臨床試験/臨床統計

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル 論文読解(第5回) [★★]

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今回でレムデシビル論文読解の最後となります。
前回は有効性の主要評価項目について説明しましたので、今回は有効性の残り(副次評価項目)と安全性について説明して終了となります。

第1回:論文取得、試験概要1(目的、試験デザイン、組み入れ基準(選択基準・除外基準)、投与方法)
第2回:試験概要2(評価項目、サブグループ解析)
第3回:試験概要3(症例数の設定、解析方法)、結果1(組み入れ患者、患者背景)
第4回:結果2(有効性:主要評価項目)
第5回:結果3(有効性:副次評価項目、安全性)

<RESULTS>(前回までの続き)
■有効性(前回の続き)
●重要な副次評価項目:8カテゴリーで定義された臨床状態(15日時点)
レムデシビル投与後において、8カテゴリーの重症度の各割合がどう変化したかについての評価です。

↓再度定義をお示しします。
<8カテゴリーで定義された臨床状態>
1. 退院、活動に制限なし
2. 退院、活動が制限される(在宅酸素吸入が必要な場合も含む)
3. 入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は不要
4. 入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は必要
5. 入院、酸素吸入を要する
6. 入院、非侵襲的人工呼吸器または高流量酸素による管理
7. 入院、侵襲的人工呼吸器またはECMOによる管理
8. 死亡
(青字の「1」~「3」を「回復」と定義しています)

METHODSの評価項目で述べましたが、こちらは元々主要評価項目として解析されるはずのものでしたが、途中で副次評価項目に変更されました。

レムデシビルの効果を考えるうえでは、主要評価項目よりもこちらの項目の方が分かりやすいです。
そのため、一般の方も対象とした以下の記事では、こちらの結果を基にレムデシビルの治療効果の解説をしました。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル②(治療効果) [★~★★]

それでは結果の話に入りますが、まず投与前(ベースライン)のカテゴリーがどうだったかをおさえてください。
そして、レムデシビル群とプラセボ群が、投与前からどのように変化したのかをみていきます。

患者背景でも説明しましたが、Table 1を再度みてみましょう。

ベースライン
「4」:全体の11.9%(127人)、レムデシビル群では12.4%(67人)、プラセボ群では11.5%(60人)
「5」:全体の39.6%(421人)、レムデシビル群では41.0%(222人)、プラセボ群では38.1%(199人)
「6」:全体の18.5%(197人)、レムデシビル群では18.1%(98人)、プラセボ群では19.0%(99人)
「7」:全体の25.6%(272人)、レムデシビル群では23.1%(125人)、プラセボ群では28.2%(147人)
(「4」~「7」を合計すると100%になりませんが、Table 1一番下の「Baseline score missing」(データがなかった患者さん)を合計すると100%となります。)
→「4」が1割程度、「5」が4割程度、「6」が2割弱、「7」が2~3割

この割合が投与後にどう変わったかをみます。
結果はTable 2の下半分(Ordinal score at day 15)、1~8に分けられているとこです。
まずはOverallのレムデシビル群とプラセボ群をみるとよいでしょう。
( )内の数値が割合です。

数値だと分かり難いので、グラフをみてみましょう。
Supplementary AppendixのFigure S5です。
(このグラフはTable2のOverallをグラフ化したものです)
最終的にこのようなカテゴリーとなりましたので、先のベースラインの割合と比較してみてください。

レムデシビル群とプラセボ群の比較ですが、回復のカテゴリー1~3はレムデシビル群がプラセボ群よりも多く、カテゴリー7やカテゴリー8(死亡)はプラセボ群の方が多い結果となりました。

比較に関する結論的な結果はTable2のOdds ratio(オッズ比)となります。
オッズ比 1.50(95%信頼区間:1.18~1.91)で95%CIが1を跨いでいないので、8カテゴリーの分布において、レムデシビル群とプラセボ群で有意差が認められたということになります。
P値からも、P=0.001ですので有意差ありと判定できます。

補足ですが、「オッズ比」という言葉がでてきました。
主要評価項目ででてきた比とは定義は異なりますが、比ですので、有意差については同じように考えてください。
(比の場合は1を跨いでいないかどうかで考えます)
ここまでよろしいでしょうか?

