★疾患と薬/薬の開発

薬の開発の全体的な流れ [★~★★]

投稿日:2018年9月14日 更新日:

今回は薬の探索(開発)シリーズのほぼ最後の回となります。
(もう1回だけ補足的な事項について次回解説して終わりとします)

これまで薬とはどういうものか?薬はどうやってみつけるのか?などについて説明してきましたが、今回は薬の開発の全体像についてお話します。

まず、全体的な流れをお示しします。


それでは図の①~⑧の順に説明していきます。

①創薬ターゲット分子の探索
これまでずっと述べてきましたが、ヒトが有する約10万種類のタンパク質のうち、各疾患に関与するタンパク質は異なります。高血圧に関与するタンパク質、免疫系に関与するタンパク質、がんに関与するタンパク質、など全て異なりましたね。また、疾患に関与していないタンパク質も多数存在しています。よって、ある疾患の薬を開発する際、このタンパク質の機能を抑えれば治療効果が見込まれる、というタンパク質(=創薬ターゲット分子)を特定する必要があります。この創薬ターゲット分子の探索が薬を開発するうえでの鍵となります。
(治療効果が見込めないタンパク質に対する薬を開発しても、意味がありませんので)

前に書いた以下の記事も参照ください。
創薬ターゲット分子[★~★★]

②標的タンパク質に対するリード化合物の探索
疾患の標的となるタンパク質が定められたら、そのタンパク質の機能を抑制することができる物質を探していきます。どのように探すかについては前回お話しましたね。
パックマンを阻害する薬をみつける [★~★★]

タンパク質(パックマン)の口の部分に結合する物質(化合物)をコンピュータ上で予測することもこの段階に含まれます。そして、実際に試験管レベルの実験で阻害する物質を探していきます。試験管レベルの実験ではなく、細胞を用いて実験をすることも多くあります。
(細胞の実験については説明していませんでしたが、シャーレで細胞を培養して、その中に物質を入れて、その作用をみていきます)

③化合物の最適化
②でタンパク質の機能を抑制できる化合物がみつかったら、次に化合物の構造を化学反応により少しずつ変化させて、より強く(より少量で)タンパク質の機能を抑制できる化合物をみつけていきます(化合物を化学合成により変換していきます)。また、強さだけではなく毒性や水溶性など薬に適した性質を持つ化合物へと変換していきます。それが化合物を最適化するということです。
なお、②③の段階(④の詳細な動物実験の前)においても、細胞や動物を用いて毒性や効果についても実験的に確認したりします。

化合物の最適化↓

④動物実験
②③で薬になりそうな物質が見いだせたら、有効性や薬物動態(血中濃度の推移など)、安全性(毒性)などについて動物(ラットやマウス)を用いて詳細を検討していきます。

例えばがんに対する有効性の評価では、腫瘍ができる動物モデル(生まれた後に腫瘍ができるように遺伝子操作されたマウスやラット)を作成し、候補物質を投与した際に腫瘍が小さくなるかどうか、などを確認します。
また、毒性がないかについても詳細に確認します。例えば神経や心臓、呼吸器に影響を及ぼすかどうか、また反復投与した際にどの程度悪影響を与えるか、量についてもどの程度まで増やすと悪影響がでるか、など確認します。女性では生殖の問題もあるので、動物に投与した際の生殖機能や出生児が奇形とならないかどうか、などについても確認します。
血中濃度の推移や薬物が体の中からどのようにでていくか(専門用語で吸収、分布、代謝、排泄という)についてもまずは動物で検討しておきます。これが薬物動態の検討です。

⑤第Ⅰ相臨床試験
動物実験で有効性や安全性が確認されたら、いよいよヒトに投与する臨床試験が行われます。そのはじめとして、健康な方(成人)を対象に安全性や薬物動態を検討するのが第Ⅰ相試験です。第Ⅰ相試験では少ない人数に対して臨床試験が行われます。
安全性の検討とは、どのような副作用があらわれるかを主に検討するすることです。健康な方を対象としているので有効性について確認することはできません(もともと正常ですので)。悪い作用(副作用)があらわれるかどうかを検討します。
また、同時に薬物動態も検討します。薬物動態の検討とはどのようなものかというと、本ブログの血中濃度シリーズで扱った「血中濃度」をまず検討します。薬を投与してから血中に移行して何時間後にピークになるか、何時間くらいで血中から消失するかを確認します。食事の影響を検討するのも第Ⅰ相試験です。
(前に説明しましたが、薬の有効性と安全性は血中濃度で決まるので、その検討を行う必要があります)
そして、薬が体の中に入ってからどの臓器に移行し、どのように出ていくのか?尿から出ていくのか、糞からでていくのか?などを検討するのも薬物動態の検討です。

血中濃度について忘れている方は「血中濃度シリーズ」の復習を!

