★疾患と薬/薬の開発

タンパク質を標的としていない薬②(アプタマー、microRNAを標的とした薬) [★~★★★]

投稿日:2018年9月21日 更新日:

(2018年11月15日追記:アプタマーはタンパク質を標的とした薬でした。RNA関連の新しいタイプの薬ということで、お読みください)

前回の続きで、タンパク質を標的としていない薬についての2回目です。
今回は「アプタマー」と「microRNAを標的とした薬」という、いずれもRNA関連の話となります。
(なんじゃそりゃ?ということかと思いますので、説明します)
ここででてくる「RNA」や「セントラルドグマ」について忘れている方は、ここで復習しておきましょう。
(ちょっと専門的過ぎるかもしれませんので、★~★★★の記事としました)

■アプタマー(RNAを薬に用いる)
RNAについては以前解説したので、忘れている方は再読を!
DNA⇒RNA⇒タンパク質(用語解説) [★~★★]

2本鎖の遺伝子であるDNAから、1本鎖の遺伝子RNAに変換され、そのRNAの情報にもとづいてタンパク質が生成される、というのがセントラルドグマという概念です。

このRNA、1本鎖ではあるのですが、DNAと違って様々な3次元構造をとることが知られています。(DNAは皆様が想像しているような、よくイラストにもでてくる二重らせん構造です)
人工的に様々な形(3次元構造)のRNAを作り出すこともできます。

これを利用して、疾患に関連するタンパク質に特異的に結合し、タンパク質の機能を抑制できるRNAというのを作ることが試みられています。

1つは、これまでパックマンの口に結合する団子を薬とみたててきましたが、この団子の役割をするものとしてRNAを用いるということです。

もう1つは、抗体医薬のように、リガンド(タンパク質)にRNAを結合させ、リガンドが受容体に結合するのを防ぎます。つまり、抗体の役割をするのがRNAということになります。


アプタマーとは、タンパク質などの特定の物質に結合することのできるRNAや一本鎖DNAを指します。
(DNAも人工的に一本鎖のものを作ることができます。二本鎖になると形が二重らせんに固定されますが、一本鎖だとDNAでも様々な3次元構造を形成できます)
あるタンパク質に特異的に結合するRNAはアプタマーの一種ということになります。

ただしRNAのままでは分解または排泄されやすいため、薬とする際には分解または排泄されにくいような修飾がなされるようです。

それでは、実際にアプタマーが薬になっているかということですが、日本で承認された薬として「マクジェン」という薬があります。加齢黄斑変性症という疾患の薬です。2008年に承認されたのが、国内初のアプタマー医薬とのことです。(2016年の記事(日薬理誌 2016; 147: 362-367 アプタマーの医薬品化)では、国内で承認されたアプタマーはこの一剤のみと記載があります)
マクジェンは血管内皮増殖因子(VEGF)に結合するアプタマー(RNA)で、VEGFがその受容体に結合するのを防ぎます。

臨床試験中のアプタマーもいくつか報告されており、今後少しずつこのような薬が増えると思われます。

■microRNAを標的とした薬
またまた変わった英語文字で、「microRNA」って何ぞや?って感じかと思います(笑)
miRNAとも書きます…
これも説明がいりますね。

セントラルドグマについては上記で説明しましたが、DNAの情報がRNAに変換され、そのRNAの情報に基づいてタンパク質が生成されるという「セントラルドグマ」の概念が、生命の根幹を成す基本原理として、従来広く受け入れられてきました。
しかしながら、DNAの解析が網羅的に行われた20世紀末には、DNAの情報全体の中でタンパク質の設計図となる情報はわずかであることが判明し、残り大部分はタンパク質の設計図としての情報を持たない「ノンコーディング(non-cording)」と呼ばれる領域であることが分かってきました。
そしてDNAのノンコーディング領域に対応するRNAが大量に生成されていることも明らかとなり、それらは「ノンコーディングRNA(non-cording RNA、ncRNAとも書く)」と呼ばれています。上記の通り、ノンコーディングRNAはタンパク質の情報を持っていませんので、当時は生体内で何の役割をしているものかも不明でした。それに興味を持った研究者により解析が進められた中、ノンコーディングRNAのうち「microRNA」とよばれるRNAが注目を集めることとなりました。