カテゴリー別(サブグループ解析)
次にカテゴリー別にみていきます。サブグループ解析です。
先の一般の方も対象とした記事で詳しく説明しましたが、この結果が一番分かりやすいのではないでしょうか?
軽度の患者さんと重度の患者さんでは通常効果が異なりますので、どの程度の重症度の患者さんがどの程度の重症度になったか、を示しているこちらの結果が効果をみるうえでは分かりやすいかと思います。
(ただし、前回まででも述べたように、サブグループ解析はあくまでも傾向をみるためのもので、試験を結論付けられる結果ではありません)

Table 2の右上、「Ordinal Score at Baseline」(8カテゴリーのこと)4、5、6、7と分けて記載されています。
ベースラインが「4」の場合、「5」の場合、「6」の場合、「7」の場合、をそれぞれ一つ一つ丁寧にみていったのが、以下の記事となります(一般の方も対象とした記事)。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル②(治療効果) [★~★★]

こちらの記事の真ん中くらい、
「次に、重症度別にみていきたいと思います。」
と記載した部分からみてください。

治療開始時が「4」(入院、酸素吸入を要しない、治療の継続は必要)
治療開始時が「5」(入院、酸素吸入を要する)
治療開始時が「6」(入院、非侵襲的人工呼吸器または高流量酸素による管理)
治療開始時が「7」(入院、侵襲的人工呼吸器またはECMOによる管理)
について、それぞれ説明しました。

※すみませんが、↑を読んでから下に進んでください。

実はグラフもあります。
Supplementary AppendixのFigure S1です。
見方分かりますでしょうか?
(見方が分かれば分かりやすいのですが…)

例えばカテゴリー5の場合、投与前は全員カテゴリー5なので、スタート地点を「Enrollment Score」 と明記してあります。
カテゴリー6の場合、投与前は全員カテゴリー6なので、スタート時点がカテゴリー5と異なりますね。
そして、このスタート地点よりも右に行っていれば、改善しているということいなります。
スタート地点よりも右側の割合が、少しでも改善した患者さんの割合ということです。

回復と定義された1~3の割合(青色濃い方から3つですね)についてもプラセボ群と比較してみましょう。
また、悪化の割合(カテゴリー7や8)についても比較してみてみましょう。

レムデシビル群ですが、
カテゴリー4、5では1~3の割合(青い部分)がプラセボ群より多く、悪化の割合(赤の部分)は少ないです。
カテゴリー6ではカテゴリー4、5と比べてプラセボ群との差がやや小さくなってみえます。悪化の赤の部分も多く残っています。
カテゴリー7はプラセボ群とほとんど変わりませんね。
(詳細説明は先ほどの一般向け記事をみてくださいね。)

レムデシビル群とプラセボ群の差の具体的数値についてはTable 2のOdds ratioをみるとよいですが、95%信頼区間が全て1を跨いでおり、有意差はついていません。
ただ、サブグループに分けてしまうと、有意差を出せる症例数が確保されていないので、あくまでも参考です(前回も述べましたね)。

なお、「軽度/中等度」「重度」のサブグループ解析結果もTable S2の下に記載されています。
(特に言うことないので、説明しません)

●他の副次評価項目:死亡
有効性の3つ目で、死亡についてみていきます。
(こちらで有効性は最後となります)

8カテゴリーの「カテゴリー8」が死亡ですので、割合については先ほどの「重要な副次評価項目」で確認済ですが、死亡の時間推移や、死亡だけに絞った結果がこちらになります。

Table 2の真ん中の「Mortality」の箇所が死亡ですが、分かり難いのでまずはグラフをみます。
Supplementary AppendixのFigure S3とFigure S4です。

