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水虫② 爪白癬のぬり薬は役に立つ?[★]

投稿日:2017年7月30日 更新日:

前回に引き続き、水虫をテーマにお送りします。
今回は爪の水虫、「爪白癬」の話です。

爪の水虫ってあまり意識しないかもしれませんが、こんなのです。

爪白癬の治療ですが、以前はぬり薬がなかったため、飲み薬を飲むケースが多かったかと思います(レーザー治療なども行われているようですが)。飲み薬は全身に回りますので、副作用の懸念もあることから抵抗感を抱くことが多いかと思います。そのために、爪白癬でも飲み薬を飲まなかった方も多かったようです。

時代は変わり、ついに爪白癬に使えるぬり薬が登場しました。
初めて出たぬり薬は「クレナフィン」(一般名:エフィナコナゾール)という薬で、2014年に販売開始されました。
その後、2016年に2つ目のぬり薬、「ルコナック」(一般名:ルリコナゾール)が登場しました。

しかしながら、「クレナフィン」「効果」などのキーワードでネット検索してみると、17~18%しか効かない?なんて記事があったりして、な~んだ、ぬり薬が出たのに効かないのか~。そりゃ楽に治療できるなんて中々ないよね~。なんて思ってしまわれるかも。
でも、本当に効かない薬なのでしょうか?
前回と同様に、クレナフィンの添付文書インタビューフォームを使って、本当のところを調べてみることにしました。

まずはクレナフィンの添付文書をみていきます。(2頁しかありませんね)
1頁目の右下から2頁目の左上にかけて、臨床成績の結果が記載されています。

~添付文書をすぐにみれる環境にない方へ(外出中などで)~
こんなデータです。(必要あるところのみ抜粋)
国際共同第Ⅲ相試験
52週目の完全治癒率
全体 本剤群:17.8%(117/656例)、基剤群:3.3%(7/214例)
日本 本剤群:28.8%(53/184例)、基剤群:11.9%(7/59例)
※自分でデータをみる訓練のためにも、なるべく添付文書をダウンロードして確認するようにしてくださいね!
-ここまで-

表をみてみると、たしかに本剤群(クレナフィンを使った患者さん)で17.8%という数値があります。
(17.8%というのは、100人中17.8人!)

その下に日本:28.8%とありますが、この臨床試験では外国人と日本人が混ぜ混ぜになっている試験なので、日本人だけのデータもみたいということで、日本人のみデータを抽出して記載されています。
(外国人と日本人で効果に違いがあることがあるため、分けて検討しています)
日本人では、若干割合が高いので。効き目が高いようにみえます。

~基剤群とは?~
なお、基剤群というのが本剤群の右に書かれていますが、これは何でしょうか?ぬり薬というのはそのもの全てが有効成分ではなく、油の成分や水の成分、界面活性剤、添加物といったベースとなるものの中に入れ込んであります。このベースとなるものが基剤です。基剤にはベースとなる成分の違いにより、軟膏、クリーム、ローションがあります(聞いたことありますよね?軟膏はベタベタしているやつで、クリームは軟膏よりもさらさらしています)。基剤群は有効成分が入っていないベースのみをぬった患者さん、つまり偽物をぬった患者さんの結果です。
こういう偽物のことをプラセボ(偽薬)と言うことがあります。
(今回は基剤群、とよばれていますが、よくプラセボ群というのがでてきますので、覚えておいてください)

薬が入ってないのに全体だと3.3%、日本人だと11.9%の効果がありますが、そんなことあるのでしょうか?臨床試験では、実は患者さんは本物の薬を飲んでいるのか偽物を飲んでいるのか、分からないようにしています。人間って不思議なもので、薬をぬっていると思いこんでいると効いてしまうことがあるのです。それをプラセボ効果と言います。
⇒プラセボについては単独記事として、後で別立てします。
-基剤群とは? ここまでー

話を戻して、全体で17.8%、日本人の方が若干効果が高いようで28.8%の結果でしたが、このデータのみをみて考えると、2~3割くらいの人しか効かないように思えてしまいます
でもこの数値、どういった数値なのでしょうか?