microRNAはRNAを構成するA, U, G, Cの部品がたった18~25個程度連なった小さなRNAであり、それゆえに「microRNA(マイクロRNA)」と呼ばれています。
このmicroRNAですが、従来のセントラルドグマである「DNA→RNA→タンパク質」の流れの中で、「RNA→タンパク質」の部分を負に制御することが判明しました。それが分かったのが2000年代の初期となります。
(それにより、従来のセントラルドグマの概念がくつがえされました)

microRNAは、タンパク質の情報を有するRNA(タンパク質をコードしたRNA)(メッセンジャーRNAと言います。mRNAと書きます)に結合することで、そのmRNAに対応するタンパク質が生成するのを抑制することが判明しました。
このことから、生体内はタンパク質のみによって制御されているのではなく、タンパク質の情報をもたないmicroRNAなどのノンコーディングRNAによっても制御されていることが判明したわけです。

このブログにおいても、タンパク質が生体内の反応系の中心であり、様々な役割分担により生体内の様々なシステムを制御しているという話をしてきました。
そして、疾患に関与するタンパク質を抑制することができる物質が薬になるという話をしてきました。
しかしながら、今回のmicroRNAの話を出すと、この話もくつがえされることになります。

タンパク質だけではなく、microRNAも生体内の反応系を制御するということになりますので、当然microRNAも疾患に関与しており、microRNAを標的として薬が作れないか?という方向になります。

それでは、microRNAが疾患に関与しているかどうかということですが、2000年代以降研究が進められており、実際にがんをはじめとする様々な疾患に関与することが報告されています。
そして、疾患に関連するmicroRNAを標的とした薬の開発も進められるようになりました。
(まだ薬として世にでておらず、開発段階ではあります)

<microRNA亢進による病態>
microRNAが亢進した病態では、そのmicroRNAを抑制できる物質が薬になると考えられます。
(これまでの記事では、機能が亢進したタンパク質を阻害することができる物質が薬になるということをお話してきましたね。それと同様に、機能が亢進したmicroRNAを抑制できる物質が薬になると考えます)
microRNAはみつけられた順に番号が付けられて「miR-XXX(XXXの部分に番号が入る)」と呼ばれますが、miR-122は肝臓に発現するmicroRNAであり、C型肝炎ウイルスが増殖する際に必要であることが判明しています。よって、このmiR-122を抑制することができるものが薬になると考えられます。

~ちょっと解説~
1本鎖のDNAやRNAは、それと相補的な配列と結合します。(DNAではA⇔T、G⇔Cが相補的です。RNAではA⇔U、G⇔Cが相補的です。例えばRNAの配列がAAGAAGであるとすると、それと相補的なUUCUUCが結合して2本鎖を形成します)
~ここまで~

よって、miR-122と結合できる相補配列のRNAは、miR-122をトラップすることのできるため、相補配列を有したRNA(名称:Miravirsen)が実際にC型肝炎の薬として開発がすすめられています。現在、第Ⅱ相臨床試験で良好な結果が得られていると報告されています。

<microRNA減少による病態>
逆に、microRNAがきちんと生成されないために疾患が起こることも報告されています。このような疾患に対しては減少したmicroRNAを補うことで疾患が抑制できると考えられます。
(前回の記事で、タンパク質が減少した場合、タンパク質自身を薬として用いる、という話をしましたが、それと同様の考え方です)
一般にがんではmicroRNAが減少していると言われており、不足したmicroRNAを補うことでがんを抑制できる可能性が考えられています。実際にmiR-34を補うことで肝がんと血液がんが抑制できると考えられており、現在第Ⅰ相臨床試験が行われています。
(正確にはmiR-34を模倣した物質が薬の候補として用いられています)

microRNAをはじめとしたノンコーディングRNAを標的にした薬の開発は、上記のように初期段階ではありますが、今後進められて増えていくのではないのかと思います。

いかがでしたでしょうか?
ちょっと今回の記事は一般向けとはかけ離れていたかもしれませんが、一般向け薬の探索(開発)シリーズの最後に、ちょっと例外的な最新の話をとりあげてみました。
こちらでこのシリーズは一旦終わりとなります。
疾患と薬について理解するための全体的なことについて、一通り説明できたかと思いますので、シリーズを通して再度読んでいただけると、より理解が深まるかと思います。

今後は少し専門的な記事に移ろうかと思います。
★★の記事として、臨床試験や臨床統計の話をしていきたいと思っています。
(一般向けではないので、より専門用語で話を進めます)
「臨床試験の論文を読解できるようになる」、というのを一つの目的としたいかと思います。

なお、一般向けの記事についてはリストか何かで整理したいと思いますので、また更新します。
それでは。

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