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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 ステロイド(デキサメタゾン) [★~★★]

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前回はサイトカインストームの話をしました。
レムデシビルはコロナウイルスの増殖を抑制しますが、サイトカインストームで起きた炎症そのものは抑制しません。
一方で、ステロイドはコロナウイルスの増殖を抑制しませんが、炎症を抑制することができます。
新型コロナウイルスによる呼吸不全は炎症が原因として考えられているので、重症化患者に対するステロイドの効果が検討されています。

ステロイドの一つである「デキサメタゾン」は日本で新型コロナウイルスに対して使用できる薬ですので、こちらの臨床試験結果(速報)について、簡単に紹介します。

~デキサメタゾンの治療効果~
出典:N Engl J Med. 2020 Jul 17; NEJMoa2021436. doi: 10.1056/NEJMoa2021436.

この臨床試験では、標準治療のみを行った患者さんと、標準治療に加えてデキサメタゾンを投与した患者さんについて、死亡率などを比較しています。
(入院している患者さんについての検討です)

・標準治療+デキサメタゾン…2104人
→デキサメタゾンは1日6mgを10日間投与しています。
・標準治療のみ…4321人

重症度別では、以下の3つに分けて比較されています。
①侵襲的人工呼吸器管理…全体の16%の患者さんが該当
②酸素吸入あり…全体の60%の患者さんが該当
③酸素吸入なし…全体の24%の患者さんが該当
(重症度合いについては①>②>③と考えます)

なお、患者さんの平均年齢は66.1歳です。

それでは、メインの結果である「死亡」からみていきます。

●28日時点での死亡率
全体の死亡率(重症度で分けない場合の死亡率)
・標準治療+デキサメタゾン…22.9%が死亡(2104人中482人が死亡)
・標準治療のみ…25.7%が死亡(4321人中1110人が死亡)

これだけみると何とも言えない結果です。
差は3%程度です。ただ、統計学的な差は認められた結果となりました(p<0.001)。

それでは重症度別にみてみます。

侵襲的人工呼吸器管理
・標準治療+デキサメタゾン…29.3%が死亡(324人中95人が死亡)
・標準治療のみ…41.4%が死亡(683人中283人が死亡)

酸素吸入あり
・標準治療+デキサメタゾン…23.3%が死亡(1279人中298人が死亡)
・標準治療のみ…26.2%が死亡(2604人中682人が死亡)

酸素吸入なし
・標準治療+デキサメタゾン…17.8%が死亡(501人中89人が死亡)
・標準治療のみ…14.0%が死亡(1034人中145人が死亡)

いかがでしょうか?
侵襲的人工呼吸器管理を行っている重症患者で10%以上の開きがありますね。
ということで、デキサメタゾンは重症患者の方が、効果が得られやすい傾向かと思います。
(あくまでも今回の結果をみる限りでは)

一方、「酸素吸入あり」、「酸素吸入なし」では差が小さいです。
(「酸素吸入なし」ではデキサメタゾンの方で割合が高くなってしまってますし、数%の差というのは誤差程度でしょうか…)

ここまでがメインの結果です。
次に、退院した患者さんの割合について検討されていますので、そちらも紹介します。

●28日以内の退院
全体(重症度で分けない場合の退院率)
・標準治療+デキサメタゾン…67.2%が退院(2104人中1413人)
・標準治療のみ…63.5%が退院(4321人中2745人)

侵襲的人工呼吸器管理
・標準治療+デキサメタゾン…33.0%が退院(324人中107人)
・標準治療のみ…23.3%が退院(683人中159人)

酸素吸入あり
・標準治療+デキサメタゾン…72.0%が退院(1279人中921人)
・標準治療のみ…67.4%が退院(2604人中1755人)

酸素吸入なし
・標準治療+デキサメタゾン…76.8%が退院(501人中385人)
・標準治療のみ…80.4%が退院(1034人中831人)

こちらも全体では差がはっきりしませんが、重症度で分けた結果では、侵襲的人工呼吸器管理の患者さんで10%程度の差がみられます。
酸素呼吸あり、酸素呼吸なしでは、デキサメタゾンあり・なしともに退院の割合が7~8割と高く、差が数%程度です。
こちらの結果からも、デキサメタゾンは重症の呼吸不全の患者さんに対して有用な薬のような傾向かと思います。

なお、「酸素呼吸あり」、「酸素呼吸なし」の患者さんに対して、「侵襲的人工呼吸器管理が必要となった、または死亡した患者さんの割合」というのが結果として出されていますが、上記「死亡」や「退院」の結果と同様ぱっとしない結果ですので特に述べません。
(詳細を確認したい方は、Supplement Figure S2-bをみてください)

~補足:試験中に使用していた他の薬(★★の内容なので、一般の方は飛ばしてください)~
論文をよく読んでみると、「レムデシビル」が一部の患者で使用されていたとか、免疫系に関連する「ヒドロキシクロロキン(免疫調整剤)」や「IL-6アンタゴニスト」が一部の患者に使用されていることが記載されています。
ただ、レムデシビルを投与したのは、「デキサメタゾン+標準治療」の患者さんで3人のみ、「標準治療のみ」の患者さんで2人のみなので、試験結果には影響しないかと思います。
ヒドロキシクロロキンやIL-6アンタゴニスト(トシリツマブ、サリルマブ)などの薬の使用例数はSupplementary Table S1に記載されていますが、こちらも使用されている患者さんが非常に少ないので、試験結果にはほとんど影響しないかと思います。
~補足 ここまで~

いかがでしたでしょうか?
繰り返しになりますが、デキサメタゾン(ステロイド)は重症の呼吸不全の患者さんで効果が得られる傾向のある薬かと思います(あくまでも今回の結果では)。
前回のサイトカインストームの記事や今回の冒頭で記載した通り、ステロイドは炎症を抑制できるからであると思われ、軽症の患者さんで効果がみられにくい傾向なのは、ウイルス自体を抑制するわけではないからであると考えられるかと思います。

新型コロナウイルス「第3波到来」とのことで感染者数が急増しておりますので、皆様、予防を徹底し、体調を崩さないようご自愛ください。

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