★疾患と薬/薬の開発

【復習回】疾患と薬 [★](初めて読まれる方歓迎)

投稿日:2018年8月1日 更新日:

今回は復習回として、疾患と薬について少しだけ異なる角度から書き直しました。
これまでの話とほとんど一緒ですが、疾患と薬の関係について、より分かりやすくしましたので、初めての方は是非読んでいただければ嬉しいです。

それではスタートです。

私たちヒトの生体内は、様々な物質による化学反応系により厳密に制御されています。
例えば、私たちのからだには1日5,000個のがん細胞ができているといわれていますが、正常の状態であれば、生体内の反応系により速やかに除去されていきます。

それでは、この反応系の中で何が中核を成しているのでしょうか?
ヒトの細胞にはDNAがあります。DNAは生命の根幹を成すものですが、DNA自体が動いて機能するわけではありません。DNAはあくまでも遺伝情報であり、設計図の役割を担うものです。
ではDNAという設計図をもとに作られるものは何でしょうか?
それは「タンパク質」です。

ここで、な~んだ「タンパク質」かぁ。と思われる方は少なくないかと思います。
食品で「タンパク質は肉や魚に含まれる」などと聞き慣れてしまっているために、DNAと聞くとすごいイメージがありますが、タンパク質と聞くとしょぼそうなイメージがあるかと思います。
でもタンパク質は、DNAという設計図から産まれた、生体内の反応系の中心を成すものなのです。

「タンパク質」というのは1種類の物質を表す名称ではありません。DNAをもとに産生される物質の総称です。
ヒトのDNAから産生されるタンパク質は10万種類以上と言われています。
この10万種類以上のタンパク質が役割分担をして、生体内の様々なシステムを制御しているのです。

例えば、血圧を調整する反応系に関与するタンパク質もあれば、免疫を調整する反応系に関与するタンパク質もあります。細胞を増殖する反応系に関与するタンパク質もあります。
それぞれのタンパク質が役割分担をして、生体内の様々な反応系の制御を行っているのです。

これらの反応系は正常の状態、つまり天秤に例えるとつり合いがとれていればよいのですが、何らかの原因で反応系が亢進して、つり合いがとれなくなることがあります。
高血圧では血圧を調整する反応系が亢進しています。免疫系の疾患であるリウマチでは免疫を調整する反応系が亢進しています。がんでは、細胞増殖を調整する反応系が亢進しています。
このように、各反応系のバランスが崩れると、疾患として現れてくるのです。

そのとき、各反応系の亢進に関与する、つまり疾患の進行に関与するタンパク質があり、その機能を抑制できる物質が各疾患の薬となります。
例えば高血圧の亢進に関与するタンパク質を抑制できる物質は高血圧の薬となり、免疫系の亢進に関与するタンパク質を抑制できる物質はリウマチの薬となります。

各論だと分かり難いため、高血圧を例にとって説明します。
こちらの図は血圧が上昇するメカニズムを示したものです。
(上の大きな丸いのと、左のパックマン2つ、下の細胞の表面に存在するのはいずれも異なるタンパク質です。10万種類のタンパク質のうちの4つということです)

まず血液中に存在する丸で示したタンパク質(アンジオテンシノーゲン)が、1つ目のパックマン(レニン)に切られます。1つ目のパックマン(レニン)は腎臓から分泌されるタンパク質です。

次に、切り出されたもの(アンジオテンシンⅠ)が肺に存在するパックマン(アンジオテンシン変換酵素)に切られます。

そして、切られて小さくなった破片(アンジオテンシンⅡ)が、血管などの細胞の膜に存在するタンパク質(アンジオテンシンⅡ受容体)に結合します。
すると、血管が収縮するなどにより血圧が上昇する、というわけです。

それでは、高血圧を抑制するにはどうすればいいかというと、まず2つのパックマンが悪者ですね。
パックマンにより切られなければ血圧が上昇する方向にはなりませんので、パックマンの機能を抑えてしまえばよいわけです。
そのためには、パックマンの口に団子でも詰めておけば切ることができませんので、これで高血圧を抑制できます。
この団子の役割をするのが薬ということになります。

実際の構造をみてみましょう。
1つ目のパックマンに団子(薬)が結合した構造はこんな構造をしています。
まず横から見た図ですが、ほんとにパックマンのようで、口の部分に薬が結合していますね。
(左が全体、右は拡大したものです)

正面から見るとこんな感じです。溝全体に結合していることが分かると思います。
(左が全体、右は拡大したものです)

それでは話を戻します。
もう1つ、高血圧を抑制できそうな場所がありまして、それは切り出された破片(アンジオテンシンⅡ)が細胞表面のタンパク質(アンジオテンシンⅡ受容体)に結合できなければよいのです。
そのためには、細胞表面のタンパク質(アンジオテンシンⅡ受容体)にテープでも貼ってしまえばよいのです。
このテープの役割をするのが薬です。

1つ目のパックマンの団子として働く薬に「ラジレス(一般名:アリスキレン)」という薬があります。先ほどお見せした構造は、このラジレスがパックマン(レニン)に結合している構造です。

2つ目のパックマンの団子として働く薬はたくさんあるのですが、「アンジオテンシン変換酵素阻害剤」と言われる薬で、「カプトリル(一般名:カプトプリル)」など多数あります。

3つ目のテープとして働く薬は「アンジオテンシン受容体拮抗薬」と言われる薬で「ディオバン(バルサルタン)」などがあります。

これらの薬はいずれもタンパク質の機能を抑制していますね。
このように、各反応系を亢進するタンパク質の機能を抑制するものが薬となります。

これは高血圧だけでなく、免疫系の場合も、がんの場合も同様で、それぞれの反応系の亢進に関与するタンパク質を抑制するものが薬となります。

最後に「まとめ」です。

いかがでしたでしょうか?薬ってこういうものなんだぁ、というイメージを持っていただけましたでしょうか?
いつもよりもストーリーっぽい感じで、より一般の方向けに書いてみました。

なお補足ですが、今回の話は下の図の内的要因による疾患の話で、外的要因(ウイルスや細菌)による疾患の話は省いています。

ウイルスや細菌の話は以前の記事をご覧ください。

次回は前回の続きに戻り、「低分子医薬品と抗体医薬品」についてお話します。

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