★疾患と薬/薬の開発

疾患(病気)の原因と薬の標的 [★~★★]

投稿日:2017年10月8日 更新日:

今回から新シリーズということで、薬の探索(開発)の話をしていきます。
その準備も含め、まずは少し基本的な話からしていきます。

そもそも疾患とか病気とかいうのは何を指しているのでしょうか?
一方で健康というのはどういうことなのでしょうか?

一般的に、何も苦痛なく、人体に悪影響が及んでいない状態をどうやら「健康」と呼んでいるようです。
逆に苦痛があったり、人体に影響が及んでいたりする状態を「疾患や病気を有する」というようです。

そんなのいわれなくっても当然だよ!
と思われるかもしれませんが、「健康」の定義についてきちんと考えてみると、あれ?何が「健康」なんだろう? と疑問をもつものです。
というのは、自身が健康だと感じていても、実際には疾患(病気)を持っている人って結構いるかと思います。
若いうちは健康とか気にしないかと思いますが、30代、40代と年がかさむにつれ、何かしらの症状や異常がでてくる方が多いのではないでしょうか?
私も会社の健康診断を毎年受けているのですが、全ての検査項目がA判定(最も健康の状態)ということはなく、いくつかの検査項目でB判定やC判定が出ることもあります。
このB判定やC判定の基準というのは、人体への影響を考慮され、専門家によりきちんと定義されているものかと思いますので、異常を意識していなかったとしても「人体に影響が及んでいる」可能性があるということで、上記の「疾患や病気を有する」と言えそうです。
(例えばLDL-コレステロール値が「B判定」であったとしても、あまり気にされない方も多いかと思いますが、健康に比べたら異常ではあります)

そう考えると、「健康」というのを一くくりで言うのは難しく、例えば肝臓は「正常(=健康)」だけど、腎臓は「軽度な異常(=疾患や病気を有する)」など、細かく分けて考えないと「健康」という定義がきちんと定まらない気がします。
(あくまでも私の考えです)

ちょっと余談が長くなりました。

それでは次に、疾患(病気)の原因について考えていきます。
疾患は大きく分けて2つに分類できるかと思います。(あくまでも私の案です)
(なお、毒を飲んでしまったり、有毒ガスを吸ってしまったり、というのは省きます)

1つはウイルスや細菌など、体外に存在する有害な生物が体に侵入して起こるもの(外的な要因)、
もう1つは体の機能がおかしくなり起こるもの(内的な要因)、
この2通りに大きく分けられると私は考えています。

1つ目(外的な要因)は分かりやすいですね。
風邪を一度も引いたことがないっていう方もたまにおられますが、いわゆる「感染症」です。

2つ目(内的な要因)は1つ目以外のものとなります。
というと分かり難いかと思いますが、高血圧、糖尿病、うつなどの精神病、リウマチなどの自己免疫疾患、そして癌(がん)、これら全て体の機能の一部がおかしくなり起こるものです。

例えば、高血圧では血圧を上昇させる機能が亢進しています。リウマチなどの自己免疫疾患では必要以上に免疫の機能(ウイルスや細菌などを排除する機能)が働いてしまうことにより起こります。がんは元々正常の細胞が変化することにより起こります。このように、大抵の病気では体の中の機能が少しずつ変化して起こってきます。

~付け加え~
厳密には、1つ目のタイプの疾患と2つ目のタイプの疾患の原因は混在しているとも考えられます。例えば、1つ目のウイルスや細菌の感染ですが、免疫機能がしっかりと働いていればやっつけることができるので、免疫機能が低下しているときに起こりやすいものです。「免疫機能の低下」というのは上記2つ目の「内的な要因」ですので、ウイルスや細菌の感染も「内的な要因」が原因となって起こるもの、とも考えられます。ただ、ウイルスや細菌がいなければ免疫力が低下していたとしても感染症にかかりませんので、この場合の一番の原因は免疫力の低下ではなく、ウイルスや細菌であるかと思います。
一方でがんは正常細胞が変化したものですので2つ目の「内的な要因」としましたが、正常細胞ががん細胞に変化する原因としてウイルスや細菌も考えられていますし、喫煙や放射能など外的な環境も原因と考えられているので、厳密には「内的な要因」のみで起こるものではありません。同じように、高血圧にしても糖尿病など2つ目のタイプの疾患全てが、「外的な要因」も関連しています。ただ、2つ目のタイプの疾患では、その疾患を悪化させている内的な要因(自身の体の中に備わっている機能の異常)が必ず存在しています。
~付け加え ここまで~

