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インフルエンザの薬の効果③ [★]

投稿日:2017年11月19日 更新日:

インフルエンザの話の最終回です。
これまでタミフルを例に挙げて話を進めてきましたが、他の薬についても気になる方がおられると思いますので、まずは主に使用されているインフルエンザ治療薬について紹介します。

注射の薬は除いて、経口で主に使用される薬はタミフルを含めて3つあります。
・タミフル(一般名:オセルタミビルリン酸塩)…2001年2月発売
・リレンザ(一般名:ザナミピル水和物)…2000年12月発売
・イナビル(一般名:ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)…2010年10月発売

タミフルとリレンザはほぼ同時期に発売され、イナビルはその約10年後に発売されました。
イナビルは比較的新しい薬と言えますね。

それではこの3つ、何が違うのかについてみていきましょう。
主に違うのは使い方です。
・タミフル…お薬を1日2回、5日間飲みます
・リレンザ…こちらは吸入する薬です。1日2回、5日間、専用の吸入器で吸入します
⇒タミフルとリレンザでは、1日2回、5日間という点は同じですね
・イナビル…1回吸入するだけで終わりです(薬をもらってその場で吸入すれば終わりです)

治療の簡便さという点ではイナビルが優れていると言えます。(新しい薬としての利点と言えます)
私も2年前にインフルにかかったときはイナビルをもらいました。

それでは効果についてはどうでしょうか?
この中で最も新しいイナビルについて、添付文書をみてみます。

イナビルの添付文書P3の右から【臨床成績】の記載があります。
まず(1)成人の試験はプラセボと比較する試験ではなく、イナビル(ラニナミビルオクタン酸エステル水和物)とタミフルの有効成分(オセルタミビルリン酸塩)で比較しています。

罹病期間は
イナビル…73.0時間
タミフル…73.6時間
ですので、ほとんど変わらないですね。
尚、表のすぐ上に「非劣性が検証された」という記載があります。
こちらは、イナビルがタミフルに比べて劣っていないことが証明された、という意味になります。

よって、どちらも効果としてはほとんど変わらない印象です。
使い方の面でイナビルの方が優れていますので、私ならイナビルを好みます。
ただ、吸入薬って本当に体の中に吸い込めたのかが実感できない感じもしますので、飲み薬(タミフル)を好む方もいるのではないかと思います。

次に添付文書の続きで「(2)小児 1)3~9歳」のところをみてみましょう。
罹病期間は
イナビル…56.4時間
タミフル…87.3時間
なので、小児(3~9歳)ではイナビルの方が優れているようにみえます。
実際、統計学的にもイナビルの方が優れている結果となっています。

~「統計学的に優れている」について(一般の方は飛ばして構いません)
ちょっと専門的になりますが、表の一番下、中央値の差の箇所をみると、-31.0時間とあります。これは、タミフルよりもイナビルの方が罹病期間が31.0時間短かかったことを示しています。ただ、この値は中央値(最も短かった人の時間と、最も長かった人の時間の真ん中の値)であり、人によってばらつきがあるため、統計学的な評価ではそのばらつきも視野にいれなければなりません。今回の場合、95%信頼区間の範囲全体が0を下回っていれば統計学的にも差があると言えます。95%信頼区間は「-50.3~-5.5」であり、この範囲が0を下回っていますので、統計学的に差があると言えます。
~ここまで~

この試験ではイナビルの方が優れているという結果でしたが、成人の試験では差がありませんし、ウイルスの型や臨床試験に参加した患者さんによっても異なる可能性もあり、1つの試験結果のみで判断するのは早計かもしれません。
ただ、このような結果が示されているのも事実ではあります。

ということで効果についての話は終わりとなりますが、最後に作用機序について簡単にお話します。
ネットで検索すればすぐに出てきますが、上記3つの薬とも作用機序は同じで、ノイラミニダーゼというウイルスの持つタンパク質の働きを抑制します。
ノイラミニダーゼが何をしているタンパク質かというと、ウイルスは
①ヒトの細胞の中で増殖した後
②細胞から出ていき、
③次の細胞に入っていきますが、
この②の細胞から出ていくために、ノイラミニダーゼが必要になります。
タミフル、イナビル、リレンザのいずれもこの②の過程を抑制します。
ウイルスが細胞から出られなければ、次の細胞に入って増殖することができませんので、ウイルスの増殖を抑制できることになります。
(インターネット上にイラストで説明している記事が多々あるので、詳しく知りたい方は「インフルエンザ」+「ノイラミニダーゼ」で画像検索してみてください)

いかがでしたでしょうか?
3回にわたり、インフルエンザ治療薬の話をしてきました。
次回からまた「薬の開発」の話に戻ります。

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