核酸医薬・RNA関連

核酸医薬 アンチセンスの化学修飾、承認されたRNaseH依存型アンチセンス [★★★]

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今回はアンチセンスの化学修飾について説明します。
(化学修飾はRNaseH依存型アンチセンスのみでなく、スプライシング制御型も含めた全体的な話となります)

核酸は生体内で分解されやすいものとして知られています。
核酸にはDNAとRNAがありますが、生体内にはこれらを分解する酵素(タンパク質)が多数存在しており、生体外から侵入したDNAに対してはDNase、RNAに対してはRNaseといった核酸分解酵素によって認識され、速やかに分解されてしまいます。
そのため、アンチセンスを生体内で安定に存在させるため、化学修飾を行い、核酸分解酵素による認識を回避する工夫がなされてきました。

まず、第1世代と呼ばれるアンチセンスとして、DNAのリン酸部の「O」を「S」に置換した「PS修飾」が用いられるようになりました。
これにより、核酸分解酵素によってアンチセンスが分解されにくくなり、安定して血中に存在できるようになりました。

その後、生体内の安定性を更に高めた第2世代のアンチセンスが登場しました。
第2世代では、DNAの2’の部位を修飾した「2’-F」、「2’-OMe」、「2’-MOE」が用いられるようになりました。
また、5員環の部分を6員環へと変更しリン酸部の修飾も加えたモルフォリノ核酸「PMO」が用いられるようになりました。PMOは生体内安定性が高いだけでなく、毒性が低いことも特徴とされています。



化学修飾は単に生体内での安定性を高めるためだけではなく、標的RNAとの親和性を高めることも目的とされています。
さらに改良を重ねて架橋構造を取り入れた LNAやENAなどのアンチセンスでは、RNAとの親和性向上により、薬効用量の低減が可能となっています。

RNaseH依存型アンチセンスでは、アンチセンスが標的のRNAに結合した後、RNaseHにより認識される必要があります。
上記の化学修飾の中で、PS修飾ではアンチセンスがRNaseHによりきちんと認識されますが、2’-MOEなどの化学修飾ではRNaseHによって認識されません。
このことを踏まえ、PS修飾以外の化学修飾はアンチセンスの左右の部位(ウイング)にのみ配置し、中央部位(ギャップ)にはPS修飾以外の化学修飾を行わない「ギャップマー型アンチセンス」が主に用いられています。

さて、RNaseH依存型アンチセンスについての話は以上となるのですが、実際に承認された薬にはどのようなものがあるのでしょうか?
残念ながら日本においては承認されたRNaseH依存型アンチセンスがまだありませんが、海外ではいくつかの薬が承認されています。

アンチセンスとして初めて世に出されたのが、サイトメガロウイルス性網膜炎に対する治療薬、「fomivirsen(Vitravene)」(「一般名(商品名)」、以降同様)であり、1998年に米国で承認されました(現在では、販売中止となっております)。
(20年以上前からこのような薬が世に出ていたことにびっくりです)
RNaseH依存型アンチセンスであり、化学修飾として第1世代のPS修飾が用いられています。

2剤目のアンチセンスとしては、家族性高コレステロール血症に対する治療薬「mipomerson(Kynamro)」が2013年に米国で承認されました。
こちらもRNaseH依存型アンチセンスであり、化学修飾としてPS修飾と、第2世代である2’-MOE修飾が導入され、ギャップマー型アンチセンスとして開発されました。
(残念ながら、こちらも現在では販売中止になっています)

その後、RNaseH依存型アンチセンスとしては、2018年に米国および欧州で承認された、遺伝性トランスサイレチンアミロイドーシスに対する治療薬「inotersen(Tegsedi)」、2019年に欧州で承認された、家族性カイロミクロン血症症候群に対する治療薬「volanesorsen(Waylivra)」が世に出され、使用されています。
(これら2剤も、PS修飾+ギャップマー型2’-MOE修飾)

なお化学修飾という観点では、モルフォリノ核酸(PMO)はスプライシング制御型アンチセンスとして世に出されており、架橋型修飾を用いたアンチセンスはいくつかの臨床試験が進行中です。

以上、RNaseH依存型アンチセンスについて、3回にわたり紹介してきました。
次回からスプライシング制御型アンチセンスについて、数回にわたり紹介していきます。
スプライシング制御型アンチセンスは、日本で承認され、使用されているものがありますので、その辺も含めて紹介したいと思います。

<参考文献>
山口卓男、小比賀聡. アンチセンス核酸医薬の開発動向 作用メカニズムから分子設計戦略まで. 実験医学 2019; 37(1): 8-14
小寺 淳、佐々木隆史. アンチセンス核酸―要素技術と医薬品創生. 実験医学 2021; 39(17)(増刊): 2665-2671
小比賀 聡、笠原 勇矢. アンチセンス核酸医薬のデザイン戦略. 日薬理誌 2016; 148: 100-104
承認された核酸医薬品(2021年12月時点)(国立医薬品食衛生研究所 遺伝子医薬部ホームページ)

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