この数値については、表の上と下に「完全治癒率」と記載されていて、表下の説明をみると”「感染面積0%」かつ「真菌学的治癒」の割合” と記載されています。
「かつ」というのは「両方ともに満たす」という意味です
実は、この「完全治癒率」というのをきちんと理解していないと結果がきちんと理解できません

「感染面積」というのは目視で見て、爪の面積としてどれくらいの範囲が侵されているということで、「感染面積0%」だと見た目完全に正常に戻った状態ということです。
一方、「真菌学的治癒」というのは、爪を採取して、検査によって白癬菌がいるかどうかを確認し、いる場合は「陽性」、いない場合は「陰性」とします。

菌がいなくなれば徐々に正常に戻っていきますので(再度感染しなければですが)、「真菌学的治癒」となれば治ったのも同然と考えられますが、爪白癬の場合、菌がいなくなっても爪の変色や肥厚は元に戻らないので、そんな爪の状態で治ったっていえるのか?という突っ込みも入るということで、見た目も正常に戻っていることを治癒の条件としているのです。

ここで考えなければならないのは、臨床試験の期間です。
一度侵された爪は元に戻らないので、菌がいなくなった状態で爪が完全に生え変わらないと「完全治癒」にはなりません。
足の爪が完全に生え変わるには、1年から1年半かかるといわれています。
そうすると、薬をぬって完全に治癒するまでの期間というのは、①菌がいなくなる+②爪が完全に生え変わる、の2段階のステップが必要です。
そうすると、単純に考えると2年くらい試験期間が必要に思えてしまいますが、実際どうでしょうか?
添付文書で確認したいのですが、記載されていないので、次はインタビューフォームを確認することにします。

前回の復習ですが、臨床試験の項目は「Ⅴ. 治療に関する項目」の中です。この「3. 臨床成績」に記載があります。先ほどの添付文書と同じ臨床試験を探してみると、P14に同じ試験の結果がのっています。
(5)検証的試験 2) 比較試験 ①国際共同第Ⅲ相臨床試験 のところです。

すると、
投与期間:48週間
観察期間:52週間
とあります。
48週間ぬり続け、その後4週間ほど経過を観察して52週目に評価しています。

爪が生え変わるのに1年~1年半かかるというのを考えると、ちょっと観察期間が短いですね。これだと「感染面積0%」になるにはちょっと期間が短いように思えます。
そう考えると、完全治癒率が全体(外人+日本人)で17.8%、日本人で28.8%数値が低いことを根拠にこの薬が効かないとは言えなそうです。

インタビューフォームの同頁には「完全治癒率」以外にも結果がいくつか掲載されているので、少し掘り下げてみていきます。

<副次的評価項目>と書いてある下の表ですが、「真菌学的治癒率」が記載されています。これ、先ほどの「完全治癒」の定義のところの片方のみです。つまり、爪を採取して検査して「陰性」であった割合です。言い換えると菌がいなくなった人の割合です。

結果ですが「55.2%」とあります。(日本人のみというのはここにはのっていませんね)
「完全治癒率」の17.8%と大分差がありますね。
半数以上の人で、菌がいなくなったということです。

菌がいなくなれば、後は爪が生え変わるのを待つのみですので、おそらくもう少し時間が経てば、完全治癒を達成できる方の割合は増えていくように思えます

ということで、「完全治癒率」の数値に引っ張られていると効果がない薬と思ってしまいがちなのですが、その数値が何を表しているのかをきちんと考えて、他のデータもあわせて考えていくと、本当のところがみえてきます。

つまり、この薬は半数近くの人で効果が見込まれる、と私は思います。
仮に私が爪白癬だったら、使ってみたいです。

ちょっと長くなりましたが、いかがでしたでしょうか?
表面的な数値に惑わされず、一つ一つ数値がどういうものであるのかを確認していけば、薬がどれくらいの効果がありそうなのかは自分自身で判断できるようになるかと思います。

次回は少し話を変えて、薬の量と効果・副作用の関係について記載したいと思います。
それでは。

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