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臨床試験 差があるということ③ 補足(群間差、リスク比の場合) [★★]

投稿日:2019年3月24日 更新日:

前々回と前回の2回で、P値と95%信頼区間について説明しました。
実薬群とプラセボ群の値を直接比較し、P値から判定する場合にはP<0.05の場合に統計学的な差があり、信頼区間から判定する場合には実薬群とプラセボ群の信頼区間が重ならない場合に統計学的な差があるということをお話しました。

今回は、補足として、実薬群とプラセボ群の値自体を直接比較するケース以外の例について説明しておきます。

①群間差(実薬群-プラセボ群)
まずは群間差について説明します。
実薬群とプラセボ群の値の比較の際、各数値を直接比較するのではなく、差をとって議論する場合が多々あります。
例えば、ある薬を毎日投与した後、4週後の改善スコアを検討するとします。
(スコアが高い方が、改善しているとします)
その際、実薬群のスコアが12、プラセボ群のスコアが4になったとします。
この12と4を直接比較せず、実薬群とプラセボ群の差を検討することがよくあります。
差をとってみますと、実薬群-プラセボ群=12-4=8となりますね。
これが群間差です。

この群間差についてもP値や95%信頼区間が求められ、例えば以下のような結果が得られたとします。

群間差…平均値 8、P=0.072、95%信頼区間:-0.6~12

このとき、統計学的な差があるかどうか分かりますでしょうか?
P値に基づく場合は簡単ですね。P値が0.05を上回っているので、統計学的な差は認められないこととなります。
それでは信頼区間についてはどうでしょうか?
この群間差が何の値を基準にされているかが分かれば答えはでるのですが…。

まず群間差が全くないケースを考えてみましょう。
群間差が全くない場合は「実薬群とプラセボ群の値が全く同じである場合」、つまり「群間差=0」(「実薬群-プラセボ群=0」)の場合です。
ということで、群間差を考える際の数値の基準は「0」になります。

P値については簡単と述べましたが、このP値についても同様で、群間差である「8」の値について、基準となる「0」に対して差があるかどうかの検定を行った結果、P値が0.072になったと考えます。

~メモ~
群間差のP値…「0」に対して差があるかどうかのP値と考える

それでは信頼区間についてです。
差がない状態が「0」ですので、信頼区間が0を跨がなければ、統計学的に有意な差があると言えます。
今回は、信頼区間が0を跨いでしまっているので、統計学的に有意な差はないと言えます。

このように、何が基準となっているのかを考えることが重要です。

②リスク比の場合
リスク比という言葉は、このブログではじめて出しましたので、簡単な例を説明します。
まず「リスク比」の「リスク」ですが、例えば「死亡のリスク」、「入院のリスク」、「癌になるリスク」などと書くと分かりやすいでしょうか?
例えば癌のリスクが2倍というと、基準に対して2倍癌になりやすいということになりますね。
このとき、基準に対する倍率として2倍と言いましたが、この「2倍」は基準「1」に対して「2」になっており、比をとっているという意味で「リスク比」と言います。

もう少し比ということについて説明しますと、「リスク比=着目しているリスク÷基準のリスク」ということです。この割り算をすると基準を1とした場合のリスク(=リスク比)ということになります。
例えば仮に、喫煙している方の肺癌のリスクが8、喫煙していない方(基準)のリスクを2とすると、喫煙している方の肺がんのリスクは喫煙していない方に比べて「8÷2=4倍」高いということになり、リスク比は4ということになります。

文献などで「リスク比」という用語以外に、「オッズ比」や「ハザード比」などという言葉がでてきます。これらも「リスク比」と似たような概念のもので、定義が違うので数値などはそれぞれ異なってくるのですが、リスクに関する比ですので、統計学的な差があるかないかを考えるうえでは同じように考えます。

それでは例を出します。
プラセボ群に対する実薬群の入院のリスク比が0.7(95%信頼区間:0~0.98)であった場合、統計学的な差があるかどうかを考えてみます。

95%信頼区間が0にかぶっているから、統計学的な差はない、と考えた方おりますでしょうか?
ちょっと早計ですね(笑)
①の最後に「何が基準になっているかが重要」といいましたね。
今回はプラセボ群に対する実薬群の倍率を考えていますので(比率ですので)、プラセボ群と実薬群のリスクが全く一緒になった場合が基準となります。
全く一緒ということは、「実薬群のリスク÷プラセボ群のリスク=1」ですので、今回の基準は「1」ということになります。
図示すると下のようになります。

95%信頼区間が1を跨がずに下回っていますので、基準に対して統計学的に有意に低下したと言えます。
よって実薬群では、入院のリスクがプラセボ群に比べて統計学的に有意に低下したと言え、差が認められたことになります。

(なお、今回の例で95%信頼区間を0~としましたが、比ですので、実際には「0」という値をとることはありません。0.00000001を0と表現したということにしておきます。)

もう1つ例、今度は統計学的に有意に増加した例を挙げます。
先の説明に用いた喫煙を例に説明しますと、喫煙していない方に対し、喫煙している方が肺癌となるリスクが2倍(リスク比が2)であり、リスク比の95%信頼区間が1.2~2.4であったとします。
この場合は以下のように図示できます。

95%信頼区間が1を跨がずに上回っていますので、喫煙している方では、喫煙していない方に比べて肺癌になるリスクが統計学的に有意に高い、ということが言えます。
(あくまでも仮の例です)

分かりましたでしょうか?繰り返しですが、意味を考えて理解することが重要です。
信頼区間について一応まとめると以下のようになります(暗記はしないよう)。

~信頼区間での判別~
・2群の直接的な比較…各群の信頼区間が重複するかどうかで判別
・群間差の場合…信頼区間が0を跨ぐかどうかで判別
・リスク比の場合…信頼区間が1を跨ぐかどうかで判別

リスク比についてはP値のことを書きませんでしたが、P値についても同様で、リスクの場合は1が基準となります。
例えば、リスク比 0.5(P<0.05)であれば、リスク比の0.5が1に比べて有意に低いと考えます、
リスク比 2(p<0.05)であれば、リスク比の2が1に比べて有意に高いと考えます。

いかがでしたでしょうか?
2群間の比較について、今回は「群間差」と「リスク比」について説明しました。
もう1回補足として、次回は群間の比較ではなく、群内の比較について説明します。

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