 

それでは、この知識を基に薬の標的について考えていきます。
1つ目のウイルスや細菌に対する薬ですが、こちらの薬の標的は考えやすいですね。ウイルスや細菌そのものをやっつけられる薬があればよいのです。「ウイルスや細菌をやっつける」=「ウイルスや細菌が増殖できなくする」ということです。
よって、ウイルスや細菌が増殖するために必要な因子(タンパク質など)を妨げることのできるものが薬となります。
(妨げることを、「阻害」と呼びます)

一方で2つ目について大雑把に考えると(こちらは1つ目以外の全ての疾患ですので、とりあえず大雑把に考えてみます)、体の中にはそれぞれの疾患を亢進している因子(タンパク質など)がありますので、その機能を妨げる(阻害する)ことのできるものが薬となります。例えばがんではがん細胞の増殖を促進しているタンパク質があり、そのタンパク質を阻害することでがん細胞の増殖を防ぐことができます。高血圧でも血圧を上昇させる因子(これもタンパク質など)があり、その機能を阻害することで血圧を低下することができます。

~タンパク質について~
「タンパク質」という言葉がタイプ1とタイプ2両者に共通する薬の標的としてでてきましたので、少し説明しておきます。
「タンパク質」という単語について、食品とかでも「タンパク質が多く含まれる食材」などと言いますので、大多数の方が知っているかと思いますが、体のほとんどの機能はこの「タンパク質」がメインで働いていると言っても過言ではありません。例えばタンパク質以外の「炭水化物」や「脂質」、「ミネラル」なども人が生きていくために必須のものですが、それらはエネルギー(力の源のようなもの)や細胞を構成している膜などの成分として、またタンパク質が働くための補助的な役割として使用されるものであり、「機能」とは異なるものです。「機能」というのはもう少し複雑なもので、「細胞を増殖する」、「有害な異物を排除する」、「食べた物を分解して消化する」などで、これらは様々なタンパク質が機能して行われています。

最近では「遺伝子」という言葉がメジャーになりましたが、タンパク質はこの「遺伝子」という人体の設計図を基に作られるものです。逆に言うと、タンパク質の設計図が遺伝子です。ヒトとサルでは大分異なりますが、この違いも遺伝子の違いであり、作られるタンパク質が異なっているからです。
というと、タンパク質の重要性について分かってもらえるかと思いますがいかがでしょうか?
ちなみに、ヒトには約10万種類ものタンパク質があり、それぞれが別々の機能で働いています。

これらのタンパク質の機能が必要以上に働いたり、働かなくなったりすると、体に異常が生じます。それを「疾患」や「病気」と呼んでいるのです。よって、異常の原因となっているタンパク質の機能を制御することのできるものが薬ということになります。
一方で、1つめの疾患のタイプのウイルスや細菌もタンパク質を有しており、遺伝子もあります。よって、ウイルスや細菌が増殖に働くタンパク質を阻害するものが、それらの薬となります。
~タンパク質について ここまで~

このように、1つ目の疾患タイプのウイルスや細菌による疾患(外的要因による疾患)であっても、2つ目のそれ以外の内的要因による疾患であっても、主にタンパク質が薬の標的となります。ただし、前者の外的要因の方ではウイルスや細菌が持っているタンパク質が標的となっており、後者の内的要因の方ではヒトの持っているタンパク質が標的となっている、という違いがあります。

ちょっと長くなりましたが、いかがでしたでしょうか?
次回はタンパク質を標的とした薬の話に少し入っていきます。

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