Figure S3…全体とカテゴリー別(4、5、6、7)
A:全体
B:カテゴリー4
C:カテゴリー5
D:カテゴリー6
E:カテゴリー7

Figure S4:「軽度/中等度」「重度」の重症度別
A:軽度/中等度
B:重度

主要評価項目でカプランマイヤー曲線の説明を簡単にしましたが、カプランマイヤー曲線としては、こちらの下がっていくグラフの方が見慣れているかと思います。
縦軸が生存率で、死亡があると下に下がります。

カプランマイヤーの復習として、前回の図を再度掲載しておきます。

今回のグラフ、縦軸に注意してください。
0.7(70%)~1(100%)が拡大されています。
いずれのグラフも0.5に到達していないので、生存期間の中央値は存在しません。

↓カプランマイヤー曲線と期間中央値について(前回の図)

先にサブグループからみてみます。
カテゴリー別では、ベースラインのカテゴリーが高いほど、死亡が多くなっている傾向ですね。
(Figure S3 Bがカテゴリー4、Cがカテゴリー5、Dがカテゴリー6、Eがカテゴリー7です)
「軽度/中等度」「重度」の分け方では、「重度」の方が明らかに死亡が多いです(Figure S4)。

それでは、全体の結果に戻ります。
Figure 3Aですが、若干レムデシビル群とプラセボ群で差があるような…
ここでTable 2の「Mortality」に戻って数値をきちんとみてみます。
14日時点での死亡数(No. of death by day 14のとこ)はレムデシビル群32例、プラセボ群54例です。
比(Hazard ratio)が0.70(95%信頼区間:0.47~1.04)なので、ギリギリ有意差がつかなかった、というとこです。
(今回は死亡なので、比が大きくなると死亡が多いということで、1を下回る方がよいです。95%信頼区間の上限値が1を下回ったかどうかで判断します)

カテゴリー別の比もみてみますと、カテゴリー4で0.46、カテゴリー5で0.22であるに対し、カテゴリー6は1.12、カテゴリー7は1.06と、カテゴリー6、7ではプラセボ群と同様の傾向でした。
(カテゴリー別の信頼区間はおまけ程度にみてください)

なお、「軽度/中等度」「重度」のハザード比はTable S2に記載されており、「軽度/中等度」が0.48、「重度」が0.71となっています。

以上が有効性の結果の説明となります。

■安全性
安全性の詳細データはSupplementary Appendixにあります。
重篤な有害事象についてはTable S3、非重篤な有害事象についてはTable S4に記載されています。
副作用(治験薬との因果関係が否定できない有害事象)は現段階では検討されていません。

一般の方も対象とした以下の記事に、本試験の結果(Table S3、Table S4の内容)を日本語で記載しましたので参照ください。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬 レムデシビル③(安全性) [★~★★]
→後半の「-プラセボとの比較試験(速報)における安全性-」の箇所です。

全体的に、プラセボ群でもレムデシビル群と同程度、有害事象が出ているようにみられるので、どの程度レムデシビルによる影響があるのか、現時点では何とも言えないというとこでしょうか。

ちょっと最後の締まりが悪いですが、以上となります。
特にRESULTSについては、本文をなぞるのではなく、各項目の結果について図表を基に解説してきましたので、再度本文も読んでみると、より理解が深まるかと思います。
また、Discussionは触れませんでしたが、興味があれば読んでみてください。

5回に分けてレムデシビルの臨床試験(速報)について解説してきました。
レムデシビルについて理解することも目的としてありますが、趣旨としてはこちらの論文を題材として、臨床試験の論文の読み方を学ぶことに重点を置いて書いたつもりです。
1つの論文について、詳細に解説している書籍はほとんどないかと思いますので、こちらで勉強いただければ幸いです。

さて、今回論文解説を書いていて思ったことですが、必要に応じてこれまで「臨床試験」の記事でとりあげたリンクを掲載してきましたが、「統計」についてはとりあげてきませんでしたので、リンクがなくてちょっと苦戦しました。
「統計」については専門家でないと詳細が分からないので、あまり出しゃばったこともしたくないな~(間違ったことを記載してしまう可能性もあり…)と思ってましたが、必要最低限で紹介する必要はやっぱりあるな、とも思いました。
ということで、「統計」については今後どこかの時点で書いてみようかな?と思います。

それではまた!

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