★疾患と薬/薬の開発

試験管レベルの実験で薬になりそうなものを見つける [★~★★]

投稿日:2017年12月17日 更新日:

年末は大忙しでなかなかブログがかけず、1ヵ月も放置してしまいましたが、何とか1つ書けました。
薬の開発の話を再開しますが、少し間が空いてしまったので、忘れてしまった方は以下復習を!

ウイルスを標的とした薬の開発-① [★~★★]
ウイルスを標的とした薬の開発-②(タンパク質の構造の観点から) [★~★★]

前回まで(インフルエンザの話ではなく、薬の開発の前回)、ウイルスを話の例にとり、ウイルスの増殖にかかわるタンパク質の働き(機能)を阻害する物質が薬になる、という話をしてきました。
(ポリメラーゼを例にとり、説明しました)

それで、タンパク質(ポリメラーゼ)をパックマンに見立てましたが、薬がパックマンに結合して、DNAやRNAがパックマンに結合できなくなると、DNAやRNAが増殖できなくできなくなるので、その結果ウイルスをやっつけることができる、という説明をしました。

前回の図↓

それでは、そのような物質(パックマンに結合して、DNAやRNAが増殖できなくする物質)はどのように探せばよいのでしょうか?

一番単純な方法として考えられるのが、色んな物質をかき集めてきて、それらがDNAやRNAの増殖を抑制するかどうかを調べる方法です。(DNAやRNAが増えたか減ったか確認する)

一般の方からすると、そんなことどうやって調べるの?と思われるかもしれませんが、例えばDNAは意外と簡単に目視で確認することができます。

実験でよくアガロースゲル電気泳動という方法が使われるのですが、長さの異なるDNAを判別(分離)するのに使います。
DNAをゲル(ゼリーみたいなもの)の中に入れて電気をかけると、DNAの大きさの違いで分離します。
下の写真はDNAの写真です。

電気をかけて分離した後、エチジウムブロマイド(通称エチブロ)という物質を溶かした液体の中に数十分入れておくと、エチブロがDNAに結合します。
エチブロはDNAに結合した状態において、紫外線を当てると光るので、それによりDNAが目視で確認できます。(なお、エチブロ単独では紫外線を当てても光りません)

こちらで、DNAは目視で確認できるということが分かってもらえたと思います。

ずっとポリメラーゼの話をしてきたのに申し訳ないのですが、アガロースゲル電気泳動で話を進めたいので、ポリメラーゼではないタンパク質を例にとって説明します。
(私がポリメラーゼによるDNAの増殖を、アガロースゲル電気泳動で検討したことがないので)

ポリメラーゼはDNAを増殖するタンパク質ですが、それとは逆にDNAを分解するタンパク質というのがあります。DNase(DNアーゼ、DNA分解酵素)と呼ばれるタンパク質です。

体の中のDNAは、必要があるときもあれば、逆に必要でないときもあります。
必要のないDNAが体の中に溜まるとよくないので、DNAを分解するタンパク質(DNase)が働いています。
DNaseがDNAに作用すると、下のようにDNAが分解されます。

ここで、DNaseの働きを抑制する物質が存在すると、DNAは分解されません。

私がこのDNaseの働きを抑制する物質を探す研究をしていましたので、そのとき実験していたときの写真をおみせします。

一番左はDNAがDNaseで分解されたものです。
右に行くにつれ、DNaseの働きを阻害する物質の量を多く入れています。
DNaseの働きが完全に抑制されると、一番右のように、DNAの分解が完全に抑えられています。

このように、タンパク質の機能は目視で確認できるものもあります。

ちょっと補足ですが、上の写真の実験は、体の中で起こっているDNAの分解を検出しているものではありません。
DNAとDNase(タンパク質)のみが存在するチューブの中で検討したものです。

簡単な実験ですので、やり方について説明します。
まず材料として、以下のものを用意します。

●DNase(タンパク質)…購入できるタンパク質もあれば、購入できないタンパク質もあります。購入できないものは自分でタンパク質を作ります。(方法はまたの機会に)
●DNA…長さが同じDNAを大量に用意します。
以下括弧内は一般の方は無視してください。
(プラスミドと呼ばれるDNAを使っています。大腸菌を使うと簡単に増やせます。
なお、プラスミドは丸い環状のDNAですが、制限酵素というDNAのハサミで直鎖(直線上)にして使っています。)
●DNaseとDNAが作用(化学反応)するのに適した溶液
(緩衝液(もしくはバッファー)といいます。pHをが変化しないようにした溶液です。高校の化学ででてきますね!)

それでは、実験スタート
①試験管(チューブ)に緩衝液とDNAを入れ、氷の中でチューブを冷やしておきます。
②DNase(タンパク質)を加えます。
(氷の中であれば、タンパク質は作用しません。タンパク質は体温(37℃)で働きます。)
③37℃に設定した箱の中に入れます。
このとき、DNAにDNaseが作用開始します。(全てのサンプルを同時にスタート)
④一定時間(数10分ほど)経過したら、タンパク質を壊すことのできる液体を微量入れて、DNAとDNaseの作用を止めます。
⑤このサンプルをアガロースゲル電気泳動し、DNAを検出します。

こんな実験をして、タンパク質の作用を阻害できる物質を探します。
この実験は準備から終了まで約2~3時間程度で完了する簡単な実験です。
(①~④で準備含めて1~2時間、⑤で1時間程度)

下の写真は複数の物質を同時に試したときのものです。
DNaseの機能を阻害しそうな色んな物質を用意して試しました。
各物質の量(濃度)をそろえておき、どの物質がDNaseの働きを阻害するかを確認しました。

せっかくですので、この写真の説明をします。
一番左はDNaseを加えず、DNAのみです。これを分解されていないDNAの基準とみなします。
一方、左から2番目は、DNaseを阻害しそうな物質を入れていないものです。これを分解されたDNAの基準とみなします。(DNAが最も分解されたときの基準)
そして、この左から2番目を基準とし、DNaseを阻害しそうな物質をいれたところについて、どの程度DNAの分解が抑制されたかを確認します。
(左から2番目が基準ですので、これよりもDNAの分解が促進した場合は、逆にDNaseの作用を促進したことになります)

一番左、もしくは左から2番目のような基準をコントロールといいます。
どんな実験でもバラつきがでるので、基準を設けることが大切となります。
例えば、今回の実験でのDNAの分解程度と、はじめにお示しした実験(右に行くほどDNAの分解が抑制、の写真)でのDNAの分解度合いは見た目違いがあります。
同じように実験をしているのですが、この程度差が出てきます。
よって、いつも基準を設けて、基準に対してどの程度かを見る必要があるのです。

いかがでしたでしょうか?
今回は実験でタンパク質の働きを阻害しそうな物質(薬になりそうな物質)をみつける、というお話でしたが、イメージ沸きましたでしょうか?
今回紹介した実験は比較的簡単で、DNAを染めるだけで確認できるのですが、直接目視できない微量な蛍光や放射能などを検出する実験もあるので、ポリメラーゼの話を含め、次回説明したいと思います。

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