薬物動態

薬物動態 クリアランスに関連する因子 [★★]

投稿日:2021年12月12日 更新日:

前回は血漿タンパク結合率と非結合型分率についてはじめに説明し、後半で非結合型分率の分布容積への関与について説明しました。
今回は、非結合型分率のクリアランスへの関与について説明しようと思いますが、クリアランスについては以前、以下の記事において、「固有クリアランス」や「血流速度」が関与することを説明しました。この「固有クリアランス」と「血流速度」もクリアランスに関連する因子となりますので、復習も兼ねて説明していきます。

薬物動態 全身クリアランスと臓器クリアランス・固有クリアランス [★★]

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

まず、全身クリアランス(CLtot)は各臓器におけるクリアランスの合計になることを以前説明しました(詳細は上記記事を参照)。
各臓器といっても、薬の消失に関与する主な臓器は肝臓と腎臓になりますので、
CLtot≒CLH+CLR
(CLH:肝クリアランス、CLR:腎クリアランス)
として考えていきます。

ここでおさえておきたいのは、肝クリアランス(CLH)や腎クリアランス(CLR)は実際に肝臓や腎臓で消失した薬物量を反映した値であり、肝臓や腎臓が持っている処理能力を示す値ではないということです。
肝臓や腎臓が持っている処理能力を表す値が固有クリアランスであり、肝固有クリアランス(CLintH)は肝臓、腎固有クリアランス(CLintR)は腎臓での処理能力のMAXを示す値となっています。
(こちらも上記記事で説明しました)

それでは、肝臓が処理能力MAXで薬を処理している状況を考えてみます。
(腎臓も考え方は同じですので、肝臓で考えていきます)
イメージですが、薬が血液から肝臓に大量に流れてきて、処理しても処理してもおいつかない状態を考えてみましょう。
このとき、肝臓は処理能力をMAX使って、フル回転で薬を処理します。
このケースでは、肝臓で実際に処理される薬の量は、肝臓の処理能力(CLintH)に依存しますので、実際に消失した薬物量を反映する肝クリアランス(CLH)値は肝固有クリアランス(CLintH)の値で表現されます。

一方、肝臓が処理能力を余らせて、余裕ぶっこいているときはどんな時でしょうか?
肝臓に薬があまり流れてこなければ、肝臓は力を余している状態になります。
薬が流れてくる量は、血液中の薬の量(濃度)にもよりますが、血液が流れるスピード(血流速度:Q)にも依存します。
よって血流が遅く、肝臓に流れてくる薬の量が少ないケースでは、肝臓で実際に処理される薬の量は血流速度(Q)に依存します。
そして、実際に消失した薬物量を反映する肝クリアランス(CLH)値は、肝臓の血流速度(QH)で表現されます。

イメージづけのため、血流が遅いという表現を使いましたが、肝臓での血流の速度はほぼ決まった値をとるため、肝臓での処理能力に比べて血流速度が遅い、と捉えるのが本当のところです。
ただし、病態によって肝臓の血流速度が変わってきますので、それがクリアランスを変動させる要因となります。
ここまでをまとめると、以下の図になります。
(腎臓の場合も同様なので、同じように加えました)

なお、ここまでは
薬物動態 全身クリアランスと臓器クリアランス・固有クリアランス [★★]
で説明した内容と同様となります。
(イラストをつけて、より分かりやすくしてみました。とはいっても、少し難しいですかね)

それではここに、前回の血漿タンパク結合率/非結合型分率の内容を加えてみます。
前回、薬が作用する際には、薬がタンパク質から離れて遊離している必要があるという説明をしました。

薬物が臓器から消失する場合も全く同じであり、タンパク質に結合していない薬のみが臓器の作用を受け、消失することとなります。
よって、各臓器のクリアランスは薬の非結合型分率(血漿タンパク結合率)に依存することとなります。
ただし、上記の2つのケース(固有クリアランス(CLintH、CLintR)が関与するケースと血流速度Qが関与するケース)のうち、非結合型分率(血漿タンパク結合率)が関与するのは固有クリアランスが関与するケース(臓器が処理能力をMAX使っている場合)のみとなります。
→以下の詳細の説明を参考

~詳細の説明(少し難しいですので、とばしてもOKです)~
薬物の消失速度は基本的に「クリアランス×薬の血中濃度」で表現されます。

薬物動態 血中濃度を決める因子② 全身クリアランス [★★]
の記事で、薬物消失速度は血中濃度に比例し、その比例定数を「全身クリアランス(CLtot)」とすることを説明しました。

薬物消失速度=[比例定数]×血中濃度
この[比例定数]が「全身クリアランス(CLtot)」として定義されており、
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度

さらに、「CLtot≒CLH+CLR」を用いて表現すると、
薬物消失速度=CLH×血中濃度+CLR×血中濃度
と臓器ごとの和で表現できます。

薬物の消失速度が「クリアランス×薬の血中濃度」で表現されるという考え方は、固有クリアランス(CLintH、CLintR)でも同じなのですが、ここでの「血中濃度」は「臓器が処理可能な薬の血中濃度」とする必要があり、
臓器での薬物消失速度(MAXの場合)=固有クリアランス(CLintH or CLintR)×臓器が処理可能な血中濃度
となります。

