臨床試験/臨床統計

臨床試験 選択基準と除外基準、外的妥当性 [★★]

投稿日:2019年10月20日 更新日:

本日は文字だらけの回になりますが、我慢ください(笑)。
しかも長いです…。2回分ぐらいの長さです…。
ただ、非常に重要な内容かと思いますので、何とか読んでいただけるとありがたいです。

臨床試験では、組み入れられる患者さんの基準が明確に定められています。

選択基準(inclusion criteria)…該当する患者さんが試験に組み入れられます
除外基準(exclusion criteria)…該当する患者さんは試験に組み入れられません

選択基準に該当し、かつ除外基準に該当しない患者さんが臨床試験に組み入れられることになります。
それにより、患者さんの範囲は限定されることになります。

分かりにくいので少しかみ砕きます。
例えば同じ疾患でも、軽度の患者さんもいれば重度の患者さんもいます。
疾患にかかってからの年月(罹病期間)についても、1年の患者さんもいれば10年の患者さんもいます。
罹病期間が短く症状が軽い患者さんと、罹病期間が長く症状が重い患者さんでは、薬の効き方が大分変ってくることは想定できますよね?
薬の効き方が異なると想定される患者さんを1つの臨床試験に混ぜてしまうと、薬の効果判定がややこしくなってしまうため、臨床試験ごとに対象となる患者さんを限定することにします。
それにより、薬の効果や安全性がより明確に評価できることになります。

それではまず、選択基準について少し説明します

選択基準について少し説明
選択基準は、その試験で主に検討したい患者さんと考えると分かりやすいかと思います。
例えば罹病期間が短い早期の患者さんに対する効果や安全性を検討したい場合には、早期患者さんを対象とした臨床試験を行います。
一方で、病気が進行した進行期の患者さんに対する効果や安全性を検討したい場合には、進行期の患者さんを対象とした臨床試験を行います。

具体的な例として、パーキンソン病のある薬の臨床試験では、早期の患者さんを対象とした試験と、進行期の患者さんを対象とした試験をそれぞれ行っており、選択基準として以下のような基準を定めています。

早期の患者さんに対する試験での選択基準
・Modified Hoehn & Yahr 重症度分類がステージ1~3
など

進行期の患者さんに対する試験での選択基準
・Modified Hoehn & Yahr 重症度分類がステージ2~4
・ウェアリングオフ現象が発現している
など

重症度(数字が大きいほど重度)でみると分かりやすいですね。
早期は1~3であるのに対し、進行期は2~4です。
また、進行期では、パーキンソン病の進行に伴い発現するウェアリングオフ現象が発現していることを患者さんの条件としています。

選択基準として他の分かりやすいものの例として、例えば花粉症の薬であるビラノアの臨床試験では、
・鼻汁、くしゃみ発作のスコアのいずれかが5点以上(スコアは最大12点)
・2年以上の症状を有する
などが定められています。

また、既に疾患に対する治療薬がある中で、効果や安全性が優れた新しい薬を開発する際の臨床試験では、
・既存治療で効果不十分な患者
のような選択基準も設けられます。

次に除外基準について少し説明します。

除外基準について少し説明
除外基準に定められるものとしては、リスクの高い患者さんや、効果判定に影響を与える要因などがあります。
まずリスクの高い患者さんについてですが、例えば、
・高齢者
・妊婦
・重度の肝障害
・重度の腎障害
・薬物に対して過敏症を有する
などがあり、安全性の観点から、薬剤投与によるリスクの高い患者さんは試験から除外されます。
妊婦さんでは、投与した薬が生まれてくるお子さんに影響する可能性もありますので、そのような患者さんは臨床試験では除外されているわけです。
重度の肝障害や腎障害をわずらった患者さんでは、薬が肝臓や腎臓で代謝されにくい場合があり、薬による副作用の懸念も高いため、除外されることが多くあります。

また、先にも述べましたが、得られた結果が明確でないと評価しにくいため、有効性や安全性の効果の判定に影響するような患者さんは除外する必要がでててきます。
例えば、
・同じような効果を有する薬を試験前に服用していた患者さん
・評価する項目(検査値)が安定していない患者さん
などです。

同じような効果を有する薬を試験前に投与していた場合、それらの薬が効果に影響する可能性があります。
また、試験直前に検査値が安定せず、例えば極端に大きな値である患者さんがいた場合、薬の効果が明確に判断できなくなりますし、1人の患者さんの数値により平均値が大きく変わってしまうようなこともありますので、そのような患者さんは除外されることがあります。

他にも色々とありますが、臨床試験では効果や安全性の判定を明確にしたいため、試験ごとに患者さんの基準が定められており、1つ1つの臨床試験で患者さんが限定されていることを理解いただければと思います。

