薬物動態

薬物動態 血中濃度を決める因子① 分布容積 [★★]

投稿日:2021年4月4日 更新日:

今回から血中濃度を決めている因子についての話に進みます。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

血中濃度を直接的に決めている因子というのは2つしかなく、答えを言ってしまうと「分布容積(Vd)」と「全身クリアランス(CLtot)」のみです。
(静脈内投与の場合です。経口投与ではこれにバイオアベイラビリティ(F)が加わるため、一番シンプルに考えられる静脈内投与により検討されるのが好ましいです)

このうち、今回は分布容積(Vd)について説明します。
(全身クリアランス(CLtot)は次回説明します)

いきなり式を出しますが、薬の投与量と血中濃度の関係は以下のようになっています。

投与量(D分布容積(Vd)×血中濃度(C
(薬がまだ体から代謝されてなくならないと仮定…投与直後において成り立つ式です)

この式を簡単に説明します。
投与量を2倍にすれば血中濃度も2倍になるということは、何となくイメージできるかと思います。
投与量を4倍にすれば血中濃度も4倍に、投与量を8倍にすれば血中濃度も8倍になります。
要するに、投与直後において、投与量と血中濃度は比例します。
その比例定数を分布容積(Vd)として定義しています。
以上!

ということなのですが、これだと分布容積が何を表しているのかが分からないので、もう少し詳しくみてみます。

上の式で投与量というのは例えば100mgのようにあらかじめ決めているものです。
これが体の中に入ると全身に広がりますので100mgが分散されます。
体の中の液体(血液など)に溶けて全身に広がりますので、体の中の液体の量により濃さ(濃度)が決まります。
液体の量が少なければ濃度は大きくなりますし、多ければ濃度は小さくなります。

仮に100mgの薬が3Lの血液に溶けたとすると(成人の血液はおおよそ3L)、そのときの血中濃度(mg/L)は、
血中濃度(mg/L)=100mg(投与量)÷3L
となりますよね?
この式を変形しますと、
100mg(投与量)=3L×血中濃度(mg/L)

ここで先に出てきた分布容積が入った式、
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)
と比較してみますと、3Lが分布容積に該当することになりますので、分布容積は薬が溶けている液体の体積を表すということになります。
「分布容積」という名前からもイメージできますが、薬が分布できる容積ということですね。

ただ、上の説明は薬が3Lの血液に完全に溶けて分布していると仮定した場合であり、薬によってケースが異なってきます。

まず、薬が体の液体の何に溶けるかによって、分布容積は異なってきます。
薬によっては3Lの血液にのみに分布するのではなく、そこから体液(細胞外液と細胞内液)にも広がってくものもあります。

体液をもう少し詳しみていくと、成人の体には約36Lの体液があります。
細胞の外にある液(細胞外液)は12Lで、そのうち3Lが血液です。
残り24Lが細胞内液です。

薬によって、血液のみに分布するもの、血液以外の細胞外液にも分布するもの、細胞内に入り込んで細胞内液にも分布するもの、と違いがあります。

分布容積は、血液にのみに分布する場合は3L、血液を含めた細胞外液に分布する場合は12L、細胞内にも入り込む場合は36Lとなり、これは薬の性質によるものなので、薬によって分布容積が変わるということになります。
(実際には、こんなぴったりの数値にはなりませんので、大よそです)

もう一度、先ほどの式を出しますと、投与量はあらかじめ決めるものなので一定値とすると、投与長後の血中濃度は分布容積によって決まるということになります。

投与量(D分布容積(Vd)×血中濃度(C
血中濃度(C)=投与量(D)÷分布容積(Vd
(投与直後で成り立つ式)

言い換えると、分布容積は血中濃度を決めている因子ということになります。
そして、分布容積は薬によって異なる値をとってくるので、分布容積は重要な薬物動態パラメータであり、薬ごとに検討されます。

それでは、もう1つ分布容積には別のケースがありますので、説明を加えていきます。
薬によっては体内のある組織に結合してしまうものがあります。
そうすると、血中の濃度は薄まってしまうことがイメージできますよね?

仮に投与量を360mg、薬が広がることのできる液体量を36Lとしましょう。
組織に結合せずに薬が36Lに広がった場合、
360mg=36L×血中濃度
となるので、血中濃度は10(mg/L)です。

それでは、薬の多くが組織に結合してしまい、仮に血中濃度が10倍薄まって1(mg/L)になったとしましょう。
この場合、
360mg=分布容積(L)×1(mg/L)
となり、
分布容積=360L
となります。

分布容積が全体液量の36Lを超えていますね。
組織に結合するタイプの薬では、血中濃度が薄まってしまうので、
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C)
の式を成り立たそうとすると、Vdが体液量よりも大きくなるのです。

ここで、あれ?分布容積って薬が溶けている体積を表すものではないの?と思われた方もいるかと思います。
最初の説明では話を分かりやすくするために、仮に体の液体に全て溶けている場合、という話から入ったのですが、分布容積というのは、投与量と血中濃度を結びつける比例定数にすぎません。

投与量(D分布容積(Vd)×血中濃度(C

その分布容積を意味づけていくと、薬の特徴で分類されるということなのです。

まとめです。

<まとめ>
●分布容積は血中濃度を決める因子で、薬ごとに異なる値をとる
●投与直後において(薬が代謝される前)
投与量(D) = 分布容積(Vd)×血中濃度(C) → C=D/Vd
→投与直後の血中濃度は分布容積で決まる
●分布容積の値により、薬が体にどのように分布しているかが特徴付けられる
・分布容積が3Lくらい…血液に分布
・分布容積が12Lくらい…細胞外液(血液+間質液)に分布
・分布容積が36Lくらい…細胞外液+細胞内液に分布
・分布容積が36Lより大きい…ある組織に結合
~まとめ ここまで~

分布容積は投与直後の血中濃度を決める因子です。
薬はこの後、代謝されてなくなっていきますので、血中濃度の推移をみていくうえでは、ここに代謝に関わる「全身クリアランス(CLtot)」という因子が関わってきます。
ということで、次回はこの全身クリアランス(CLtot)についてみていくことにします。

<参考書籍>
緒方宏泰 編著 第4版 臨床薬物動態学 薬物治療の適正化のために(丸善出版)
(この書籍はまた後に紹介します)

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