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臨床試験 安全性の用語について [★★]

投稿日:2020年6月7日 更新日:

今回は安全性(Safety)に出てくる用語について説明します。

●「有害事象」と「副作用」の違いについて
「有害事象」とは、投与した薬が関連したかどうかにかかわらず、患者さんに生じた好ましくない症状などのことです。
一方「副作用」は、生じた有害事象のうち薬が関連したものを指します。
(正しくは、「薬との関連が否定できないもの」です。)
なお、関連のことを「因果関係」といいます。

発現例数(発現率)は必ず「有害事象」≧「副作用」となります。
例えばある臨床試験で「頭痛」が発現したとします。
薬に関連があるかどうかは別として、100例中80例で頭痛が認められた場合、「有害事象が100例中80例に認められた」ということになります。有害事象の発現率は80%となります。

そのうち、薬との因果関係が認められた有害事象(正しくは、「薬との因果関係が否定できない有害事象」)が20例であったとすれば、「副作用が100例中20例に認められた」ということになります。副作用の発現率は20%となります。

なお、英語では
有害事象:adverse event(AE)
副作用:adverse drug reaction(ADR)
と記載されます。

●「重篤な有害事象」と「重度の有害事象」の違いについて
「重篤な有害事象」とは、以下の有害事象として定義されています。
① 死に至るもの
② 生命を脅かすもの
③ 治療のための入院又は入院期間の延長が必要となるもの
④ 永続的又は顕著な障害・機能不全に陥るもの
⑤ 子孫に先天異常を来すもの
(有害事象報告に関する共通ガイドライン-ver1.1.1-より)

重篤な有害事象は「事象」として定義されるものであり、症状の度合いは関係ありません。
例えば、重篤な有害事象として「心筋虚血」が認められた場合、例え軽度であっても「重篤な有害事象」となります。
(「心筋虚血」という事象自体を「重篤な有害事象」として定義するからです)

一方、有害事象の重症度合いは「軽度(mild)」、「中等度(moderate)」、「重度(severe)」のように分類され、こちらは重篤な有害事象かどうかにかかわらず、全ての有害事象で用いられます。
例えば「頭痛」は重篤な有害事象にはなりませんが、重症の場合もありますので、その場合は「重度の頭痛」のように記述されます。
重篤な有害事象であっても「軽度の心筋虚血」、「中等度の心筋虚血」などのように、重症度によっても分類されます。

なお、「重篤」は英語で「serious」であり、重篤な有害事象は英語で
serious adverse event(SAE)
と記載されます。

●「MedDRA」について
有害事象や副作用の一覧表の下などに、「MedDRA/J Ver18.1」などの記載をみかけることがあるかと思いますが、「MedDRA」とは何のことでしょうか?

患者さんが診察を受けた際、医師(医療機関)は何らかの病名を記録しますが、その記録として残す病名は医師(医療機関)によって異なります。
例えば水虫の場合、「水虫」、「足白癬」、「足部白癬」、「足白癬症」、「athlete’s foot」、「tinea pedis」など色々な記載の仕方が考えられます。
このままですと、有害事象や副作用を集計するときに「足白癬」2件、「足部白癬」4件、「足白癬症」3件などと、名称によって別にカウントすることになってしまい、非常に困ります。
そこで、標準的な用語を定めて、異なる用語で記載された病名を集約します。
この標準的な用語が定められた辞書のようなものを「MedDRA」言います。
「MedDRA」は「Medical Dictionary for Regulatory Activities」を略したものです。
(Dictionaryなので、ほんとに辞書ですね)

MedDRAは海外の用語集ですが、日本語版が作成されており、日本語版のものを「MedDRA/J」と言います。
また、MedDRAは随時改訂されますので、versionが亢進されていきます。
上記「Ver 18.1」とは、用いたMedDRAのversionのことです。

先ほどの水虫ですが、MedDRA/J Ver18.1では「足部白癬」という名称で定義されています。
また、有害事象や副作用の表をみると、事象が大きく分類がされています。
例えば、「胃腸障害」の中に「大腸炎」や「口内炎」、「下痢」、「悪心」などがあり、
「感染症および寄生虫症」の中に先ほどの「足部白癬」や「中耳炎」、「インフルエンザ」などがあります。
この「胃腸傷害」や「感染症および寄生虫症」などの大きな分類のことを「器官別大分類(SOC)」と言い、「足部白癬」や「下痢」などの各事象を「基本語(PT)」 と言います。

●「CTCAE
」について
CTCAEはがん領域における有害事象の基準です。
事象名は2008年以降、上記のMedDRAで定められた用語が用いられています。
重症度がCTCAEで定められており、
Grade 1:軽症、Grade 2:中等症、Grade 3:重症、Grade 4:生命を脅かす、Grade 5:死亡
と5段階に分類されています(versionにより各事象の定義が若干異なるようです)。
なお、「CTCAE」は「Common Terminology Criteria for Adverse Events」の略です。

以上、今回は安全性の内容を理解するうえで知っておくべき用語について解説しました。
次回は安全性の補足として、投与量と副作用の関係について説明します。

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