★疾患と薬/薬の開発

内的因子による疾患に対する薬の開発-②(リウマチ編 2回目)[★~★★]

投稿日:2018年7月22日 更新日:

前回のリウマチの続きについてお話します。
リウマチは免疫系が亢進することにより進展する疾患ですが、そのはじめの機序として、TNF-αやIL-6といったリガンドが、それぞれの受容体に結合するところからはじまることを説明しました。
そして、各リガンドが各受容体に結合するステップを妨げることのできる物質がリウマチの治療薬になり得ることを説明しました。

今回はその後の話となります。
リガンドが受容体に結合した後、細胞内にシグナルが伝達されますが、そのステップを遮断する、という話をしていきます。

話を始める前に一つ覚えておいてほしいのですが、細胞内のシグナル伝達においては、「キナーゼ」と総称されるタンパク質がよく出てきます。
「キナーゼ」とはタンパク質に「リン酸基」(以後Pとします)という目印をつけるタンパク質の総称で、酵素の一種です。(酵素ですので、パックマンの構造をしています)

よって、キナーゼは創薬ターゲット分子として様々な薬の標的となっており、比較的小さな構造をもつ薬によりその機能を抑制することが可能です。

創薬ターゲット分子については↓を参照
創薬ターゲット分子[★~★★]

それでは、話を戻してリウマチのシグナル伝達の話をします。
今回はIL-6からの経路に話を絞って説明していきます。

IL-6がIL-6受容体に結合してgp130と共に6量体を形成すると、細胞内ではシグナルが伝達されていきますが、その反応系は複雑です。

まず、6量体を形成した際に2つのgp130が隣接すると、各gp130に結合しているJAK(ヤヌスキナーゼ)と呼ばれる別のタンパク質が働きます。
(前回はJAKからの話はブラックボックスにして、シグナルが伝わるとのみ説明していました)

JAKはまず、JAKどうしでPを付け合います。
すると、JAKが活発になり(活性化といいます)、gp130にPを付けます。

gp130にPがつくと、それを目印にしてSTATと呼ばれるタンパク質がそこに寄ってきます。
すると、JAKがSTATにもPを付けます。
Pがついた2つのSTATはgp130から離れて複合体を形成します。

複合対を形成したSTATは核の中に移動し、核の中のDNAに結合します。

すると、リウマチの進展に関与するタンパク質がDNAを基に生成されます。
(DNAを基にRNAが作られ(転写)、RNAを基にタンパク質が作られます(翻訳))

↓こちらでも復習を
DNA⇒RNA⇒タンパク質(用語解説) [★~★★]

細胞内のシグナル伝達はこのように起こっています。
(複雑ですね)

さて、ここでシグナル伝達を遮断して、リウマチが進展するのを抑制する、ということを考えます。
この経路で着目したいのが、Pの目印をつけるJAKです。
JAKが働かなくすればPを付けることができませんので、シグナル伝達を抑制することができます。
先に説明した通り、JAKはパックマンですので、その口を塞ぐことのできる物質が薬となります。
(比較的小さな構造をもつ物質でJAKを阻害することができます)

これまでの上記図を見返してほしいのですが、JAKがPを付けられなれば、JAKが活性化することができません(JAKどうしでPをつけ合うことができない)。
JAKが活性化していなければgp130にPをつけることができず、gp130にPがつかなければSTATはgp130に寄ってきません(目印がありませんので)

よって、JAKを阻害することで、シグナルが伝達するのを防ぐことができます。

実際にJAKの阻害剤はリウマチの薬として使用されています。
一つはゼルヤンツ(一般名:トファシチニブ)で、もう一つはオルミエント(一般名:バリシチニブ)です。

いかがでしたでしょうか?
今回もタンパク質が標的になっているということは抑えておいてください。

前回と今回の2回に分けてリウマチの薬について説明しましたが、リウマチの薬は作用機序的に以下3つが考えられました。
①TNF-α受容体やIL-6受容体の口を塞ぐ薬
②TNF-αやIL-6自体を捕まえる薬
③シグナル伝達で機能するJAKを阻害する薬

①と②は構造的に小さな薬では現状難しいため、抗体というタンパク質が使用されていることを説明しました。
それに対して今回の③(JAK阻害薬)は、構造的に比較的小さな物質が薬となっています。
(JAKはパックマンですので)

抗体のようなタンパク質の薬と、構造的に小さな物質(低分子医薬品という)では薬としての特徴(メリットやデメリット)が異なってきますので、次回は「低分子医薬品と抗体医薬品」について説明したいと思います。

それでは。

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