さて、なぜ「患者さんが限定される」ことを理解しておく必要があるかということですが、臨床試験の結果(論文などで書かれている内容)を皆様が解釈する際に大きな注意が必要であるからです。
注意点は大きく分けて、
①論文に記載されている結果自体を解釈するうえでの注意点
②試験結果を実際の治療(臨床現場)に応用する際の注意点
の2つがありますので、簡単にですが説明していきます。

①論文に記載されている結果自体を解釈するうえでの注意点
簡単な例を挙げます。
例えばスコアが高いほど重症であると仮定し、スコアの最大値が30で、正常の場合5程度であると仮定します。
論文に以下のような記載があったとします。

「投与12週後のベースラインからの変化量(平均値)は実薬群で-3.0であり、プラセボ群に比べて有意な差が認められた(p<0.05)」
(-3.0…3.0減少したということ)

論文に記載されていることは事実ですので、間違ったことは記載されません。ただ、論文では結果がより優れているように解釈されるように、文章の流れが作られていることも多々あります。
そこで、結果の解釈においては、読者の判断が問われるわけです。

例えば、上記結果の解釈においては、どのような患者さんが試験の対象になっているかを確認することが必要です。
仮に早期の患者さんが対象にされており、治療前のスコアが8.0であった場合、単純に計算すると(大まかですが)、
8.0-3.0=5.0
になったということで、正常値(5程度と仮定した)まで下がったので結構効果あったな、と思われます。

一方、対象とされた患者さんが重度の患者さんであり、治療前のスコアが28.0とかですと、
28.0-3.0=25.0
であり、対して減少してないな、ということにもなります。

単純な例を挙げましたが、要するに記載されている結果だけで解釈するのは非常に危険であり、どのような患者さんが試験の対象になっていて、その患者さんに対してどういう結果が得られたのか、を考える必要があります。

もう1つの例を挙げます。
(こちらは、「アプライド・セラピューティクス Vol. 2 No. 2, 2011」を参考)

例えばプラセボ対照ではなく、既存の治療薬と新しい薬を比較する試験があったとします。
その際、選択基準のところで例に挙げた「既存治療で効果不十分な患者」という基準が設けられることがあります。
その試験において、新しい薬の方が、既存の治療薬に比べて統計学的に有意な改善が認められたとします。

ただ、その結果の解釈には注意が必要で、この試験結果から「新しい薬の方が効果が優れる」という結論は導くことはできません。
あくまでも「既存治療で効果不十分な患者」では「新しい薬の方が効果が優れる」という結果が得られたということであり、逆に既存治療で効果が十分な患者さんでは、新しい薬よりも既存薬の方が効果が優れる可能性もあります。

このように、繰り返しになりますが、どのような患者さんが試験の対象になっていて、その患者さんに対してどういう結果が得られたのか、を常に考える必要があります。

②試験結果を実際の治療(臨床現場)に応する際の注意点
①とも重複はしますが、臨床試験の結果は、その試験の「選択基準・除外基準」に合致した範囲の狭い患者さんを対象に行われた結果にすぎません。
臨床試験は複数行われていることが多いかと思いますので、そこで得られた結果はどのような患者さんに一般化できるのかを考える必要がでてきます。

なお、臨床試験での試験結果を、幅広い患者さんに当てはめることができるかどうかの妥当性のことを「外的妥当性」と言います。

外的妥当性について、論文のDiscussion(考察)で述べられていることもありますが、述べられていないこともあり、読者の判断が求められます。
また例え述べられていたとしても、その記述が適切でないこともあるため、やはり慎重に判断しなければなりません。

薬は臨床試験の結果に基づいて承認されることになりますが、薬を使用できる患者さんの範囲は、臨床試験で行われた患者さんの範囲よりも、広くなることがほとんどです。

除外基準の説明のところで、リスクの高い患者さんは臨床試験から除外されることを説明しましたが、実臨床においてはこれらリスクの高い患者さんにも薬は使用されます。
(上図の空白部分の患者さんにも、実際には薬が使われる)

この空白部分の患者さんに対する有効性や安全性については薬が承認された時点では不明確ですので、臨床試験で何がどこまで明らかにされたのかを踏まえて薬が使用されるべきであります。

また、実臨床での薬の効果や安全性については、薬が販売された後に「市販直後調査」などで検討されることになりますが、上図の空白部分のデータを得ることが目的の一つであります。
これについては、次回の「RMP(Risk Management Plan; 医薬品リスク管理計画)」でもう少し補足します。

長くなりましたが、以上をまとめますと、臨床試験の結果は限られた患者さんに対する結果ですので、「選択基準と除外基準」をよく確認し、結果を解釈していく必要があるということを抑えておいていただければと思います。

次回は今回の復習も兼ねて、「RMP(Risk Management Plan; 医薬品リスク管理計画)」について簡単に説明します。

<Sponsered Link>



-臨床試験/臨床統計