薬物動態

薬物動態 全血中濃度と血漿中濃度、B/P比、非結合型濃度(遊離型濃度) [★★]

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今回で「薬物動態」については一旦区切りとなります。
前回の終わりに、これまでの話には「2つの嘘」があるとお話しました。
今回はその2点について簡単に説明させていただき、「臨床薬物動態学」の書籍につなげ、一旦終了としたいかと思います。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

●全血中濃度と血漿中濃度、B/P
まず1点目ですが、これまで特に何も触れずに説明してきたのですが、薬物動態は「血中濃度(全血中濃度)」で考える必要があります。
分布容積も全身クリアランスも「血中濃度(全血中濃度)」から算出された値で考える必要があります。

何を言っているの?
と思われる方もいるかと思いますが、「血中濃度(全血中濃度)」と「血漿中濃度」は異なります。
血漿は血液の一部なので、「血漿中濃度」だと血液中の一部の薬物濃度をみていることになります。
一方、血中濃度(全血中濃度)は、血漿に加えて赤血球、白血球、血小板といった血球成分も含めた中での薬物濃度となります。

ここで、添付文書やインタビューフォームで薬物動態のグラフを確認してみましょう。
縦軸を見ると、「血漿中濃度」となっていますよね!!!
「血中濃度(全血中濃度)」の推移ではないのです。
加えて、あわせて掲載されている薬物動態パラメータ(分布容積や全身クリアランスなど)も、血漿中濃度から算出された値となっています。

そこで、「血漿中濃度」を「全血中濃度」に変換するための値が必要となります。
その値が「B/P比(血液中濃度/血漿中濃度比)」です。
B/P比がそのままの数値で資料に掲載されている場合もあれば、B/P比を算出できる他の値として掲載されていることもあります。
B/P比を算出できる他の値としては、「血球移行率」と「血球中濃度/血漿中濃度比」があります。
(本ブログでは、算出方法については説明いたしません。「臨床薬物動態学」の書籍に掲載されています)

これらの情報の掲載箇所ですが、インタビューフォームにはほとんど掲載されておらず、薬によっては審査報告書に掲載されていることがあります。

審査報告書についてはこちら↓
https://med-seeker.com/review_information/

B/P比が分かれば、分布容積や全身クリアランスを血漿中濃度ではなく、全血中濃度での値に変換することができます。
(こちらも、変換方法については説明いたしません。「臨床薬物動態学」の書籍におまかせいたします)

ここまでが、これまでの嘘の1点目となります。

●非結合型濃度(遊離型濃度)、Binding Sensitive
続いて2点目ですが、タンパク質に結合していない非結合型濃度(遊離型濃度ともいう)についてです。
こちらについては、前々回から説明に出していますので、イメージできるかと思いますが、実際に作用できるのは、タンパク質に結合していない非結合型の薬物のため、非結合型濃度の推移を考える必要が出てくる場合があります。
というか、有効性や安全性は、本当は全体の血中濃度(総濃度)ではなく、非結合型濃度で決まるので、非結合型濃度で考えるべきなのです(こちらがこれまでの嘘ということです)。

通常、血漿中濃度推移は、タンパク質に結合している結合型濃度と、タンパク質に結合していない非結合型濃度をひっくるめた「総濃度」で示されています。
タンパク質に結合していない非結合型の薬物がある程度存在する場合(例えば、薬物の50%程度がタンパク質に結合し、50%はタンパク質に結合していないようなケース)では、総濃度と非結合型濃度は同じように増減します(パラレルに動く)。
よって、このケースでは非結合型濃度の推移を考えなくてもよく、総濃度の推移から判断できます。
(「同じように増減する」とは、例えば肝機能障害などの病態時において、総濃度が増加するのに伴い、非結合型濃度も増加するようなケース)