「臓器が処理可能な血中濃度」についてですが、臓器が処理することのできる薬は、タンパク質に結合していない、遊離した薬である必要があるため、
臓器が処理可能な血中濃度=血中濃度×非結合型分率
となります。
(例えば70%がタンパク質に結合せずに遊離していれば、非結合型分率は0.7)
よって、
臓器での薬物消失速度(MAXの場合)=固有クリアランス(CLintH or CLintR)×血中濃度×非結合型分率
となり、薬物の消失速度は固有クリアランスと非結合型分率に依存することとなります。

肝クリアランス(CLH)と肝固有クリアランス(CLintH)の関係ですが、
肝臓での薬物消失速度(MAXの場合)=固有クリアランス(CLintH)×血中濃度×非結合型分率
であり、
肝臓での薬物消失速度はもともとの定義からすると
CLH×血中濃度
であることから、このケース(処理能力をMAX使っているケース)では、
CLH=固有クリアランス(CLintH)×非結合型分率
となります。(赤字部分の「血中濃度」が共通なので削除された)
(CLHは「CLtot≒CLH+CLR」のCLHです)

一方で、薬物の消失が血流速度(Q)に依存するケースですが、
薬物が肝臓に流入する速度は、
薬物の肝臓への流入速度=肝臓の血流速度(QH)×血中濃度
となります。
(この場合、単に臓器へ流入する薬の量を考えますので、薬がタンパク質に結合しているかどうかは関係しません)
そして、流入した薬の多くが肝臓で消失されるため、
(このケースでは、肝臓の処理能力が余っている状態のため)
薬物の肝臓への流入速度=肝臓での薬物消失速度
であり。
肝臓での薬物消失速度=肝臓の血流速度(QH)×血中濃度
となります。
よって、この場合は薬のタンパクへの非結合型分率によらず、肝クリアランスは
CLH=QH
となります。
(肝臓での薬物消失速度は「CLH×血中濃度」なので、赤字部分が削除された)
~詳細の説明 ここまで~

以上をまとめますと、以下の図のようになります。

さらに、分布容積もあわせて「血中濃度に関連する因子」としてまとめると以下のようになります。
こちらが、本ブログでの最終形態の図となります。

~補足 初回通過効果を受けるケース~
経口投与では肝臓での初回通過効果を受けます。その際、肝臓には大量の薬が流入するため、処理能力をMAXで使う状態になり、肝固有クリアランス(CLintH)に依存するケースのみで考えることとなります。
この詳細は、「臨床薬物動態学」の書籍に委ねることといたします。
~補足 ここまで~

さて、なぜ血中濃度に関連する因子についてみてきたのかということについては、以下の記事で説明しましたが、肝機能障害や腎機能障害などの病態時において、血中濃度がどのように増減するのかを推定し、投与量や投与間隔の設定に活かしたかったからです。

↓こちらの記事で説明しています。
薬物動態 血中濃度推移の補足(経口投与、血中濃度推移を理解する意義、インタビューフォームの項目) [★★]

非結合型分率や固有クリアランス(CLintH、CLintR)、血流速度が病態時にどのように変化するかが分かると、分布容積や全身クリアランスがどのように変化するかが分かりますので、血中濃度がどのように変化するのかも推測できるということです。

病態時に非結合型分率(血漿タンパク結合率)が変動する可能性があることは前回の最後にも述べましたが、臓器クリアランスや血流速度も病態時に変化することがあります。

臓器クリアランスについては、臓器が弱ると処理能力も低下しますので、基本的に低下する傾向があります。
肝機能障害がひどくなれば肝固有クリアランス(CLintH)が低下しますし、腎機能障害がひどくなれば腎固有クリアランス(CLintR)が低下します。

血流速度についても変動する傾向があります。
肝機能障害では肝血流速度(QH)が低下する傾向があり、腎機能障害では腎血流速度(QR)が低下する傾向があります。

非結合型分率(血漿タンパク結合率)もあわせて以下の図にまとめました。

このように、各病態時において、分布容積とクリアランスに影響を与える因子の変動を考えることで、分布容積と全身クリアランスの変動を予測し、そこから血中濃度推移の変動を予測するわけです。
その結果、例えば血中濃度が増加してしまう場合は副作用の懸念があるため、投与量を減少させるように調整すればよい、ということが事前に予測できます。

本ブログではここまでの説明としますが、「臨床薬物動態学」の書籍では、病態時の血中濃度推移を予測するために、分布容積やクリアランスを変動させる因子について、場合分けしてより詳細に考えています。そして、因子の変動から血中濃度推移がどう変化するのか、一つ一つ表現しています。
(場合分けというのは、分布容積やクリアランスの大きさなどにより、それらを変動させる因子が変わってくるため、ケースごとに血中濃度推移の変化を検討しています)

今回は以上となります。そして、今回で本ブログの「薬物動態」で説明したいことが全て終わりました。
こちらで「薬物動態」についての解説を締めさせていただきます…
としたいとことですが、実は、これまでの内容には少し嘘が含まれています。
2つの嘘がありますので、その説明を次回させていただき、「臨床薬物動態学」の書籍へとつなげて終了とさせていただければと思います。
(書籍についても次回、もう少し紹介いたします)
(ブログ記事の更新は終了しませんので、今後もよろしくお願いいたします)

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)

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