場合、新薬とプラセボのいずれかを患者さんに投与することになりますが、プラセボを投与していることが患者さんに分かってしまうと大問題となります。

仮にプラセボを投与していても、新薬を投与していると信じていると、プラセボ効果により症状が改善することがあります。
しかし、プラセボが投与されていることが分かってしまうと、効かない薬を飲まされているという意識が強くなり、それにより症状が悪くなってしまうこともあります。
よって、患者さんには、どちらの薬を投与しているかが分からないようにしなければなりません。
この、どちらであるか分からないようにすることを「盲検化」と言います。

薬を処方する医師についても、どちらを処方しているかを分からなくした方が、臨床試験の結果に影響されにくくなります。
症状が改善しているかどうかを医師が判定することがありますが、医師が投与した薬を知っていた場合、例えば新薬を投与した患者さんの判定では少しひいきして、あまり改善していなくても、「十分に改善した」という結果を出してしまう可能性もあります。

このような、偏りのことを「バイアス」(偏りのこと)と言います。
臨床試験では、誤った結果を導かないために、バイアスを受けにくい状況にすることが重要となります。

さて話を戻して、患者と医師いずれも盲検化した試験を「二重盲検試験」といいます。
患者だけ盲検化した試験は「単盲検試験」、いずれも盲検化しない試験を「非盲検試験(オープンラベル試験)」といいます。
この中では、「二重盲検試験」が最もバイアスを受けにくい試験となります。

~整理3
冒頭文の「二重盲検」の箇所には、
「二重盲検」「単盲検」、「非盲検」のいずれかが入ります。
例えば非盲検試験の場合は、
「多施設共同、無作為化、プラセボ対照、非盲検、並行群間比較試験」
などとなります。

~③の英語表記~
二重盲検試験
…double-blind trial(study)
単盲検試験
…single-blind trial(study)
非盲検試験(オープンラベル試験)
…open-label trial(study)

盲検化の補足ですが、そもそも本物の薬を飲んでいるのか、プラセボを飲んでいるのかは分からなくできるものなのでしょうか?
この答えについては、プラセボを本物の薬と全く同じ形・色にし、味も同じくしておけば分かりません。(薬の有効成分はわずか含まれるだけですので)
実薬が●という形のとき、プラセボも●の形にしておきます。

それでは、実薬の比較、例えばビラノア(▲)とアレグラ(■)を比較する場合はどうでしょうか?
ビラノアとアレグラは形も色も味も違いますが、どうするのでしょうか?
この場合はビラノアと同じ形・色・味をしたプラセボ(▲のプラセボ)と、
アレグラと同じ形・色・味をしたプラセボ(■のプラセボ)を用意します。

そして、
ビラノアを投与する群…「▲」と「■のプラセボ」を投与
アレグラを投与する群…「▲のプラセボ」と「■」を投与
すれば、どちらを飲んでいるのかが分からなくなります。

分かりましたでしょうか?
今回はここまでにして、次回残りの2つ(冒頭文の残り2つ)、
「無作為化」と「並行群間比較」について説明します。

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