非結合型濃度の推移を考えなくてはならないのは、総濃度と非結合型濃度の増減が、下のグラフのように異なる場合です。

どのような場合にこのようなケースをとるかというと、ほとんどの薬物がタンパク質に結合しているようなケースです。
数値でいうと、血漿タンパク結合率が80%以上の場合(非結合型が20%以下の場合)です。
なぜ総濃度と同じように増減しないのか、ということですが、このケースでは非結合型薬物が少し増えただけで、非結合型薬物濃度の変化の度合い(変化する割合、変化率)が極端に変わるからです。

どういうことかというと、例えば10個の薬物(分子)があったとして、血漿タンパク結合率が50%の場合と90%の場合を比較してみます。
50%の場合はタンパク質に結合している薬物(分子)は5個、結合していない薬物(分子)は5個です。
一方、90%の場合はタンパク質に結合している薬物(分子)は9個、結合していない薬物(分子)は1個です。

各ケースで、1個の薬物(分子)がタンパク質から遊離したとしましょう。
血漿タンパク結合率が50%の場合、タンパク質に結合している薬物(分子)は4個、結合していない薬物(分子)は6個になりますが、その際、非結合型濃度がどのくらい変化したかというと、5個から6個ですので、6/5=1.2倍変化したこととなります。

一方、血漿タンパク結合率が90%の場合、タンパク質に結合している薬物(分子)は8個、結合していない薬物(分子)は2個になりますが、その際、非結合型濃度がどのくらい変化したかというと、1個から2個ですので、2/1=2倍も変化したこととなります。

このように、血漿タンパク結合率が大きい(80%以上)の場合は、非結合型濃度の変化率が大きく変動しやすいため、増減の動きが総濃度と異なってくることがあります。
よって、このケースでは、総濃度の推移ではなく、非結合型薬物濃度の推移で判断していく必要があるのです。

なお、このケースは、タンパク質との結合に影響を受けやすいということから、「臨床薬物動態学」の書籍では、「Binding Sensitive」と呼んでいます。

非結合型薬物濃度の推移はどのように推定していったらよいのか?ということについては、「臨床薬物動態学」のメインテーマになっていますので、そちらにバトンタッチいたします。

以上が2点目となります。

もう1点補足ですが、本ブログでは「コンパートメントモデル」については触れずに、血漿中濃度を対数にとると直線となるケースのみ考えてきました。2-コンパートメントモデルなどの考え方については「臨床薬物動態学」にお任せいたします。

これで、本ブログでの「薬物動態」が終了となります。
本ブログの「薬物動態」の目的は、「”薬物動態パラメータ”がなぜ必要なのかを理解することで、薬物動態にとっつきやすくなる」こととしていましたが、いかがでしたでしょうか?
当初の想定よりも深く入りすぎた感もありますので、ちょっと難しくなってしまったかもしれませんが、少しでもお役に立てましたら幸いです。

また、本ブログの内容は、これまで参考書籍としてきました「臨床薬物動態学」の書籍への導入の位置づけともしてきました。
本当のゴール(の一つ)は、病態時(肝機能障害や腎機能障害など)における薬物動態パラメータの変動(正常時からの変動)から、血中濃度(総濃度、非結合型濃度)が病態時にどのように変化するのかを推定し、病態時における薬の投与に役立てることにあります。
今回紹介しましたが、総濃度と非結合型薬物濃度の推移が異なる動きをとることもあるため、その点も踏まえて、病態時の血中濃度推移を考えていく必要があります。
「臨床薬物動態学」の書籍は、その手法を一冊にまとめたものとなっておりますので、興味のある方はそちらで習得いただければと思います。
ただ、こちらの書籍、難易度が高いため、なかなか解読が難しいということもあります。
それについては、編著の先生が講義も行っておりますので、「薬物動態」「編著の先生名」「講義」などで検索してみるとよいでしょう。
(本ブログで直接的に紹介すると問題となりそうですので、このような記載に留めさせていただきます)

以上、何とか2021年中に薬物動態の最後までたどり着きました。
最後までお読みいただいた皆様、ありがとうございました。
他のパートと同様、リストを作成して、2021年を締めたいと思います。
それでは、本ブログを今後もよろしくお願いいたします。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

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