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新型コロナウイルス感染症(COVID-19) サイトカインストームへの対応 [★~★★]

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これまでレムデシビルについて紹介してきましたが、先日のニュースにおいてはWHO(世界保健機関)が「レムデシビルは死亡率の改善効果をほとんど認めなかった」との旨を発表した、と騒がれて(?)いました。
(WHO 2020年10月16日の発表とのこと)

レムデシビルの臨床効果については速報の結果を細かくみてきましたが、重度の患者さん(侵襲的人工呼吸器またはECMOによる管理が必要な入院患者さん)では効果がみられない傾向でした。

↓こちらを参照
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル②(治療効果) [★~★★]

また、死亡については、患者さん全体でみても(重症度で分けずにみた場合)、統計学的には差が認められない結果でした(おしい結果でしたが…)。

↓こちらを参照(一般向けの記事には記載しておらず、すみません)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル 論文読解(第5回) [★★]
(「他の副次評価項目:死亡」の説明のとこです)

ということで、レムデシビルはどちらかというと、軽度の患者さんに効果が得られるような傾向かと思います。

それでは、なぜなのか?ということを、コロナでよく耳にする「サイトカインストーム」から考えてみます。

コロナウイルスが肺に侵入して増殖すると、ウイルスを排除するための体の機能が働き、免疫系が活発になります。その際、サイトカインと呼ばれる物質が細胞から分泌されます。
サイトカインは細菌やウイルスが体に侵入した際、それらを排除するなど、体を異物から守るうえで重要な働きをしています。

このように、サイトカイン自体は重要なものなのですが、過剰に分泌されると体に悪影響を及ぼします。
特に、サイトカインの中には炎症を引き起こす「炎症性サイトカイン」と呼ばれるものがあり、過度な炎症は正常な臓器や組織を傷つけてしまいます。

「サイトカインストーム」とは、免疫系が過度に活発となり大量のサイトカインが放出された結果、免疫系が暴走する(さらに活発になる)状態を言います。
大量の炎症性サイトカインが分泌されることで、肺で過度な炎症が起こります。過度な炎症により血管内に血栓ができるとも言われています。
その結果、致命的な呼吸困難となったり、同様なことが肺以外の臓器でも起こることでさまざまな臓器で障害が起きたりします。

これがコロナウイルスにより病態が重症化する理由と考えられています。

ここまでよろしいでしょうか?
それでは、レムデシビルの話に戻ります。

レムデシビルが何の薬であったかというと、ウイルスの増殖を抑制する薬です。
ウイルスの増殖は抑制できても、ウイルスによって引き起こされた症状そのものを緩和することはできません。
よってレムデシビルは、サイトカインストームによって引き起こされた炎症や血栓を治すことはできないのです。
これが、重症化した患者さんにレムデシビルが効きにくい理由ではないかと推測します。
(私の推測です)

それでは、サイトカインストームによって引き起こされた炎症を抑制できる薬は?というと、強力な抗炎症効果を有する「ステロイド」ということになります。

複雑になりそうなので、図で示してみます。

レムデシビルはコロナウイルスの増殖を抑制することができますが、サイトカインストームによる炎症を抑制することはできません。
一方で、ステロイドはサイトカインストームによる炎症を抑制することができますが、コロナウイルスの増殖を抑制することはできません。

よって、重症化した呼吸困難の患者さんを救うためにはステロイドが役に立ちそうですが、サイトカインストームを起こしていない軽度の患者さんにステロイドを使用しても何の意味もないと考えられます。
ただ、コロナウイルスで問題になるのは重症化した患者さんですので、実際の治療においてはステロイドが有用となるのではないでしょうか?

個人的には、重症化した患者さんに対してレムデシビルとステロイドの両方を使用して、ウイルスの増殖と炎症の両方を抑制するのが効果の面ではよいのではないかと思いますが、併用試験の結果がまだ出されておらず、効果の詳細や薬剤併用による副作用が明らかとなってないので、その辺のデータが蓄積されないと実際のところは分かりません。
ちなみに、トランプ大統領はレムデシビルとステロイドを併用したと言われていますね。

国内でコロナウイルスに使用できる(承認されている)ステロイドですが、デキサメタゾンという薬です。
トランプ大統領が使用したと言われる薬と同じです。
こちらは「新型コロナウイルス感染症診療の手引き」に掲載されています。
(2020年9月に第3版が出ていますね)

-補足-
ステロイドは1つ1つの薬の名称でなく総称です。ステロイドにはさまざまな薬があり、強さによっても5段階に分類されています。
-補足 ここまで-

それでは、重症患者に対するステロイドの効果はどれくらいなのでしょうか?
デキサメタゾンについて臨床試験の速報が出ていますので、そちらの結果を次回紹介したいと思います。
(レムデシビルの試験は詳細に説明しましたが、デキサメタゾンについては簡単に紹介します。なお、レムデシビルとの併用試験ではありません)

なお、先ほどサイトカインストームのところで血栓の話もしましたが、血栓に対する治療として、ヘパリンなどの抗凝固薬の使用が検討されているようです(臨床試験も開始されているとのことです)。

それでは、今回はここまでとなります。

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