⑥第Ⅱ相臨床試験
第Ⅰ相試験で安全性に問題ないということであれば、第Ⅱ相試験が行われます。第Ⅱ相試験では実際に疾患を有する患者を対象に検討されます。疾患を有する患者を対象にしているので、安全性に加えて有効性も検討されます。なお、第Ⅱ相試験も少ない人数に対して試験が行われます。
第Ⅱ相試験では用量に対する検討が行われます。例えば25mg投与する群、50mg投与する群、100mg群投与する群と3つの群に分け、効果がどのように変わるのか、副作用のあらわれ方にどのような違いがでるのかを検討します。次の第Ⅲ相試験では多人数の患者に対して試験を行いますが、第Ⅲ相試験で用いる用量はこの第Ⅱ相試験の結果をもとに決定されます。

⑦第Ⅲ相臨床試験
多数の患者に対して大規模に行われるのが第Ⅲ相試験です。第Ⅱ相試験で検討された用量の中で、適していると考えられた用量(有効性がある程度期待でき、副作用があまりでない用量)をもとに薬を投与することになり、実際の治療に近い形で行われます。

用量については以下で記載しましたね。有効性と安全性のバランスがとれることが重要です。
薬の量と効果・副作用の関係 ~至適用量の話~ [★]

第Ⅲ相試験では比較対照となる群が設けられます。最もよく行われるのがプラセボ(偽物の薬)を対照として行われる試験(プラセボ対照試験)です。例えば100人が試験に組み入れられた場合、50人は試したい薬を投与する群、50人はプラセボを投与する群の2つの群に分けて結果を比較します。基本的にどちらを投与しているかが分からないようにします。それを盲検化といいます。(プラセボは、本物の薬を飲んでいるという思い込みにより効果を発揮するので、偽物と分かってしまうとプラセボの効き目がなくなってしまいます。よって盲検化します。)

プラセボの記事も前に書きましたね。
プラセボ効果とは?[★]

また、対照がこれまでに使われてきた薬とする実薬対照試験が行われる場合もあります。例えば花粉症の薬は以前より使われていますが(例えばアレグラは2000年から使われている)、よりよい薬が開発できた場合、その薬とアレグラを比較するような試験が行われます。それが実薬対照試験です。逆にある疾患に対する薬がこれまでに一つもないような場合には、実薬がありませんので、プラセボ対照試験が行われるわけです。

第Ⅲ相試験は検証的試験とも呼ばれており、比較対照と比較して、ある一定の基準をクリアする必要があります。主要評価項目という項目が1項目決められ、その項目が
・プラセボに対して優れている
・対照とする実薬に比べて劣っていない
など、前もって定められた条件をクリアしなければなりません。
(クリアできない場合、臨床試験は失敗したととらえられることが多いです)
クリアした場合、「主要評価項目が達成された」などと言われます。

主要評価項目といっても、どういう項目か分かりにくいと思いますので例をあげますと、例えば花粉症の薬であれば鼻症状をスコアとしたもの、貧血の薬であればヘモグロビン値、脂質異常の薬であればLDLコレステロール値などです。そして主要評価項目は基本的には1つしか定められないという決まりがあるため、投与後の評価時期についても1点に定められます。例えば「投与14日後における鼻症状」、「投与12週後におけるLDLコレステロール値」といった感じです。

また、主要評価項目は有効性の項目であることが多いため、薬が世に出るためには、重大な副作用がでないなど、安全性についてもクリアする必要があります。

これらの試験結果をもとに、厚生労働省にて薬の審査が行われ、実際に薬が世に出ても問題ないということになれば、承認されて販売されることとなります。

⑧市販後:実際の臨床現場での安全性や有効性の検討
臨床試験は大規模な第Ⅲ相試験であっても限られた条件下で行われます。患者の組み入れ基準や除外基準が設けられ、例えば腎臓に障害がある患者さんは試験に入れられない、など条件がつきます。
しかし、実際の臨床現場ではあらゆる患者さんに対して薬が投与されるわけです。薬の量も医師の判断で調整されます。よって、薬が世に出た後も、実臨床での安全性や有効性の情報を得て、その情報を共有していく必要があります。
新しい薬については市販後6ヵ月の間、「市販直後調査」を行うことが義務付けられています。

~市販直後調査(医薬品医療機器総合機構ホームページより)~
新医薬品がいったん販売開始されると、治験時に比べてその使用患者数が急激に増加するとともに、使用患者の状況も治験時に比べて多様化することから、治験段階では判明していなかった重篤な副作用等が発現することがあります。このように新医薬品の特性に応じ、販売開始から6ヵ月間について、特に注意深い使用を促し、重篤な副作用が発生した場合の情報収集体制を強化する市販直後調査は、市販後安全対策の中でも特に重要な制度であります。
(http://www.pmda.go.jp/review-services/drug-reviews/review-information/p-drugs/0006.htmlより引用)

いかがでしたでしょうか?
薬の探索(開発)シリーズの最後の締めということで、薬の開発の流れについて説明しました。
次回、補足的な説明として、「タンパク質を標的としていない薬」について説明します。
これまで、タンパク質の機能を制御するのが薬という話をしてきましたが、実はそれ以外のものもあるので(現在開発されている薬の多くはタンパク質を標的としていますが)、補足として1回設けて、どのようなものがあるのかを紹介します。

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