薬物動態

薬物動態 血中濃度推移のまとめ(分布容積・全身クリアランス・消失速度定数との関連) [★★]

投稿日:2021年6月6日 更新日:

血中濃度を直接的に決めている因子は分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)であることをこれまで説明してきましたが、今回はこれらをまとめて整理し、消失速度定数(kel)についても加えて説明していきます。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

投与直後の血中濃度は分布容積(Vd)のみによって決まり、血中濃度推移グラフのAUCは全身クリアランス(CLtot)のみで決まることをこれまで説明してきました。

~血中濃度推移とVd・CLtot
●投与直後の血中濃度は分布容積(Vd)で決まる
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)の関係から、
投与直後の血中濃度C=D/Vd

●血中濃度推移の面積は全身クリアランス(CLtot)で決まる
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)
この式を時間累積して
(「薬物消失速度」⇒「薬物消失量(=投与量(D))」、「血中濃度(C)」⇒「AUC」)
薬物消失量(=投与量(D)))=全身クリアランス(CLtot)×AUCの関係から、
AUC=D/CLtot

今回は、このグラフの表し方を少し変えてみます。
これまで、縦軸のメモリは「1, 2, 3, 4…」というメモリ間隔が1ずつのグラフでしたが、「1, 10, 100, 1000…(10倍ずつ増える)」のようにメモリ間隔が数倍ずつとなっているグラフに変えてみます(対数グラフといいます)。
すると、これまで曲線だったグラフが直線となります。
また、「消失速度定数」という薬物動態パラメータがありますが、この対数グラフの傾きは「消失速度定数(kel)」と等しくなります。

~補足~
グラフの傾きが消失速度定数(kel)と等しくなるのは、縦軸を自然対数(ln)とした場合です。縦軸を常用対数(log)とした場合は、
傾き=kel/2.303
となります。
なお、2.303というのは、自然対数と常用対数の変換の際に用いる数値で、
lnX≒2.303×log10X
の関係があります。
~補足 ここまで~

消失速度定数についてですが、もともと以下のように定められているものです。
薬物消失速度=消失速度定数(kel)×薬物量・・・(式1)

この式は、以下の式に似ていますね。
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)・・・(式2)

薬物消失速度が血中濃度に比例するとしたときの比例定数が全身クリアランス(CLtot)であったのに対し、
薬物消失速度が血中の薬物量に比例するとしたときの比例定数が消失速度定数(kel)です。

ここで、(式1)と(式2)は同じく薬物消失速度を表すので、それぞれの右辺が等しいとすると、
消失速度定数(kel)×薬物量 = 全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)
⇔ 消失速度定数(kel)=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)/ 薬物量・・・(式3)

分布容積の式
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)
は「投与量→ある時点での血中の薬物量」としても成り立つ式のため、
薬物量 = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)が成り立ち、
分布容積(Vd)= 薬物量 / 血中濃度(C)
1/分布容積(Vd)= 血中濃度(C)/ 薬物量・・・(式4)

(式4)を(式3)にあてはめると、
消失速度定数(kel)=全身クリアランス(CLtot)/ 分布容積(Vd)・・・(式5)
となります。

(式1から式5の導出が難しそうであれば、とばして式5から見てもらえればOKです)

つまり、血中濃度推移グラフの直線の傾きは消失速度定数(kel)であり、この傾きは全身クリアランス(CLtot)と分布容積(Vd)によって決まっているということになります。

ちょっと繰り返しですが、ここまでをまとめますと、血中濃度推移のグラフは、傾きである消失速度定数(kel)も含めて、分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)の2つの因子のみで決定されることとなります。

~血中濃度推移のグラフ~
●投与直後の血中濃度は分布容積(Vd)で決まる
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)の関係から、
投与直後の血中濃度C=D/Vd

●血中濃度推移の面積は全身クリアランス(CLtot)で決まる
薬物消失量(=投与量(D)))=全身クリアランス(CLtot)×AUCの関係から、
AUC=D/CLtot

●直線の傾きは消失速度定数(kel)であり、分布容積(Vd)と全身クリアランス(CLtot)で決まる
kel=全身クリアランス(CLtot)/ 分布容積(Vd)

ここで、直線の傾きが全身クリアランス(CLtot)と分布容積(Vd)で決まる意味について考えてみます。
傾きが大きいほど、時間あたりの薬物消失量が多くなります。
全身クリアランス(CLtot)の定義は
薬物消失速度=全身クリアランス(CLtot)×血中濃度(C)
でしたので、全身クリアランス(CLtot)が大きければ薬物の消失が速く、傾き(kel)の「分子」にくることは理解できるかと思います。

一方Vdですが、こちらは薬物が体の中で広がることのできる体積を表しますので、仮に薬物の血中濃度が同じであるとすれば、Vdが大きいほど血中の薬物量が多くなります。

投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)…これは投与開始時点の表現
(投与開始後、「薬物量 = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)」も成り立つ)
ですので、血中濃度が同じであれば、分布容積の大きい薬ほど薬物量が多いということです。

よって、傾き(kel)が全身クリアランス(CLtot)と分布容積(Vd)の比で決まってくることはイメージとしても理解できるかと思います。

今回はもう1つ、血中半減期(t1/2)について補足します。
血中濃度推移は全身クリアランス(CLtot)と分布容積(Vd)で決まることをお話してきましたが、血中半減期(t1/2)も同様にこの2つの因子で決定されます。

血中半減期(t1/2)は消失速度定数(kel)を用いて
血中半減期(t1/2)= 0.693/kel
の関係があり、
kel=CLtot/Vd
より全身クリアランス(CLtot)と分布容積(Vd)で表すと
血中半減期(t1/2)= 0.693/kel = 0.693×Vd / CLtot
となります。

~補足~
血中半減期(t1/2)= 0.693/kel
は以下のように導出されます。

血中濃度推移のある時間tにおける血中濃度Cは消失速度定数を用いて以下のようにあらわされます。
C=Co×e-kel×t
(Coは投与直後の血中濃度、eは自然対数の底2.718…)
半減期は血中濃度が半分になる時間なので、Cを投与直後の濃度の半分(Co/2)として代入し、tを求めます。

Co/2=Co×e-kel×t
ln(Co/2)=ln(Co×e-kel×t
lnCo-ln2 =lnCo+ln(e-kel×t
lnCo-ln2 =lnCo-kel×t
t=ln2/kel=0.693/kel

(すみません。スマートフォンでうまく表示されていないかもしれません。私のスマートフォンではeの指数の部分、「-kel×t」が「! KEL×T」と表示されていましたので、「-kel×t」として読んでいただければと思います。)
~補足 ここまで~

今回は血中濃度推移について、消失速度定数(kel)を含めてまとめました。
最もシンプルに考えることのできる静脈内投与をもとに見てきましたので、次回は経口投与について補足し、またなぜ血中濃度推移について考える必要があるのかも補足します。また、分布容積、クリアランス、消失速度定数のインタビューフォーム(IF)の項目についても次回補足します。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

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