臨床試験/臨床統計

臨床試験 非劣性の補足 [★★]

投稿日:2019年5月24日 更新日:

また間が空いてしまいすみません。
今回は前回の「非劣性」について補足していきます。

まず、前回のまとめを再度掲載します。
~前回のまとめ~
●プラセボ対照試験では、主要評価項目について「優越性」を示す必要がある
●実薬対照試験では、主要評価項目について「非劣性」が示されればよい
●非劣性を検討する場合には「非劣性マージン」が設定され、信頼区間の下限値が「非劣性マージン」よりも大きければ(跨いでいなければ)、非劣性を示せたことになる

それでは今回ですが、はじめに「非劣性」について、論文中ではどのように記述されているのかについて紹介し、後半は「非劣性マージン」について補足します。

以下の例は、腎性貧血(腎臓の悪化により引き起こされる貧血)の治療薬である「C.E.R.A」の臨床試験の記述であり、対照薬「エポエチン ベータ」と比較した試験になります。
貧血の指標であるヘモグロビン(Hb)の濃度について検討しています。
(Hb値が低いほど貧血)

——ここから——
<試験の方法の記述>
評価期間におけるHb濃度の平均値は群ごとに算出し、エポエチン ベータ群に対する差とその95%信頼区間を示した。差の95%信頼区間の下限が-0.75g/dL以上である場合、エポエチン ベータに対する非劣性が検証されたと判断した。

<結果の記述>
「評価期間における平均Hb濃度」は、C.E.R.A.群では11.64±0.59g/dL、エポエチン ベータ群では11.17±0.76g/dL、エポエチン ベータ群に対する差は0.47g/dLであり、その95%信頼区間が0.17~0.78g/dLと非劣性マージンの-0.75g/dL以上であったことから、C.E.R.A.のエポエチン ベータに対する貧血改善維持効果の非劣性が検証された。

腎と透析 2011; 70(6): 953-963より引用(一部改変)
——ここまで——

読解できましたでしょうか?
群間差について述べている記述となりますので、前回説明したことと同じです。

結果の記述では、まずC.E.R.A.群とエポエチン ベータ群の実測値について記載されていますね。
C.E.R.A.群…11.64±0.59g/dL
エポエチン ベータ群…11.17±0.76g/dL
実測値はC.E.R.A.群の方が大きくなっています。

次に群間差が0.47g/dLであることが記載されていますが、正(プラス)の値ですので、大きい方から小さい方を差し引いており、C.E.R.A.群の実測値の方がエポエチン ベータ群に比べて大きいことを考えると
C.E.R.A.群の値-エポエチン ベータ群の値=0.47g/dL
ということになります。

そして、この群間差の95%信頼区間が0.17~0.78g/dLであります。

これを前回のように図示すると以下のようになります。
非劣性マージン-0.75g/dLもあわせて図示します。

図にするとよく分かりますよね?
結果の記述にもあるように、95%信頼区間の下限値が非劣性マージンを上回っているので、非劣性が検証できたことになります。

なお、この図は文献には掲載されていません。
このような図が文献に掲載されている場合もありますが、今回のように文書のみで記載されている場合は、上のような図を手書きで書いてみると分かりやすいかと思います。

それでは話を変えて、「非劣性マージン」について補足していきます。
前回は述べませんでしたが、「非劣性マージン」はどのように定められるのでしょうか?
この話は難しく、私も専門家でないので、軽く説明します。
(少し難易度があがりますので、無理に読まなくてもよいかと思います)

非劣性試験は新薬と既存薬を比較(実薬と実薬を比較)しており、プラセボを対照に用いてないのですが、新薬がプラセボの効果よりも劣ってしまうのは問題となります。
そこで、これまでに行われたプラセボを対照とした試験を基に検討がなされます。

ここでのプラセボを対照とした試験ですが、試験に用いた対照の実薬について、既に行われたプラセボ対照試験の結果が利用できます。
(既存薬は既に販売されているものですので、プラセボ対照試験が以前に行われています)

例えばその試験において、既存薬とプラセボの群間差が5(プラセボが劣る)であった場合、新薬が既存薬に比べて5よりも劣ってしまうと、プラセボよりも劣ってしまうことになります。
よって、非劣性マージンはプラセボよりも劣らないように、5の幅より小さくする必要があり、非劣性マージンの幅は5~0の間に設定することになります。

5~0の間でいくつにするかというのは難しい問題ですが、5の半分以下が受容されると考えられているようです。
(5というのは例で、きちんと書くと「プラセボに対する既存薬の効果の大きさ」のことですので、その半分以下ということです)
実際に、ある非劣性試験では5の半分の2.5を非劣性マージンに設定されていました。

この話は奥が深いですので、以上の簡単な説明のみに留めておきます。
(詳しい説明は「ICH E10ガイドラインに関する統計的諸問題(日本製薬工業協会) 2.2.4 非劣性の限界値」に記載されていますので、タイトルでWEB検索し、興味がある方は読んでみてください)

前回と今回で優越性試験と非劣性試験について説明しましたが、もう一つ、同等性試験というのがありますので、次回はその説明をしたいと思います。

<Sponsered Link>



-臨床試験/臨床統計